SLを見に行こうぜ
「SLを見に行こうぜ」
カバンにテキストを入れている彼女に、俺は声をかける。
「SL? 何のこと?」
「あ…えっと、これのこと」
俺がスマホを取り出し、写真を見せる。
そこには昔の黒い電車が写っており、彼女は納得したようだった。
「昔の電車のことね」
「まあ、そんなものだ。それが今、走っているんだよ。期間限定でな。見に行かないか?」
俺は爪の伸びた両手を合わせると、彼女に頼み込む。
ライオンの頼み事に、うさぎは迷ったようだが、数秒、考えた後、「うん、いいよ」と答えてきたのだった。
「本当? やった!!」
俺は大きく手を広げ、少しはしゃぎ気味に彼女の腕を引っ張る。
「ちょ、ちょっと」
「早くしないと、見逃しちゃう!!」
俺は彼女の腕を掴んだまま、走り出す。
学校を後にすると、外はむあっと熱気がこもっていた。
まるでフライパンで焼かれているようだと思ったが、俺は平気を装い、ぐいぐい彼女を引っ張っていく。
「も、もう少し遅く走って!!」
「大丈夫。あと少しだから。頑張れ!!」
俺が振り向くと、彼女は眩しそうに目を細める。
太陽の光が当たって見づらいのかと思ったが、そうではないようで、少しだけ首を傾げる。
それから進んで行き、俺はようやく足を止める。
「ここがベストポジションだ」
「え? 着いたの?」
踏み切りに辿り着き、俺は彼女を解放する。
それからスマホを取り出し、
「今、この時間か。もう少しで来るな」
「え? もう少しで来るの?」
「おう。写真、撮ったほうがいいぞ」
俺がスマホを調節しながら勧めると、彼女はカバンから使い捨てカメラを取り出す。
俺は「こっち、こっち」と彼女を手招きし、スマホを構える。
彼女はやや緊張しているようで、背中を叩いてリラックスさせてやる。
するとカンカンと遮断機が鳴った。
「来る!! よし上手に撮るそ!!」
俺は子どものようにはしゃぎ、SLを待つ。
彼女も俺と同じ方向をじっと眺めていると、黒い形が見えてきた。
こんな機会、滅多にないので、2人はごくりと唾を飲み込み、SLを待つ。
どんどんと近づいて来て、まるでファンタジーの世界に入ったかのようだった。
「あ、いいかも」
俺が今だと思い、シャッターを押す。
彼女も真似して押し始める。
SLはポッポと汽笛を鳴らし、俺と彼女に近づいて来る。
その間、スローモーションのように、長く感じられたが、現実的には速いようで、2人を置いて去っていく。
カンカンという音が止み、俺は見えなくなるまで、シャッターを押し続ける。
彼女がふーと息を吐き出したのて、お疲れ様と腕を叩いてやる。
それからスマホを見、俺は興奮する。
「撮れた!! しかも綺麗に!! 運転手さんの姿も写っているかもしれない」
「え? 運転手さん? 私、そこまで見られなかった」
彼女がえーと残念そうに言ってくる。
まるで好物を取られたうさぎみたいに、頰を膨らませるのだった。
「後で写真を送信してやるよ。その代わり、お前の撮ったの、ちょうだい」
「え。私、下手かもしれないよ?」
「いいんだよ。あー、すっきりした!! SLが間近で見られるなんて」
俺はスマホを持った手を伸ばすと、はあと息を吐き出し、彼女に顔を向ける。
「付き合ってくれて、ありがとうな」
「いいよ。私も楽しかったから」
彼女が可愛い顔で笑ってきたので、俺は頭を小突いてやる。
「喉が渇いたな。コンビニでも行くか?」
「うん!! 私ね、あのね」
2人はスマホとカメラをしまうと、楽しそうに歩き出したのだった。




