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9 ムラマーの謎




 自己紹介のあと、エルフの王様と黒将軍が中心になって(ごめんなさい、名前が・・・・・)前回の魔物騒動の話をしてくれました。コブシちゃんにもちょこっと聞いてたんだけどね、王様と黒将軍の話の方が詳しくてわかりやすかったです。ほら、コブシちゃん女の子だからちょこちょこ話が脱線するんだよね。わたしもひとのこと言えないけど。

 王様の渋い声でドラゴンが身を挺して仲間を助けるところとか涙なしには聞けないストーリーでした、はい。そしてドラゴンが人型になれるようになったのはサダツグさんのおかげとか。


 というわけで、好奇心が止まらない小梅がどうしても今すぐにドラゴン見たい!と言いだして我々は砦の外に出てきております。

 自称ドラゴンの男の人、確かレジェさんとかいうお名前だったような、が砦の陰に行って戻ってきたらもうドラゴンでした。変身シーンが見たかったのですが魔法少女の衣裳のような補正機能はないらしく人間の時は着衣、ドラゴンの時は全裸というわけで男性ドラゴンが若い女性の前で変身するのは、というより公衆の面前で変身するものではないらしいです。

 おそらく砦の陰にきちんとたたまれた人間の服があるのでしょう。

 そしてドラゴンは西洋風のドラゴンでした。そうだよね、翼の下に仲間を隠したって言ってたじゃない。なんで見るまで神龍っぽいのが出てくると思いこんでいたのかしらわたし。大きさは一戸建てくらいです。都内の狭小三階建てじゃなくて郊外の新興住宅地の二階建て、くらいかな。広めのお庭じゃないと着地できない、と思う。

 今回はレジェさんともうひとり(一匹?)のドラゴンでみんなを入れた籠をぶらさげてやってきたんだって。


 外に出たついでにセバスチャンさんがかくかくしかじか王様に話をつけてくれてエルフの王様立会いのもと千花ちゃんの魔力の解放実験をしましたが初回は不発でした。でも王様が千花ちゃんの魔力量?にお墨付きをくれました。人間ではトップクラス、エルフと比べても魔法隊長レベルだって、間違いなくこの世界で上位の魔法使い10人の中に入るって。

 すごいね千花ちゃん。


 いつのまにか砦の外の庭に簡易テントみたいなのが、えーと、天幕っていうんでしょうか、それが設置されテーブルとイスも用意されています。間違いなく砦の執事さんたちの仕業と思われます。さすが執事の名は伊達ではないようです。


 さわやかなハーブティーを飲みながらお話の続きです。

 今後どうするか。

 わたしと小梅も連れて行くのか、みたいな話になっています。いつの間にか千花ちゃんが勇者認定で(魔力ハンパないみたいですから)千花ちゃんは強いから大丈夫だろうけどわたしと小梅は普通の女の子なんだから無理だろうと。この島で千花ちゃんが魔物討伐して帰ってくるのを待つのがいいんじゃないか、とか話は勝手にそんな方向へ。

 話を聞きながらその方が危なくないしいいかなあともちょっぴり思ったけど、わたし”運強化”だから千花ちゃんと一緒に行った方がいいと思うんだよね。千花ちゃんのピンチをわたしの運で救うのだ!


「わたしも行きます」

「あたしは行くよ」


 ほぼ同時に付いていく宣言をしたわたしと小梅に視線が一斉に集まりました。

 そんなに見つめられるとちょっと恥ずかしいんですが。


「しかし、リコさま、コウメさまも・・・」


 言いかけたセバスチャンさんを手で制し立ち上がってわたしは言った。


「わたし、魔法は使えないんですけど運がすごいんです。ピンチの時にきっと役に立ちます。それに何より千花ちゃんだけ行かせられません」

「あたしもここでじっとしてるつもりありませんから」


 すぐにそう言って小梅もわたしの隣に立った。

 みんながこんなこと言ってるけどどうする、みたいな感じで目配せをしたりしていると


「役立たずがついてきても邪魔なだけで迷惑だっつーの」

「遊び気分なんじゃない?旅行にでも行くつもりなんだよ」


 ゴブリンくんのつぶやきとそれにこたえる妖精ちゃんの言葉が静かな天幕の中をを通り抜けた。


「ふーん。ずいぶん偉そうな口ぶりだけどそういうあなたはどれだけ強いのかな?フェイン・テル・シェロノマーリグル・カヤ・シグル・ラーズラーザラノイ・シノ・ヴィトニブル・パラン・ヴォルドスギエーブル・ノエンザライ・フェイハラトランスミーネン・ザガフェくん?」


 まさに電光石火の早業で小梅がテーブルを飛び越え、むこうのテーブル越しにゴブリンくんの胸倉つかんで宙に浮かせています。そして空いているいる左手はちょうちょを捕まえる要領で妖精ちゃんの羽をしっかりつかんでいました。


「あなたもね、スノートラン・エルナーレ・コルガ・エミエイル・エイエイルリーナ・ソラチョ・ポニエールちゃん」


 もともと運動神経がよいことは知っていましたが”身体能力強化”の効果、パネェです、先生。なんかもう魔法レベルの速さじゃないのこれ。小梅の動きが見えなかったような。

 それよりなによりあの無駄に長過ぎた二人の名前を暗記しているらしいことの方がびっくりなんですけど。なんで覚えられるかな?身体能力強化のおかげ???


 ん?あら?小梅、みんなめっちゃひいてるみたいだけどいいのかな?





