宝箱の中のきらきら輝く瞳は夜空にきらめく星
夜空にきらめく星のおはなしを、あなたに聞かせましょう。
変なおはなしですけど、びっくりしないでくださいね。
いいですか、ぜったいにおどろかないでくださいよ。
腰を抜かさないと、約束ができますか?
びっくりぎょうてんするのは、やめてくださいね! 指切りげんまんですよ!
いいですね。それでは、おはなしをはじめますよ。
はじめますよ。はじめますからね!
↑
こんなふうに、しつこく念押しておきながら、おはなしがはじまりません。
あなたは、だんだん腹が立ってきました。
「なんだなんだ、どうなっているんだ! いつまでたっても、おはなしがはじまらないぞ!」
運営に怒りのメッセージを送信しようとしていたら、画面が切り替わりました。
かわいらしい女の子の顔が見えます。こちらを向いています。あなたと目が合いました。
あなたは、その女の子を見たことがありません。
向こうも、あなたが誰なのか、わからないようです。
あなたと女の子は、しばらくだまって見つめ合いました。
やがて女の子は、あなたにたずねました。
「あの……もしかして、あなたは神様ですか?」
「は?」
その質問の意味がわからず、あなたはこんらんしました。それは仕方がありません。今までに、神様に間違われたことなんか、ありませんでしたから。
「えっと、違いますけど」
あなたは、そう答えました。女の子は目をパチパチさせて、呟きました。
「そうね。神様じゃないにしても、これはきっと神様の思し召しなんだわ」
女の子が何を言っているのか、あなたはわかりません。あなたがわかっているのは、その女の子のまつ毛がびっくりするくらい長いこと、それと、その女の子がすごくかわいいこと。これくらいです。
「すみません、どちらさまですか? お名前を教えてください!」
女の子は、あなたに向かって、そう聞いてきました。
あなたは自分の名前を答えました。それから、逆に女の子に質問します。
「そういう君は、誰なの?」
「ええっと……ナロといいます」
「なろっていうのか……それって、上の名前? それとも、下の名前?」
「あ、ペンネームです」
「ペンネーム?」
「わたし、アマチュアの小説家なんです」
そう言って女の子は、あなたに聞きました。
「今、お時間はございますか? お頼みしたいことがあるのです」
運営に苦情を言うのは後にしよう、とあなたは思いました。
「時間ならあるよ。それで、ぼくに何の用なの?」
「実は、おねがいがあるのです。わたしといっしょに、おはなしをかんがえてほしいのです」
あなたはおどろきました。おはなしをきくつもりだったのに、おはなしをかんがえるなんて!
「どうかお願い、いっしょにかんがえて!」
女の子は、あなたにいっしょうけんめい、たのみます。あなたは女の子にたずねました。
「君は、どうして、おはなしをかんがえないといけないの?」
女の子は答えます。
「おはなしのコンテストがあるのです。それに出したいのですが、もう時間がなくて。助けて! と神様にお願いしたら、画面にあなたが出てきたのです」
女の子の困り顔と同じくらい困った顔で、あなたは言いました。
「でも、ぼく、おはなしをかんがえたことなんてないよ」
女の子はニッコリ笑って言いました。
「だいじょうぶです。一行目はかんがえたのです。書き出しの文章は決まっていますから、その後につづくおはなしをかんがえていけばいいのです」
そういわれると、かんたんにできそうな気がしてきます。あなたは、女の子に言いました。
「わかった、いいよ。いっしょにおはなしをかんがえよう」
女の子は喜びました。
「それじゃ、最初の一文を言いますね。あの子の瞳はきらきら輝いている。これが一番初めの文です」
「あの子の瞳はきらきら輝いている」
「はい、そうです」
それから女の子は付け加えました。
「夜空にきらめく星のおはなしにしたいので、そういったストーリーでお願いします」
女の子の希望にぴったりなストーリーを、あなたはかんがえました。ですが、ぜんぜん、かんがえつきません。あなたは言います。
「違う文章にしない? 何も思いうかばないんだけど」
あなたの提案を女の子はうけつけませんでした。
「きらきらした話が書きたいので。夜空にきらめく星や瞳をきらきら輝かせた女の子のおはなしをお願いします」
「でも……何も出てこないよ」
「そこを何とか」
「きらきらした話がいいなら、大好きをたくさん詰め込んだ宝箱なんか、どうかな。きらきらした宝石や黄金がいっぱい入っているんだ」
女の子はかんがえこみました。
「そうですね……それじゃ、そういったおはなしでもいいです」
あなたは、宝箱を想像しました。宝箱を開けると、そこにはきらきらしたものがあるのです……いえ、違います。別の物がきらめいていたのです。
「ひらめいた! 宝箱の中身は、宝物じゃない、別の物にしよう!」
とつぜん大きな声を出したあなたを、女の子がびっくりした顔で見つめます。
「なんですか、それ」
あなたはこうふんして言いました。
「おはなしの主人公が大きな宝箱を見つけ、ふたを開けると、その中には可愛い女の子が眠っているんだ。その女の子が目をさます。その瞳がきらきら輝く。主人公は、その瞳を見た。瞳の中に吸い込まれるような気がした……と思ったら、本当に瞳の中に吸い込まれてしまうんだ。吸い込まれた先にあったのは、夜空にきらめく星のせかいだった。主人公は、地球に戻ろうと思った。その方法を見つけ出そうと、その星を探検するんだ。そして地球に戻る方法を隠した宝箱を見つけ出す。宝箱のふたを開けると、その中に可愛い女の子が眠っているんだ。やがて、その女の子は目をさました。主人公を見つめる。女の子のきらきら瞳を見た主人公は、その瞳の中に吸い込まれてしまう。気が付くと主人公は、女の子の瞳の中にある夜空にきらめく星の上にいる。そして主人公は、ふるさとの地球へ戻るために、その星を探検して、また宝箱を見つけ……というおはなしは、どうだろう?」
女の子は瞳をきらきら輝かせて言いました。
「面白いです」
あなたは得意顔で女の子のきらきら輝く瞳を見つめました……すると自分が、その瞳の中に吸い込まれていくような感覚になりました。そして気が遠くなります。
「あれ?」
気が付くと、あなたは<小説家になろう>の画面を見つめていました。文章が表示されています。
それは、こんな文章でした。
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夜空にきらめく星のおはなしを、あなたに聞かせましょう。
変なおはなしですけど、びっくりしないでくださいね。
いいですか、ぜったいにおどろかないでくださいよ。
腰を抜かさないと、約束ができますか?
びっくりぎょうてんするのは、やめてくださいね! 指切りげんまんですよ!
いいですね。それでは、おはなしをはじめますよ。
はじめますよ。はじめますからね!
↑
そう書いておきながら、おはなしはさっぱりはじまりません。
あなたはイライラして、運営に苦情を言おうとしました。
すると画面が切り替わります。かわいらしい女の子の顔が出てきました。
その女の子は、あなたにたずねます。
「あの……もしかして、あなたは神様ですか?」




