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4 勇者?魔法使い?いえいえわたしは・・・・・




「ところで勇者かな、巫女かな」

「勇者じゃないの」

「なんで」

「なんとなく」

「何それー」


 小梅と適当な予想をしていたら千花ちゃんが「ねえねえ」と割り込んできた。

 季節は初夏あたりっぽいけど夜だし石造りの部屋だし少し寒いので三人で身を寄せ合って台に置いてあった布を毛布のようにかぶっている。どうやら台は祭壇で、布はそれにかけてあったんだけどわたしたち召喚されてるしもう祭壇を多少ぐちゃぐちゃにしちゃってもいいだろうってことで。


「二人は何をお願いしたの?わたしは”魔法”にしといたんだけど」

「そりゃあもちろん”身体能力強化”でしょ、運動神経五倍増しな感じで」


 千花ちゃんの質問に小梅が答える。

 そうなのだ。わたしたちは異世界に召喚されてあげる見返りに異世界でより長く生き延びられるようにおまけの能力をもらえる。

 魔力強化と身体能力強化が主な能力だ。

 千花ちゃんがギリシャ彫刻なおじさまに聞いたところによると、女の子はほとんどの子が魔法を選び、男の子は八割弱が魔法を選ぶ。魔法の方が圧倒的に多いらしい。そうだよねえ、男の子は強い自分に憧れるかもしれないけれど日本はもう六十年以上戦争をしていない。相手が悪者だとしても勇者として何かを”殺す”という行為はちょっと怖い。命懸けの戦いなどゲームでプレイ出来ても実戦で自分の身を置くのは厳しい。返り血とか、無理。


「莉子ちゃんはどっちにしたの?やっぱり”魔法”?」


 わたしは首を振る。


「莉子、戦うの?」


 わたしはもう一度首を振った。

 言っておくがわたしはそれほど不器用でもないし、運動神経が悪いわけでもない。

 一時期皮細工にはまった千花ちゃんとワイルドな手芸を楽しんだし、小梅に付き合って校舎の二階から飛び降りたこともある。小梅が膝の使い方と体重の移動で二階の高さくらいなら飛び降りても怪我をしないとかいうスタントマンのやり方をどこからか聞いてきて一緒に実験させられたのだ。

 でも千花ちゃんのように学校に内緒で(中学校はもちろん高校もアルバイト禁止だった)小物をセレクトショップに卸して小遣い稼ぎを出来るほど器用ではないし、初めてスノーボードをしにいったスキー場で偶然開催されていた大会にエントリーして優勝してしまった小梅ほどの運動神経はない。

 でもわたしは運が強かった。わたしが、ではなくて家系がそうらしい。我が家はいわゆるフツーのサラリーマンである父が働いているだけで母は専業主婦だ。どちらの実家も一般家庭。それなのに一応東京にローンの終わっている持ち家があり、娘は家から出て私大に通っている。

 なぜそんなことが可能なのか。父はコンスタントに宝くじを当てるのだ。母と結婚してからの年平均額約300万円。

 そんなわけで母はわたしが小学校3年のときに仕事を辞めて専業主婦になった。そしてその母は毎週一回は家に何かが届く懸賞の猛者。わたしはわたしで父や母程ではないけれどちょこちょこ宝くじや懸賞やテストのヤマなどを当てていた。


「”運”を強化してもらいました。長所を伸ばす方向で」

「夢があるというかないというか」

「大ピンチになってもなんとか生き延びるのはやっぱり”運”かなあって」

「もしかして三人一緒に召喚されたのも莉子の”運”のおかげかもよ」

「そうだねえ、一人だったら相当心細かったよねえ」

「でも”運”もあったんだ」

「オカマさんが珍しいって言ってた。”運”を強化するのは初めてだって。でも超美形にしてくれってひとはたまにいるらしいよ」


 京都の街がマーブル模様に変化していく中、超早口のやりとり、実質二十秒もない時間でいわゆる”祝福”を授かったことをわたしは遠い目をしながら思い出していた。


 あのオカマ、仕事出来ないタイプに分類してもいいですか?


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