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14 リオンの正体




 棒術で対戦した小梅とリオン。

 簡潔に言うと格が違った。

 小梅には打ち身ひとつ、かすり傷ひとつない。

 リオンの脇腹に一回だけ打撃も与えた。


 が、しかし。


「リオンさんめちゃめちゃ強いじゃないですか。魔物とどっちが強いんですか?」


 額に浮かぶ汗もぬぐわず鍛練場にひっくり返った小梅が呟く。


 スピードと奇襲のみと考えた小梅の動きは完全に読まれていた。

 ダメもとで繰り出す打撃も突きも簡単に弾かれる。早々にあきらめてギアチェンジした小梅の速さにもリオンは当たり前のように反応した。

 何度か防いだリオンの棒はただの木の棒には思えないくらい重かった。手がしびれて落としそうになった棒を気合で握りしめつつ小梅は戦った。


 夢中になっていたのでどれくらいの時間が経っていたかはわからないが少し疲れを感じ始めた頃、ふいに自分を取り巻く空気がスローモーションのように感じられてそのとき見えた空白に迷わず手にした棒を地面と平行に振り抜いて、そして棒の先がリオンの脇腹を確実に捉えた。

 てのひらに伝わったのは今まで棒と棒がぶつかりあった時のような重さではなく、肉と骨、生きているものの体に棒がめりこむ感触だった。なんとも言えない人生で初めての感触。棒を取り落としそうなったがなんとか離さずにがんばった。がんばったけどひざが笑って立ってられないと思ったときにセバスチャンの「そこまで!」という声が響いた。そこで一気に気が抜けて小梅は棒を放り出し鍛練場に仰向けに転がったのだ。


「わざと、ですよね」

「はい」


 リオンが穏やかに返事をした。

 小梅の棒の先がリオンの脇腹に当たった時、彼の目が少し笑っていたのを小梅は見逃さなかった。


「なんで、ですか?」

「平和な世界からおいでになったのでこういった経験がないのではないかと」

「はい、ありませんでした」


 不良でもなければ極真をやっていたわけでもない。日本の普通の女の子にひとを殴った、ひとに手をあげた経験はなかった。もちろん足を出したこともなければ頭突きをしたこともなかった。


(莉子に偉そうなこと言っちゃったけど、あたしも覚悟なんて出来てなかったのかも)


 小梅は寝ころんだまま既に日が昇り澄みきった青に変わった空に自分の両手をかざした。

 てのひら、甲、てのひらと交互に自分の手を見る。

 魔物はひとじゃないけれど生きているものにはかわりがない。この島を出て魔物退治の旅に出たらいくつもいくつもの魔物をこの手で葬り去るのだろう。そのたびにあの感触をこの手に感じるのかと思うとちょっとだけ気が滅入った。


