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15 マスコットガール・マスコットボーイ




 結局のところ『認識の共有』なんてことは早々にあきらめることとなった。

 なぜっていちいち共通点を確認する、あるいは相違点を探し出すことがとんでもなく面倒だったからだ。

 召喚されてきた三人と組んだものがそれぞれ気を配るというなんともあいまいな結論に落ち着いたのである。

 莉子、千花、小梅はこちらの世界のものとなんとなくコンビを組むことになっている。千花は魔法使いでもあるエルフのステラと、小梅にはゴブリンのケンケンと妖精のララパ、そして莉子にはドラゴンのリオン。莉子にリオンがついたのは莉子が一番弱そうだったのでそれなりに強いドラゴンがついたというのと、莉子の名字が「龍泉」と聞いたコブシが


「龍の泉という家名なんてドラゴンのリオンともしかして見えない運命の糸……キャー」

「莉子さんの『り』とリオンの『り』って一緒よね……キャー」


 などと中学生女子のようによくわからない理論で勝手に盛り上がってしまい、そんなコブシを誰も止められなかったからだ。

 そう、美少女コブシはこの執事があふれる勇者ゆかりの(と言われている)島の、つまりちいさな永世中立国ハチヤの領主の娘であり、領主などとは言っているがよそから見れば王族の娘であり、血筋は関係なく時折島に生まれる巫女でもあったりするというなんとも上品で上等なお嬢様なのだ。


 そして午後、千花はステラとともに島の寂れた海岸に魔力解放の練習に行き、莉子は鍛練場にリオンやその他の執事から護衛術のいろはを学びに、小梅はケンケンとララパとともにセバスチャンに倉庫という名の武器庫に案内されていた。

 セバスチャンの説明を聞きながら順番に武器を見て回る。

 この世界での兵士の標準の装備は剣ないしは槍だそうだ。ただそれは軍隊など集団で動く時の武器で、冒険者とよばれたり傭兵、あるいは盗賊といった個人あるいは少人数で動くものたちはその限りでなく、己の力に見合った大剣や棍棒あるいは投げナイフ等の投擲系、魔力を使えるものだと弓矢やレイピアなどを使うらしい。


「各国の軍隊に女性兵士はほとんど存在しませんが冒険者にはそれなりにいます。ただエルフやドラゴンや亜人はともかく、人間の場合は魔力持ちがほとんどですね。ですから戦う女性というと弓矢、レイピア、魔法杖がほとんどでしょうか。剣の方ももちろんいらっしゃいますが比較的体格のよい方と思います」

「レイピアってこれですよね」


 小梅が武器庫の壁に並ぶさまざまのものの中のひとつを指差す。

 細身のそれは確かに女性でも扱いやすそうだが魔力のない小梅がこれを使う場合はどうだろう。すぐに折れたり曲がったりしそうな気がしてならない。


「うーん、やっぱり普通の剣で小さめのがいいのかなあ……。ちょっとこれ手に取ってもいいですか?…………って重っ!セバスチャンさん、こども用の剣ってあります?」

「どうでしょうか。大陸にいけばあるかもしれませんがこども用ですと儀式的なもので装飾がおおく刃がつぶされていると思います。こども用を探すより自分用に作ってもらう方がいいかもしれませんね」

「この島に刀鍛冶の方って」

「残念ですがコウメさま、この島は建前上、武力と武器を所持しないことになっておりまして」

「あ、だから執事さんなのか。そうするとここにあるのは?」

「倉庫に保管してある燃えないゴミ、ということになっております」

「むー」


 島に鍛冶職人はもちろんいて壊れた武器武具を修理するのは暗黙の了解があるが、ひとつの武器を一から作るというのはやはり問題があるらしい。

 一応武器庫にあるものをひととおり見せてもらったが小梅の気に入るものは残念ながらなかった。武器庫の前でセバスチャンと別れ三人は鍛錬場の近くのいつかの木の根元で座りながら話をしていた。


「どうするんだコウメ」

「どうしようかなあ、なんかこう『これだ!』っていうのがなかったんだよねえ。そういえばケンケンの武器って?」

「そんなものあるわけないだろう」

「え?素手で戦うの?」

「ぼく、戦うのか?」

「え?」

「え?」

「……ねえ、ララパ」

「はい、なんですの?」

「まさかあなたも戦わないとか言うわけ?」

「なぜわたくしが戦うんですの?」

「…………あれ?」


 そしてまた新たなこちらの世界の常識が判明した。

 ゴブリンと妖精は戦力外であった。

 過去の戦いでどうであったかはわからないが現在では妖精はいるだけでよいというラッキーアイテム扱い、ゴブリンはその存在を野生動物などが嫌うことから行軍における蚊取り線香的扱いなんだそうだ。


「でも魔物除けにはならないんでしょう?」

「ならないがゴブリンがいればクマやオオカミは近寄ってこないしゴブリンは魔物に反応するのが速いからな、十分にお役立ちだ」

「でもそうするとこの三人で出かけた場合、戦力ってあたしだけ?」


 それっておかしくない?おかしいよね?おかしいって!っていうか、まじかーーーー!


「もしかしてあたしが二人をかばいながら戦うの?さすがにそれはきついんじゃないかと…。ねえ、一般的にそういうのについていって戦闘になったとき妖精とかゴブリンってどこでどうしてるわけ?」

「たいていぼくたちは指揮官と一緒にいるから必然的にまわりに近衛とか護衛のひとがいっぱいいるしね」


 使えねえ、まじ使えねえ…。なにこれ、もしかして口ばっかり達者な小生意気なガキ二人のお守りしながら魔物退治なの?そうなの?二人とも無駄に偉そうな口きいたりするのに実は何もしないでぼーっと立ってるだけの係なの?


「コウメ、心の声がダダ漏れですわ。そしてその言い方はどうかと思いますけど、強く否定はできませんわ」

「とりあえず苦情はどこに言ったらいいのかな。あたしも莉子みたいにドラゴンさんに相方をお願いしたいんだけど」

「ひどいよコウメ!それじゃあぼくたちがお荷物みたいじゃんか」

「そうですわ。妖精はいるだけで勝利を呼び寄せるのに、その言い方はあんまりですわ」

「あー、はいはい。あなた方はお荷物係ではなくマスコットガール、マスコットボーイなんですね。ええ、わかります。わかりますとも」


 木の幹にもたれかかり、遠い目になる小梅であった。



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