5 異世界の夜が明ける
徐々に室内が明るくなっていく。夜明けが近いのだろう。眠るには少々寒過ぎてわたしたちは食べ物がおいしいといいねえとかそんな話をしながら時を過ごした。
ギシッ。
ギッ、ギッ。
突然聞こえた音にわたしたちはおしゃべりをやめた。
内側からはびくともしない木製の大きな扉がすこしだけ揺れている。おそらくわたしたちを召喚したひとが来たのだろう。
毛布代わりの布の下で左側にいる小梅と右側にいる千花ちゃんの手を握った。ぎゅっと力を入れたら二人とも同じように握り返してくれた。
多分大丈夫だろうけど、悪の組織のひとじゃありませんように。
ガタンとひときわ大きな音がしてやがて扉が両側にゆっくりと開いていく。わたしたちは立ち上がることもせず体育座りのまま扉の向こうを凝視していた。
そこに立っていたのは金髪碧眼の美少女の見本のような女の子だった。
金ピカではなくやわらかく輝く金の髪はゆるくウエーブして肩より少し下。目の色は青と緑の間のやや青寄り。お化粧はしていないと思う。透き通るような肌にぱっちりとした二重瞼。鼻筋が通った小振りの鼻に口角がやや上がったピンク色のくちびる。
なんだか完璧なパーツが絶妙に配置されている、そんな感じだった。まさに神に愛されたとしかいいようがないかわいらしさ。
着ているものは生成りのやわらかそうなワンピースで腰にはゆるく飾り紐のようなものが二重に巻かれて左側でちょうちょ結びにしてある。
足元は皮で編み上げたサンダル。本物のグラディエーターブーツ?グラディエーターサンダル?
美少女は部屋を見た後ゆっくりと視線を下ろして床に座っているわたしたちに気付いた。
(あ。固まった)
美少女はぱちぱちとまばたきをしたあとは目を大きく開いたままこちら見て固まったままだ。
「@:.:***@*++」
動かない美少女の背後から何か聞こえて、すぐに第二の人物が現れた。
男の人。神官?衛士?やはり生成りのワンピースだけど美少女が着ていた膝下丈のふわっとしたものに対し、男の人はくるぶしまでのすとんとしたワンピースだ。でも腰に剣がある。神官は帯刀しないよねえ。
彼は部屋の床に何かいることに気付いてすぐに剣の柄に手をやったけれど、幸い抜刀されることはなかった。やはりびっくりした顔で固まっている。
「なんかさ、喜ばれてるっていうよりかは驚かれてない?」
小梅が小さな声でぼそぼそと呟く。
「そうだね、あの感じだと巫女じゃなくて男の勇者希望だったんじゃないかな」
千花ちゃんがやはり小さな声で答える。
「やっぱり三人は多過ぎ?」
とわたし。
異世界人との初対面は無難だったのかそうじゃないのかよくわからないまま終了した。