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1 自己紹介します

 



 龍泉莉子りゅうせんりこです。

 生まれも育ちも東京ですが京都に憧れて京都の大学に進学しました。京都大学じゃないですよ。そんなに頭は良くありません。

 単位はきちんと取りつつバイトとサークルと遊びをほどほどに楽しんでいます。なぜか彼氏はまだ出来ません。サークルの先輩や友人たちは


「莉子はそんなに悪くもないんだから適当なところで手を打たずに慎重にいきなさい」


 となぐさめてくれます。自分でもそんなに性格も悪くないし顔も中の上(自分で言った!)くらいだと思うのですが運がないというかなんというか。

 今まですごく好きになった男の子は告白と同時に去って行きました。振られたわけではありません。転校する前に「実は莉子ちゃんのこと好きだったんだ」と告白してそして遠くへ。わたしも好きだったのに!そんなことならさっさと言ってくれればよかったのに!

 ちなみにこれが三回あります。小中高と一回ずつです。高2の終わりにこれをくらったときにほんのちょっと悟りを開いたような気分になりました。



 さて、今日からいわゆるゴールデンウィークです。

 地元の仲良しの小梅と千花ちゃんが遊びに来ます。小梅とは保育園から千花ちゃんは小学校から一緒です。高校は三人バラバラになったけれどずーっと付き合いは続いています。友達よりかは家族に近い存在というほうがしっくりくる感じ。


 小梅はあまり勉強が好きではなかったので高校卒業後に就職しました。最初は普通にOLさんになったのだけれど全然合わなかったみたいで三ヶ月持たずに辞めました。その後近所に出来たレストランにアルバイトに行ったらその仕事が向いていたらしく今ではそのレストランの正社員です。ゴールデンウィークは高校生バイトがいっぱい来るから休んでいいよと店長さんが言ってくれてサービス業なのにゴールデンウィークに一週間も休みをもらえました。でも普段は週休一日だしその休みもときどきなくなっちゃうらしい。小梅は働き者です。

 ちなみに今部屋でぐーぐー寝ています。夜行バスで今朝早くに着いたのです。バスで寝られなかったらしく今寝ています。午後には千花ちゃんが到着するのでそのときに起こします。


 千花ちゃんは北海道で大学生をしています。わたしと違ってしっかり国立大学に通っています。千花ちゃんは頭が良いのです。しっかり者の千花ちゃんは家庭教師のアルバイトでおこづかいを貯めて京都に遊びに来てくれるのです。


 わたしもアルバイトをしていますが週に二回ちょこっと働いてもらうバイト代は甘いものとか安い洋服とかに変わってしまいほとんど貯金できていません。千花ちゃんがいるうちに北海道にも行ってみたいけれど先立つものが・・・・・。北海道貯金をはじめよう。うん。


 結局一日目はどこにも行きませんでした。伊丹から京都駅の八条口までバスでやってきた千花ちゃんを迎えに行って荷物をわたしのアパートに置いて出かけるはずが、ちょっと休憩とお茶を淹れたのが間違い。久しぶりに会った女の子の話はノンストップでそこからずーっとおしゃべり。

 夕方になっておなかがすいてきたので近くのファミレスで晩御飯。帰りにコンビニでお菓子を買って、アパートに帰ってから順番にお風呂に入りつつまたおしゃべり。結局おしゃべりが終わったのは窓の外が明るくなってきた頃で。うん。おしゃべりしながら眠りに落ちていったのです。


 最初に起きたのはわたし。二人は移動の疲れとかもあるだろうし小梅にいたってはちょっと生活のリズムがおかしなことになっていたから。今回は一週間の滞在予定だからあせらなくてもいろいろまわれるだろうからそんなに心配もしていないのだけど。でも今日もどこにも行かないのもどうかなあ、と思って二時ごろに二人を起こした。せめてどこか一か所くらいはね。


 相談した結果なぜか京都駅に。お寺とかは閉門の時間とかあるから。三時過ぎにアパートを出て京都駅へ向かった。駅ビルの上から街を眺めてそのあともっと暗くなってから京都タワーにも上ろうって。ゴールデンウィークなだけあってものすごい混雑具合でした。人だらけ。駅ビルの広い階段のところはエスカレーターも階段もすごくひとがいっぱい。普段ここにくるのは平日が多いから(大学生ですし)見慣れた風景とのギャップにわたしもちょっと引き気味。


「やっぱり普段より人多い?」

「全然違う。こんなにいないよ」


 千花ちゃんの質問に答えながらぐるりとあたりを見回す。わたしと千花ちゃんはエスカレーターの同じステップに、小梅は知らないひとと一段上のステップにいる。


「ねえ、ここなんか息苦しいし何かあったら危ないから階段にしない?」

「え?!階段で一番上まで?」


 小梅の提案にわたしと千花ちゃんはちょっとなー、と思ったけれど一度くらいいいか、と一旦エスカレーターが切れたところで流れから外れた。でもここも人だらけで小梅はすすっと人の間を器用に抜けたけれどわたしと千香ちゃんはもたもたと人の海で右往左往していた。そのとき大きな声が聞こえて何だろうと視線を動かした先で見たことのない光景が。


 長いエスカレーターの上から三分の一くらいのところから尻もちをつくような感じで人々がドミノ倒しの要領で倒れていく。真ん中くらいの人まで倒れたところで尻もちが崩れた。それまでとんとんとんと順番に尻もちだったのがそこからぐじゃぐじゃに人が。

 多分そこまでは一段置きに人が乗っていたけれどそこからは一段開けずにぎゅうぎゅうにエスカレーターに人が乗っていたのだと思う。とにかくそこからはもう人の列はぐじゃぐじゃになってそのうち人が転がり落ち始めた。気付いたひとが手すり越しに階段の方に避難しようとして、でも階段も人だらけで階段でも将棋倒しに人が倒れて数秒でそこらじゅうが悲鳴だらけになった。

 どうしていいかわからなくて立ち止まっていたら後ろから押されて、転がり落ちてくる人をよけようと前の方にいたひとは逃げようと動いている。後ろや前から押されてふらふらしていたら


「莉子!ちーちゃん!」


 小梅の声が聞こえた。先に行ったはずの小梅が戻ってきてわたしと千香ちゃんの腕をひっぱる。ああ、逃げなきゃと一歩踏み出したところで悲鳴が一段と大きくなった。将棋倒しがここまで到達してしまったらしい。


「早く!」


 それが小梅の最後の声だった。わたしの横で一緒に倒れる小梅からごりっというイヤな音が聞こえた。多分指とか腕とかの骨よりももっと太い骨が折れた音だ。床ではなく誰かの体の上に倒れ込む。


「莉子ちゃん!小梅ちゃん!」


 千花ちゃんの声が聞こえるけれどわたしは返事ができなかった。だれかのナイロンバッグがちょうどわたしの顔に覆いかぶさった。息が出来ない。息が出来ないだけじゃなくて体が圧迫されていく感じ。きっと何人かわたしの上に乗っているのだろう。


「莉子ちゃん!小梅ちゃん!」


 千花ちゃんが叫んでいるけどナイロンバッグは動かないでわたしの呼吸を妨害する。ほんとに息が吸えない。吐けない。苦しい。熱い。わたしと小梅の名前を何度も呼ぶ千花ちゃんの声が小さくなっていく。



 ああ、死んじゃうんだなあ、と思った。

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