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喫茶くろあし  作者: 松平 ちこ


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1/7

もう頑張らなくて良いんです①

とある町の、とある小さな喫茶店。


こじんまりとした店内は、ちょっとだけ暗くて、暖かくも寒くもない普通の温度。


木を基調としたナチュラルカラーなインテリア。

室内の一角に緑の観葉植物。


キッチンの天端の一角には、ハーブや野菜のちょっとした水耕栽培スペース。


また、別の一角には、みずみずしい季節の生のフルーツが、ちょっとずつだけ飾ってある。


店内は、入り口側にテーブルが一つに、椅子が二席。導線を邪魔しない壁に雑貨棚。

奥側、カウンターに椅子が三席。


お店の外側には壁付けの小さな看板。

玄関の扉は、上部に丸みがある形。扉の隣には大きな丸い窓が二つ。


その扉を大きく開けて、レースカーテンも緩く止める。

誰でも気軽に入れるように。


「こっち、OK」


出入口の準備を終えて、中に向かってそう声をかけたのは、やや癖のある焦げ茶の髪に、細い丸フレームの眼鏡を掛けた若い男性。

緩い黒シャツに黒のカフェエプロン。黒のストレッチパンツ、スニーカーも黒。


「じゃ。今日も一日お願いしまーす!」


カウンターの奥、高い位置にあるその神棚に向かって、女性が二礼四拍手一礼をした。


いつもの挨拶を済ませたのは、てっぺんよりやや下にお団子でひとまとめにした茶髪に、ナチュラルメイクの若い女性。

男性と同じく、こちらもシャツから靴まで全て、黒で統一されていた。


「今日は誰が来るかしら」


「さぁな」


カウンターに二人で入り、それぞれが準備をする。


その視線は、開け放たれた扉の光る先。




◇◆◇◆◇◆◇


とぼとぼと、女性が歩いていた。


ーー帰りたくない。


ガラガラと、押して歩くベビーカー。


前に座る我が子は、目についた物に届かない手を伸ばして、きゃっきゃと楽しそうに笑っていた。


ーー可愛い。そう。見てる分には可愛い。


けれど。


「帰りたくない……」


だって、家に帰れば……。


もうすぐおやつ時の時間だろう、昼下がり。


ぼんやりと見上げた空は、少し風が冷たくなった秋晴れの綺麗な青。


風が吹く度に、舞踊る枯れた葉が視界に入って。

通路の隅、山のように重なる落ち葉たちが。


「……っ」


女性は目頭が熱くなって、目を擦った。


重なった落ち葉の山がまるで重たくのし掛かった自分のようで。


今日帰ったら、明日が来る。明日の次は、そのまた明日。


毎日毎日、続いていく……。


こんなつもりではなかったはずで、でもどうしたら良いのか分からなくて。


ただ、ガラガラとベビーカーを押して歩いていた。

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