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18 ゴスロリ、それは魔法少女の戦闘服である




 砦に戻ってから次々にすれ違う執事たちのあたたかいまなざしに何度となく心が折れそうになりながらも千花はなんとかあてがわれた自室に戻った。


「きゃー!!!チカちゃん!か・わ・い・いーーー!!!」


 魔法ポットでお茶を淹れてひといきついたところに莉子とコブシが部屋にやってきたのだ。

 既に莉子が説明したのか二人とも腕に何か抱えているがおそらく千花が着る服だろう。


「どうしてどうして?前のよりも断然こちらの方が素敵です!かわゆいです!」


 コブシは千花のゴスロリ服を目をハートにして眺めている。


「よかったら譲ろうか?サイズは小さくする分にはわたしが調整するよ」

「ええっ。いいんですか?でも、これ、魔法使いのローブなんですよね?」

「そういうんじゃないから。ただのゴスロリ服です」


 今日何度目かの遠い目になりながら千花が答える。

 ゴスロリが悪いわけでも憎いわけでもないが、千花の中ではゴスロリは十代の洋服であった。

 十代なら構わないというわけではなく、千花基準では十八歳でぎりぎりというより非推奨、十九歳はアウトなのだ。ちなみに千花は一応十代だが二十歳の誕生日待ちの十九歳。自主基準で不可であった。


「すごく素敵だけど、着て行く場所がないかなあ…」


 とても残念そうにくちびるをとがらす美少女を見て、千花は何が何でもこの服をコブシに譲ろうと心に誓った。


「ねえ、千花ちゃん」

「はい」

「さっそくなんだけど試してみたら?変身」

「あ、うん。えっと、それが借りていい服かな?」


 千花は莉子が抱えている布に目をやる。


「そう。あ、そのままで一度試した方がいいんじゃない?」

「なんで?」

「もしかするとゴスロリが二着になるかもよ」

「がはっ。…………。いい、これはコブシちゃんに譲るから。コブシちゃん、たまにはドレスアップする機会あるよね?」


 千花がやさしい調子で問うとコブシは頬をピンクに染めて恥ずかしそうにちょっとだけ頷いた。


「というわけでちょっと着替えてくるね」







「なーぜー(棒読み)」


 数分後、砦の一室では床に手と膝をつきがっくりとうなだれる千花の姿があった。

 部屋のバスルームでこちら風のワンピースに着替えた千花はいろいろと考えた挙句、小さな花の飾りがついたヘアピンを莉子に借り呪文を「パンプル~」のみにして小さな声で唱えることにした。千花の中ではなんとなく「キャノ」は強調語なのだ。そして莉子の話だとまず変身がありその後に派手な演出があったということなので(リオンやステラに言わせたら最初から最後までド派手そのものなのだが)「パンプル~」が変身「パラリン~」は演出及び応用的なものと考えたのだ。

 ヘアピンを手にささやくように呪文を唱えたのだが結果は黒のラメ入りシースルーリボンによる演舞及びゴスロリ服一着お届け!であった。


「しかもまたこれだし…」

「違うよ、千花ちゃん。ボンネットがカクテルハットになってる!」


 かわいいーときゃっきゃと喜ぶ莉子とコブシをうらめしそうに見上げるが二人とも気付いていない。


「カクテルハット、っていうんですか?この帽子とってもかわいいですー」


 そういえばカクテルハットも考えたけど帽子作るのに時間かかりそうだからボンネットにしたのよね、と千花は当時のことを思い出す。


「千花ちゃん、どうする?もう一回試してみる?」

「えーと…」


 コンコン。


「小梅だよー。入っていいかなー?」


 ノックのあとのすぐあとに小梅の声がした。


「今開けまーす」


 千花はずるりと立ち上がると扉まで歩き一応掛けていた内鍵を外す。

 開いたドアの向こうには小梅がひとりで立っていて千花を見て一瞬固まる。


「これは、また、ずいぶんと…」


 小梅はどちらかといえば千花寄りというか誰よりもゴスロリから遠い所にいた。小梅は基本ジーンズだ。似合う子が着ている分には全然問題がないと思うし千花も十分似合っていたが心の機微にさとい小梅には千花がこの格好を全然喜んでいないことがすぐにわかった。


「ちーちゃん、だいじょぶ?」

「ダメかも。何度も心が折れまくりんぐ」

「……。ちーちゃんこっち来てちょっとキャラ変わったみたいだね」

「それはあるかも」


 よろよろと自分に倒れこんできたゴスロリ千花をよしよしと抱きしめて小梅は苦笑いした。

 小さい頃から手芸が趣味でいろいろとかわいいものを作っている千花だが彼女自身の服装や持ち物は基本シンプルだ。小学生の頃、クリスマスプレゼントとして莉子に渡したティッシュケースは莉子が喜びそうな花柄の布地にレースを縫い付けた乙女ちっくなもの、小梅には生成りと青のボーダーの生地で錨の柄の飾りボタンがついたものをくれた。そのとき千花が自分用に作っていたのは飾りのない無地のもので裏地が水玉柄のティッシュケースだった。マルチドットといういろんな色の水玉が柄になっているそれをいつも無地だからちょっと冒険してみた、と照れながら話していた千花を思い出す。


「これはちょっとちーちゃんの許容範囲超えてそうだね」

「わかる?なんなの、この罰ゲーム」

「でも魔法使えるようになったんだ。よかったね」

「それは、うん、ありがとう」


 それから多少の休憩をはさみつつ、千花の部屋で試行錯誤が繰り広げられたのだが結果は千花にとって残念極まりないものであった。

 とりあえず、魔法を使おうとするとなにはともあれゴスロリになってしまうのだ。

 魔法の前提条件がゴスロリ着用とかここどんなファンタジー世界やねん、と小梅がうそくさい関西弁で突っ込んだりもしてみたが突っ込んだところで何が変わるわけでもなく。


「わたしのこころ、今日だけで何本折れたかしら…」

「ちーちゃん、しっかり!」

「でも白一色とかパステルな感じのロリータじゃないから、まだ、ね?」


 莉子のなぐさめは微妙だが確かにそうかもしれない。ここの時間の流れと日本での時間の流れの違いがよくわからないが日本では二十歳の誕生日まで一か月を切っていた。二十歳をすぎてパステルピンクでうさぎたんのぬいぐるみが標準装備だった日には自分は生きながら白い灰になれると千花は思う。


「これをゴスロリだと思うからダメなんじゃない?どこか目立たないところに『天誅』とか『一撃必殺』とか刺繍をいれて特攻服って言い張るとか」

「トッコーフク?」


 聞き慣れない単語にコブシが疑問のまなざしを莉子に向ける。

 莉子がコブシに特攻服の説明をはじめ、それもありか?と千花が考えはじめたところでストップがかかった。


「まてまてストップ!やめてよ特攻服とか。美術が3のあたしのセンスでもあれはなし!」





 小梅の教育的指導により特攻服法案は廃案となったがその理念は女性魔法使い戦闘服法案へと継承され無事満場一致での可決を見たのである。

 ちなみにこの法案はゴスロリと呼ばずに戦闘服という名称を推奨するという罰則なしの骨抜き法案であり、いわゆるささやかな慰めである。

 そしてこの後、女性の魔法使いの間に戦闘服ブームが起こるかと思われたが、そのようなことは一切なかったという。

 めでたしめでたし。









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