➃
「私、皆に聞いたんです。食べないからどうしたら良いのかって」
私の手に持った紙コップが、力を入れて少し歪んだ。
「お母さん、それでいいから頑張って続けて、とか皆言うんですよ」
自虐的な笑みを浮かべて、話は続けた。
「ご飯作って、食べなくて、捨てて。毎日毎日、朝も昼も夜も……」
好きなものに混ぜたら、そう聞いてお粥やパンにふりかけや出汁を、ほんの少し混ぜたりもした。
パンにはジャムを乗せたりもした。
けれど、目ざとく気づいて、子どもは泣いて怒るのだ。
1歳を過ぎてからは、指さしでこれが嫌だとハッキリと言うようにもなった。
ちらりと見つめた先、静かだなと思ったら、子どもはすやすやと、寝息をたてていた。
寝ている顔は、可愛い。でも……。
「夫にいくら相談しても、仕事が忙しいとか、いつか食べるだろとか、他人事で」
目の前の女性は、先ほどのフレッシュさがなりを潜めて、穏やかな笑顔で相づちを打ってくれる。
だから、ポツポツと話は止まらない。
「もうずっと、白米とパンとうどんをちょっとだけ……」
ミルクもあまり飲んでくれない。成長曲線には入っているけれど、生後4ヶ月から体重が全く増えていない。
それで良いと言われても、それで良いとは思えない。
「この前に親子教室にも行ったんです。焼き芋会、保育園の先生に、環境変えたら、周りの子どもが食べてたら、食べるかもって……」
給食の試食会、おやつの試食会もことあるごとに行ってみた。
前はダメだったけど、今なら違うかもしれない、と。
離乳食の初期から進みが悪かった。
1度休んで時間を置いて、再開するというのも試した。
離乳食の時間が嫌にならないように、ずっとにこにこと笑顔で接した。
急に食べ出すこともあるから、と食べない中、野菜や果物、お肉、魚に豆腐と出し続けた。
朝、昼、夜、ミルクの時間、食べるタイミングを一日中模索したりもした。
ベビーフードに頼ったりもした。けれど食べてくれない。
外なら食べるかもと飲食店やフードコート、公園なんかにも連れていった。
自治体の離乳食講座に行った。
自治体の栄養相談や育児相談にも行った。
保育園の育児相談にも行った。
メーカーの栄養相談にも行った。
予防接種や病気で小児科にかかった時に聞いたりもした。
医者にも、看護師にも、保育士にも、栄養士にも、保健師にも、皆に聞いた。
色々試して、色々調べた。
味付けを、見た目を、時間を、とにかく私は工夫を繰り返した。
「でも、食べてくれなくて!!」
離乳食だってタダじゃない。
アレルギーだって試さないといけない。
形状だってそう。嚥下や消化に関係してくる。
でも、食べないから毎食、毎日、ただゴミ箱に捨て続けるの繰り返し。
可愛いはずの子どもは、楽しいはずの毎日は、離乳食の時だけ、可愛くなくて、とても地獄に感じた。
「子ども、1歳半なんです。それなのに、頑張れって……」
離乳食を始めたのは生後4ヶ月ちょっとの時。休みを1ヶ月。それでももう、一年になる。
「頑張れないですよねぇ。もうずっと頑張ってるんですもん、お母さん」
女性がそう、私に言葉をかけてくれた。
「でも、やめることも出来ない。お母さんだから。他に代わってくれる人は、誰も居なかったから」
そう続けたのは男性で。
「……ご飯の時間が、来るのが怖い、……辛いんです」
私の溢した本音と涙が、室内に響いた。




