③
「あ、ごめんなさい。……私ったら、失礼なことをっ」
飲食店の人に失礼なことを言ってしまった、そう慌てて二人に私は謝罪する。
「えー。お母さんの言う通りですよ。毎日作るの大変じゃないですかー!」
ほらーと女性は私に同意を示し、男性に話を振っていた。
「……すいません。いつもありがとうございます」
「っ!」
そう言って男性が頭を下げたのは、女性ではなく私。
それがとても、意外だったのと、親しげに接してくれる二人の雰囲気のせいかーー思わず目頭が熱くなってしまった。
ーー家の人も、こうだったら。
「あ、アシが泣かしたー」
「え、ちょっ!?す、すいませんっ!」
からかい口調の女性に対して、慌てた男性は新しいおしぼりを私に持ってきてくれると、顔を背けて距離を取ってくれた。
「すみません。いい年した大人が……。ちょっと今日は……」
ありがたく受け取ったおしぼりで目元を抑えながら、私はまた謝罪を口にした。
「大丈夫です。検診って言ってましたよね。大変だったんですよー。いろいろ言われるって聞きます。お疲れ様です。……これアシのお詫びなので、おかわりどうぞ」
そういって女性は、新しいブレンドティー入りの紙コップをくれた。
「っ!貰えません!……私、お金っ」
「もう入れちゃったんで、飲んで貰えると助かりますー。で、良かったら飲んでる間、愚痴聞きます。教えてください」
女性は、にこにこと笑顔で言った。
ーーそっか。早かったら、彼女の年くらいでも子どもが...…。
聞いたと言っていたことを思い出して、その相手は友達かなと私は考えた。
「聞いても良いことないですよ?面白くもないですし」
「でも、女はお喋り大好きで、話すと楽になりません?私は人の話聞くのも大好きなんです。だから……教えてください!」
興味津々な女性のペースに、なんだかおかしくて、うまく乗せられてしまっていた。
ーーそっか。私、誰かに聞いてほしかったのか。
「今日、子どもの検診だったんです」
お昼すぐの検診で、お昼寝出来ずにぐずる子どもを抱えて向かった。
内科検診で小児科の先生が診るから、病院の関係で仕方ないのもあるだろう、そうは分かっても、大変だった。
着替えやオムツ、飲み物、ハンカチ、ぐずり用のおもちゃといった普段の子どものセット。
検診に必要な母子手帳、バスタオル、問診票などの書類。
それに自分の必要な財布やスマートフォン、ハンカチ。
急な雨などに備えた折り畳み傘。
たくさんの荷物をベビーカーに積んで、子どもを乗せて。歩いて検診会場へ向かった。
「……この子、離乳食食べてくれないんです」
自宅で書いた、問診票。
発育がいつ、どれだけ出来たかを書くチェックリストになっていた。
そして、育児中にイライラしたことはないか、不安なこと、心配なことや悩みがあるかなどの親の言動のチェックリストもあった。
「問診票見て、いろいろ言われたんです」
歯科健診では、野菜ジュースもジュースだから飲ませてはいけない。お菓子もそう。虫歯のリスクが上がるからおすすめしない。
栄養士からは、食べないならせめて野菜ジュースを飲ませて。少しでも栄養を。
赤ちゃんせんべいや乳幼児用のお菓子でもお野菜入りとかカルシウム入りとか色々あるから、なにか食べるようにちゃんと与えて。
工夫して頑張りましょう。
内科検診では、体重が成長曲線に入ってるから心配しなくていいよ。そのうち食べるようになるよ。減らなければいいから、問題ないよ。
保健師相談では、事細かく問診票を元に聞き取りをされた、それはなんだか私のせいだと責められてるようで……。
「皆、言ってることが……バラバラなんですよね」
ポツリ、ポツリと話していると、止まらなくなって気づけば、また私は泣いていた。




