➆
「お母さんがしんどいの、減るといいねー」
夕焼けの中をベビーカーを押して歩く女性、その背中は来た時よりも真っ直ぐと伸びていた。
入店した時の顔色は、とても思い詰めていて悪かった。
その背を見送って、女性が男性に話しかけた。
「まぁ、俺たちに出来ることは、話聞くくらいだからなぁ……」
「ちょっとは役に立てたかなぁ」
「さあな。でもそう思ったらまた来てくれるんじゃないのか?」
一歳半検診であまりお金を持ってなかったから、とお母さんは雑貨を買って帰った。
気を遣わなくていいのにと断ったら、記念に欲しいのだとお母さんは笑っていた。
「そうだねぇ」
このカフェは、心がちょっと疲れた人がフラッとやって来ることが多い。もちろん普通の人も常連さんも居てるけれど。
そうした疲れた人には、劇の黒子のように、様々な事のアシスタントのように、時には倒れそうな背中を支えたり、時にはその背中をそっと押したりする。
それが、このカフェの心情だった。
カフェにくるお客様は、名乗ったりしない。その人が話すことが、その人の名刺であり全て。
対する私たちも、ただのカフェの店員さん。
フラッと出会って、時々交わって、そうして離れていく。
一期一会のちょっとした出来事。
その背が見えなくなって、店に戻ると、神棚の前に行く。
「素敵なご縁をありがとうございます。関わる人の全てに幸多からんことを」
二礼四拍手一礼。いつもの感謝といつもの願い。
今日も変わらず、カフェ《くろあし》の日々は続いていくーー。




