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喫茶くろあし  作者: 松平 ちこ


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4/7

「私、皆に聞いたんです。食べないからどうしたら良いのかって」


私の手に持った紙コップが、力を入れて少し歪んだ。


「お母さん、それでいいから頑張って続けて、とか皆言うんですよ」


自虐的な笑みを浮かべて、話は続けた。


「ご飯作って、食べなくて、捨てて。毎日毎日、朝も昼も夜も……」


好きなものに混ぜたら、そう聞いてお粥やパンにふりかけや出汁を、ほんの少し混ぜたりもした。

パンにはジャムを乗せたりもした。

けれど、目ざとく気づいて、子どもは泣いて怒るのだ。

1歳を過ぎてからは、指さしでこれが嫌だとハッキリと言うようにもなった。


ちらりと見つめた先、静かだなと思ったら、子どもはすやすやと、寝息をたてていた。

寝ている顔は、可愛い。でも……。


「夫にいくら相談しても、仕事が忙しいとか、いつか食べるだろとか、他人事で」


目の前の女性は、先ほどのフレッシュさがなりを潜めて、穏やかな笑顔で相づちを打ってくれる。


だから、ポツポツと話は止まらない。


「もうずっと、白米とパンとうどんをちょっとだけ……」


ミルクもあまり飲んでくれない。成長曲線には入っているけれど、生後4ヶ月から体重が全く増えていない。


それで良いと言われても、それで良いとは思えない。


「この前に親子教室にも行ったんです。焼き芋会、保育園の先生に、環境変えたら、周りの子どもが食べてたら、食べるかもって……」


給食の試食会、おやつの試食会もことあるごとに行ってみた。

前はダメだったけど、今なら違うかもしれない、と。


離乳食の初期から進みが悪かった。

1度休んで時間を置いて、再開するというのも試した。


離乳食の時間が嫌にならないように、ずっとにこにこと笑顔で接した。


急に食べ出すこともあるから、と食べない中、野菜や果物、お肉、魚に豆腐と出し続けた。


朝、昼、夜、ミルクの時間、食べるタイミングを一日中模索したりもした。


ベビーフードに頼ったりもした。けれど食べてくれない。


外なら食べるかもと飲食店やフードコート、公園なんかにも連れていった。


自治体の離乳食講座に行った。


自治体の栄養相談や育児相談にも行った。


保育園の育児相談にも行った。


メーカーの栄養相談にも行った。


予防接種や病気で小児科にかかった時に聞いたりもした。


医者にも、看護師にも、保育士にも、栄養士にも、保健師にも、皆に聞いた。


色々試して、色々調べた。


味付けを、見た目を、時間を、とにかく私は工夫を繰り返した。


「でも、食べてくれなくて!!」


離乳食だってタダじゃない。


アレルギーだって試さないといけない。


形状だってそう。嚥下や消化に関係してくる。


でも、食べないから毎食、毎日、ただゴミ箱に捨て続けるの繰り返し。


可愛いはずの子どもは、楽しいはずの毎日は、離乳食の時だけ、可愛くなくて、とても地獄に感じた。


「子ども、1歳半なんです。それなのに、頑張れって……」


離乳食を始めたのは生後4ヶ月ちょっとの時。休みを1ヶ月。それでももう、一年になる。


「頑張れないですよねぇ。もうずっと頑張ってるんですもん、お母さん」


女性がそう、私に言葉をかけてくれた。


「でも、やめることも出来ない。お母さんだから。他に代わってくれる人は、誰も居なかったから」


そう続けたのは男性で。


「……ご飯の時間が、来るのが怖い、……辛いんです」


私の溢した本音と涙が、室内に響いた。

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