 とまあいろいろありまして、ゴブリンくんと妖精ちゃんは小梅の舎弟になったみたいです。

 普通人間がゴブリンや妖精を捕まえるのは不可能なんだそうです。誰の目から見ても小梅の速さは勇者レベルだった模様。

 それから小梅が二人のあの長い名前を覚えられたのは身体能力強化のせいではなく特技だって。レストランで働くようになってから自分がひとの名前と顔を覚えるのが実は得意かもと気付いたらしい。一度名前を聞けばたいてい覚えちゃう。領収書を切ったら確実。そんなわけでさっきの自己紹介のときは各自にエア領収書を切っていたとか。保育園の時からの付き合いだけど全然気付かなかったよ、小梅すごい。

 で、小梅はゴブリンくんと妖精ちゃんを勝手にケンケンとララパと名付けました。

 なんで元々の名前から取らないのかな?ゴブリンくんと妖精ちゃんは小梅に名前の由来を聞いてうなだれていました。


 わたしは運の強さを証明するのにどうしようか悩んで(コインの裏表を当てるのとかベタすぎるので)時間がかかりすぎてみんなにとりあえずもういいよ、と言われてしまいました。

 そんなに運がいいのならそのうち目にする機会もあるでしょう、と。さすがエルフの王様、太っ腹です。


 約一名ごまめの子がいる模様ですがとりあえずは日本よりおいでの三名様、祝☆勇者認定! わーわーぱちぱち。

 せっかくなので過去の勇者サダツグさんのお話など聞きたいと思います。十中八九日本人だもんね。親近感あります。


「サダツグさまの武勇伝は多く残っているのですが。魔王を倒したあとの話はほとんど伝わっていないのです。ドラゴン、エルフ、ドワーフとともに東の大陸を離れたことは確かなのですが、その後の消息は西の大陸でもほとんど伝わっていません。異世界に戻ったともこちらで結婚して子をなしたともいわれていますがどちらもおとぎ話のような感じです。魔王討伐後のサダツグさまについては意図的に情報が隠されたというのが歴史学者の通説です」


 へー、そうなんだ。


「それよりおまえさんたちはムラマーを持ってきていないのか?」


 ドワーフのおじさんに話しかけられました。ノールとかナールとかいう名前だったような気がしますが三人して似たような名前で三人とも似たような外見だったりでもうわけわかめ。せめて服の色か髪型かえてください。


「ムラマー?」

「なにそれ?ちーちゃん知ってる?」


 ムラマー。聞いたこともないんですが。


「あのう、ムラマーってなんでしょう?聞いたこともないんですが」

「なんだと!ムラマーを知らないのか!サダツグさまと同じところから来たのに知らないのか?!」


 びっくりと失望をあらわにそんな大声出さなくても聞こえます。聞こえるけどムラマー知らない。


「どのようなもので何に使うんですか?」

「剣じゃよ、剣。魔王を絶命させた伝説の剣じゃ。あのときのムラマーはなくなってしまったが、新しい勇者が新しいムラマーとともにあらわれると思っておったんじゃが」


 え?ムラマーないと魔王倒せないとか?ムラマーはもちろん最終兵器っぽい武器はなにひとつ持参していませんが。


「ムラマーは全ての剣士とドワーフの憧れだからなあ」


 黒将軍がぽつりとつぶやきました。


 剣士、ドワーフ、憧れ、ムラマー。

 ドワーフって確か鍛冶屋さんだったりするんだよね。

 ムラマー、ムラマー、・・・・・。もしかして、あれ?


「ねえねえ千花ちゃん、小梅、もしかしてムラマーってあれじゃないの、ムラマサ」

「ムラ、マサ?」

「?」


 千花ちゃんも小梅も首を傾げる。


「わたしも漫画か小説かでちらりと見たか読んだか、あまり自信ないんだけどさあ、ヨウトウムラマサって聞いたことない?」


 わたしはそういって木の枝を拾うと地面にガリガリ漢字で書いた。


  妖刀村正


「莉子ちゃん」

「何?」

「ニントウになってるよ」

「ん?」

「それじゃあ妊娠してる刀だよ。妊刀になってる」

「なにっっ?!?!」


 こっちの世界のひとは漢字は読めないみたいだけど、わたしたちの話はしっかり耳をすませて聞いていたようです。でも聞いてないふりをしてくれたりして、わたしはとっても恥ずかしかったです。

 協議の結果、ムラマーとは妊刀あらため妖刀村正ではないかということで新勇者三人の意見は一致しました。そしてそれをこちらの世界の方々に伝えたのですが


「ムラマーは持ってきていないのか?」

「伝説の刀っぽくて現存してても博物館かお金持ちとかの所有じゃないかと」

「作り方は知らないのか?」

「日本刀の作り方はなんとなーく説明できるかしら?どうかしら?」

「なぜ知らない?」

「わたしたちの時代、日本刀持ち歩いてるようなひとは基本いませんから」

「サダツグさまは持っていたじゃないか!」

「だから時代が違うんですよ」

「どれくらい違うんだ?」

「どれくらい?」


 どれくらいなんでしょうか?

 全然わからないんですけど。鎌倉時代?江戸時代?村正なんて教科書出てこなかったもの知らないよ。もしかしてサダツグさんって知るひとぞ知るとかだったりするのかなあ。一度も聞いたことないと思うんだけど。

 サダツグって武士っぽい気がするけど現代でもいない名前じゃなさそう。サダツグさんって刀を振り回している時代のひとと思わせておいて、もしかすると博物館の学芸員さんとかで収蔵品の村正を手入れしているときに異世界召喚されてしまった可能性もあるわけで。

 サダツグさんの名字がわかってわたしたち三人の中にひとりでも歴女がいたらサダツグさんのこととか村正のこととかすぐにわかったのかもしれませんねえ。あれ?サダツグって名字?名前?どっちだろ?


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