「大丈夫ですか?」

「ええ、多分」


だいじょうぶ。根拠はないけどそう思った。


「それよりリオンさん、おなかは平気なんですか?」

「ええ、全然問題ありません」

「そんな・・・・・。少しくらいダメージ受けてもらわないとわたしの立場が・・・・・」


 ギアチェンジしたのにこの程度で魔物退治なんて出来るのだろうか。


「大丈夫ですよコウメさま。リオンでなかったら今頃医務室ですから」


 セバスチャンの声に小梅はあわてて起き上がる。


「はじめてにしては上出来すぎですよ。120点です」


 にこにことうれしそうな顔で近寄って来たセバスチャンに小梅は首を傾げる。


「リオンにあそこまで打ち込めるとは、さすが勇者さまの国の方は違いますね」


 セバスチャンの後方にいる執事の方々もとてもいい笑顔頷きながら小梅を見ている。



 わ・け・わ・か・め。



「やるじゃん、やっぱりこれくらいでないとぼくがケンケンになった意味がないからね」


 いつのまにか横に来ていたケンケンがよいしょと傾いていた小梅の顔を正常な位置に押し戻す。


「でもケンケン、あたし全然だったよ」

「ドラゴン相手にあそこまで出来れば十分だろ。しかも初めてなんだろ、こういったことが」

「ドラゴン?」

「ああ」

「ドラゴン?」

「ああ」

「誰が?」

「誰がってめっちゃドラゴンだろ」

「だから誰が!」

「誰ってリオン以外に誰がいるんだ?」

「は?」

「は?」

「は?って、え?え?・・・・・ええーっ!!!」

「ちょ、うるさいよ耳もとで。っていうか今更どこで驚くんだ?」

「だってめっちゃ人間じゃん!」

「いや、それをいうならめっちゃドラゴンだろ。どこをどう見てもドラゴンだろ」

「わけわかんないんですけど」

「だからこっちがわけわからん。ん?そういえば・・・・・」


ケンケンは何かを思い出し、セバスチャンに話しかけた。






 朝の食堂では莉子と千花が小梅を待っていた。三人揃ったところでありあまる執事さんたちが給仕をはじめる。

 遠慮したが数少ない仕事をとらないでくれと懇願されたので仕方なく給仕つきで食事をする三人。

 食後のフルーツを食べ終え紅茶を飲んでいるところでセバスチャンとリオンがやってきた。


「おはようございます、チカさま、リコさま。コウメさまはお疲れさまでした」

「「おはようございます」」

「先程はお世話になりました」

「ところでチカさまリコさまにお伺いしたいことがあるのですが」


 セバスチャンがいつものダンディースマイルで二人に問いかけた。


「はい」

「なんですか」

「これなんですが、何に見えます?」


 セバスチャンが『これ』といったのはどう見てもリオンだった。


「えっと、リオンさんのことですか?」


 戸惑い気味に千花が答える。

 莉子は質問の意味がいまひとつわからずに首を傾げた。


「そうです。何に見えます?」

「何と言われましてもリオンさんはリオンさんにしか見えませんが・・・・・」

「わたしも、です」


 戸惑いが続く千花と同じく莉子。


「もっとこう具体的にどんな感じでしょうか?」


 顔を見合わせる千花と莉子。

 先に口を開いたのは莉子だった。


「ええっと、『銀髪執事テライケメンなんで眼鏡じゃないのかな?』とかこんな感じですか?」

「やさしそう、とか背が高い?」

 

 千花は某鼻毛事件を思い出してしまったがその件については何も述べず当たり障りのないことを口にした。


「やはりケンケンくんの言うとおりかもしれませんね」


 セバスチャンはひとり納得したように頷いている。


「あのー」

「あ、申し訳ありません、今ご説明しますね。ここにいるリオンなのですが我々には『ドラゴンの人間形態』にしか見えないのですが、みなさまには人間にしか見えないということでよろしいでしょうか」


 な・ん・で・す・と???


 莉子と千花の上に盛大にクエスチョンマークが飛びかっている。先に知らされているはずの小梅も納得がいっていないのか控えめにクエスチョンマークを飛ばしていた。


「あたしもさっき聞いたんだけど、わかんないよね」

「うん」

「見えないっていうか意味がわかんない」


 きょとんとする三人にセバスチャンが説明する。リオンはドラゴンであり現在は人間形態を取っている。こちらの世界の人間はリオンが人間形態をとっていても一目見て男か女かがわかるように、あるいはそれ以上にはっきりとリオンがドラゴンであることがわかるという。中性的なひとをみてどちらかなと迷うことはあってもドラゴンを見てこのひとドラゴンかな?と思うことはまずないらしい。


「だからきのうのレジェさんがなんだか変な顔してたんだ」

 

 莉子がぽつりとつぶやいた。


「でもそう聞かされてもわかんないよね」

「うん、わからない」

「あたしも全然」

「もしかして魔物が魔物に見えない、とかないよ、ね?」

「なにそれ、洒落になんないんだけど」


 もうしばらくしたらどこかのファンタジー小説のように颯爽と魔物退治にでかける予定が(ただし莉子をのぞく)どうやらそう簡単にはいかないのかもしれない。


「認識の共有ということもかねて今日にでもまたみなさんに集まっていただいて、今後のことを検討した方がよさそうですね」


 セバスチャンの言葉に三人は大きく首を縦に振った。



 


 

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