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喫茶くろあし  作者: 松平 ちこ


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2/7


「いらっしゃいませー」


「……あ」


声に気付いて、私は顔を上げた。知らぬ間にお店に入っていたらしい。ベビーカーのタイヤが、中に乗りいっていた。


「あ、すみませんっ。その、入るつもりはなくて……」


後方を見ながら、慌てて出ようとした。

けれど、僅かな段差でタイヤがもたついしてしまった。


「大丈夫ですよ、どうぞ。雑貨もあって、見るだけの方もいますし。ベビーカーのまま入れますから。

今、他のお客様も居ないので、ほんとに気にしないでください」


「……じゃ、ちょっとだけ」


もうすでに入り口まで、入ってしまっていた。

さらに「どうぞ」と再度、目の前でにこやかな笑顔の男性に促されては、断りづらい。


ーースッと一周したら、外に。


そう思って、店内へ私は足を踏み入れた。


とてもこじんまりとした店内だった。

パッと見ただけで、店内が見渡せるほど。


テーブル一組と奥にカウンターが三席。

けれど、ベビーカーは左右をぶつける心配がなく、とても通りやすかった。


寒かった外と違い、中はほんのり暖かく木のいい匂いがした。


ホッと肩の力が抜けて、私は無意識に息をついた。


入って目についた、棚を見る。


ーーこれが店員さんの言っていた雑貨。


子連れ客も来るのか、ハンカチやはがき、ストラップの文具等の他、ガラガラや歯固め等もあって驚いた。


「……すみません。試飲お願いしても良いですか?」


「え?」


「あ!すみません、突然。もしかして、アレルギー何かありました?」


カウンターからお盆を持った女性がそっと出て話しかけてきた。


突然で私が驚いていたら、それをアレルギーがあるからだと女性は受け取って、さらに心配をされた。


「いえ、アレルギーないですけど……」


「じゃ良かったらどうぞ。秋のブレンドティーなんです。うち、そこのアシと二人経営なので。雑貨見てくれる人にも、試飲出したりさせてもらってるんです」


へにゃりと笑っていう彼女は生き生きとしていて、今の私には眩しかった。


どうぞと勧められて、気付けば言われるがままカウンター席に案内される。

ベビーカーは、カウンターに横付けが出来た。


「荷物、良かったら。こちらお使いください」


と、籠を男性から勧められ、お言葉に甘えさせてもらった。


「荷物大きいと大変でしたよね、今日はお出掛けですか?」


「いえ、今日は検診で……」


女性に聞かれて、私は気まずくなってしまって、勧められた紙コップのブレンドティーを飲んだ。


ーーっ!


何のブレンドティーなのだろうか、ティーとつくから紅茶かと思って飲むと、とても甘くて濃厚な味がした。


「……美味しい、です」


「良かったです!ありがとうございます。

……アシはなに出しても、うまいしか言ってくれないので、新作の試行錯誤が大変で」


「美味しいものを美味しいと、言ってるだけだろう」


「作る身にもなってよ!それだけじゃ分かんないわよ」


店員さんたちのアットホームなやり取りが、私にはとても眩しくて、羨ましかった。


ーーああ、この子ともそうだったら。


「……作るの、大変ですよね」


ポロリと溢れたのは、私の本心だった。



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