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第11話

「七つの大罪……!」


 ようやく、犯人の意図が、一つの形として見え始めた。


 最初の同時多発爆破、優先席を我が物顔で占領し、弱者を見下し、自分だけが座る権利を持つかのように振る舞った者たち。


 犯人は彼らも『傲慢(プライド)』と定義したいのだろ。


 そして、巨大な富と権力を握り、自らの利益のために社会を食い物にしてきた天楽建設の社長は、『強欲(グリード)』として処刑された。

 

 ここまでの流れを整理すれば、犯人がただ無差別に人を殺しているわけではないことは明らかだった。犯人は、この腐敗した現代社会そのものを『七つの大罪』になぞらえ、そこに当てはまると自ら判断した人間を選び出し、独自の歪んだ正義によって一人ずつ裁こうとしている。


 猟奇犯とも言える。テロリストでもあり、連続して人を殺すという意味ではシリアルキラーでもある。


 だが、どの言葉も奴の本質を完全には言い表していなかった。


 犯人は、自分自身をこの社会に蔓延する罪を裁く『執行者』だと思い込んでいるのだ。


 しかし、私の背筋を本当に凍らせたのは、犯人そのものの狂気ではなかった。


 その思想に熱狂し、進んで飲み込まれていく大衆の存在だった。


 特設サイトのコメント欄はSNSと連携されており、書き込みは秒間数百件という異常な速度で流れ続けていた。そこに群がる人間たちは、裁かれようとしている者の顔もろくに知らず、名前すら知らない者も多い。どんな人生を歩んできたのか、犯人が提示した罪状のどこまでが事実で、どこからが一方的な主張なのかを確かめようともしていなかった。


 彼らが見ているのは、画面に表示された数行の罪状と、犯人によって恣意的に切り取られた経歴や肩書きだけだった。


 それだけの情報を材料にして、誰を殺すべきなのかを選んでいる。


 まるでスマートフォンのゲームで、次に消去するキャラクターでも選ぶような気軽さだった。


『暴食の二世クン、親のすね齧って税金で高級フレンチ食うとか最高に豚じゃんww

 早くこんがり丸焼きにしてくれw』


『色欲ジジイか?

 弱み握って枕強要とかマジで吐き気。

 社会的抹殺じゃ足りねえわ、物理で消し飛ばせ!

 ポチッとなwww』


『傲慢ポリス大本命キターーー!

 動画でイキってたあの無能なオールバックだろ!?

 税金ドロボウが特等席で木っ端微塵になるとか最高のエンタメじゃん!

 俺たちの手で裁きを下そうぜ!』


『さあ、どのゴミから掃除する?

 俺たちの神聖な一票(笑)で決めてやろうぜww

 投票数リアルタイムで動くの脳汁ドバドバ出るわwww』


『こんなにワクワクする多数決、人生で初めてなんだけど!

 犯人様、特等席のライブ配信よろしく!!』


 画面の最下部では、無機質なデジタル時計が秒単位で締め切りまでの時間を刻み続け、そのすぐ横では四人の『大罪人』へ投じられた票数が休むことなく跳ね上がっていた。


 一票が入ったかと思えば、すぐに次の一票が加わり、その数秒後にはさらに何十票、という数字が積み重なっていく。


 犯人は、大衆自身に『誰を殺すか』を選ばせているのだ。


 彼らがいるのは、安全な場所だ。自宅でも、電車の中でも、職場の休憩室でもいい。顔も名前も晒さず、手元にあるスマートフォンの画面をたった一度押すだけで、一人の人間へ下される死刑判決に加担できる。


 犯人は、そんな彼ら自身を公開処刑の共犯者へ仕立て上げようとしている。


(……狂っている)


 私は無意識に拳を握り締めた。


(こんなものが、許されてたまるか!)


 このサイトを一刻も早く止めなければならない。私はサイバー犯罪対策課へ直接連絡しようとスマートフォンを手に取り、発信画面を開いた。


 だが、通話ボタンへ指を伸ばした瞬間、画面が突然固まった。


「……?」


 何度触れても反応しない。


 次の瞬間には、スマートフォンの画面そのものが強制的に漆黒へ切り替わった。微かなノイズがスピーカーから流れ、その直後、聞き覚えのある声が響いた。


『――美しいだろう、真下刑事』


「……!」





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