表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/34

離宮の午後、三人の歩調

 アマンダは、王宮でのお茶会に招かれるかもしれないことに、胸を躍らせていた。一体どんなお菓子が出るだろうか、どんな庭園なのだろうか。好奇心でいっぱいだった。一方、ウェンディは、どんな装いで参加すればよいのか、今から頭を悩ませていた。


 それから二週間が経った頃、アーサー王子が、二人に招待状を手渡した。

「気軽に来てね。制服で来てもらっても、構わないから」

 そう言って、王子は少し照れくさそうに笑った。そして、招待状に記されていた場所は、王宮ではなく、少し離れたところにある離宮だった。

「離宮は少し遠いけど、気兼ねなく話すには、そっちの方がいいと思ってね」


 二人は、それぞれの招待状を手に、家路についた。伯爵邸では、アマンダが「制服でもいいって!」と興奮気味に話すのを、家族が微笑ましく見守っていた。一方、侯爵邸では、ウェンディの母が、娘が招待されたことを心から喜び、早速、離宮でのお茶会にふさわしい衣装や贈り物の準備を始めた。


 王族とのお茶会という、これまでにない特別な出来事を前に、二人の家は、期待と喜びに包まれていった。


 いよいよお茶会当日がやってきた。ウェンディは、新調したばかりのドレスに身を包んでいた。ほんのり桜色がかった、フリルとレースがあしらわれた可愛らしいドレスだ。肩の荷が下りて以来、ウェンディの表情はどこか柔らかくなり、そのドレスは、今の彼女の心そのもののように、瑞々しく輝いて見えた。


 そして、前日には、厨房の料理人に手伝ってもらいながら、マドレーヌを焼いた。ほとんどの工程は料理人が手際よくこなしてくれたが、ウェンディも負けじと、粉をふるったり、溶かしたバターを生地に混ぜ込んだりと、真剣な顔で作業に加わった。そうして出来上がった、一つひとつが彼女の心のように温かいマドレーヌを、ウェンディは丁寧に箱に詰め、きれいなリボンをかけて、そっと抱え持った。


 一方、アマンダはというと、いつものように何の気なしに学校の制服を着て、出かけようとしていた。

「伯爵令嬢が、王族のお茶会に制服で行くなどと、とんでもございません!」

 慌てた侍女に、あえなく行く手を阻まれてしまった。仕方なく、手持ちのドレスの中から、紺色のシックな一着を選んで着せられる。飾り気のないアマンダには、それがかえって、大人びた魅力を添えているようだった。


 手土産については、アマンダも考えていた。ウェンディが、きっと何か可愛らしい焼き菓子を持ってくるだろうと、なぜだかそう確信していたからだ。だから、アマンダは、伯爵家秘伝のレシピで作る、木の実がたっぷり入ったプディングを、厨房の料理人に作ってもらった。その重みのあるずっしりとしたプディングを、アマンダは誇らしげに手に抱え、離宮へ向かう馬車に乗り込んだ。


 それぞれの思いを、それぞれの箱とドレスに込めて、二人は、特別な時間へと向かっていくのだった。


 郊外の離宮にアマンダの乗る馬車が到着したとき、車寄せには、ちょうどラッセル侯爵家の家紋をつけた馬車が停まっていた。第三王子アーサーが、ウェンディの小さな手をそっと取り、馬車からエスコートして降りるところだった。その後ろから、ウェンディの侍女が続き、離宮の侍従に何やら荷物を手渡している。侯爵家の馬車が滑るようにして去っていくと、入れ替わるように、ジェンキンズ伯爵家の馬車が車寄せに入った。


 アーサー王子とウェンディは、並んでアマンダを待っていてくれた。アマンダが馬車を降りようとすると、王子は今度はアマンダの手をとり、優雅な仕草でエスコートしてくれた。

「殿下とウェンディ様が並んでいらっしゃる姿が、まるで一幅の絵のようでしたわ。とてもお似合いでした」

 アマンダは、心に浮かんだままを、そのまま言葉にした。


 その言葉に、王子は楽しげに微笑んだ。

「そうかい。では、二人を席に案内しよう」

 そう言って、王子は一足先に歩き出した。美しいドレスを身につけたウェンディも、シックなドレスのアマンダも、王子に遅れまいと、一生懸命ついて歩く。

「王子、少し早すぎます」

 アマンダが思わずそう言うと、王子は申し訳なさそうに振り返った。

「それはすまなかった。ドレスを着た令嬢は、すたすたと歩くわけにはいかなかったな」

 そう言って、王子は二人の歩調に合わせてくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