離宮の午後、三人の歩調
アマンダは、王宮でのお茶会に招かれるかもしれないことに、胸を躍らせていた。一体どんなお菓子が出るだろうか、どんな庭園なのだろうか。好奇心でいっぱいだった。一方、ウェンディは、どんな装いで参加すればよいのか、今から頭を悩ませていた。
それから二週間が経った頃、アーサー王子が、二人に招待状を手渡した。
「気軽に来てね。制服で来てもらっても、構わないから」
そう言って、王子は少し照れくさそうに笑った。そして、招待状に記されていた場所は、王宮ではなく、少し離れたところにある離宮だった。
「離宮は少し遠いけど、気兼ねなく話すには、そっちの方がいいと思ってね」
二人は、それぞれの招待状を手に、家路についた。伯爵邸では、アマンダが「制服でもいいって!」と興奮気味に話すのを、家族が微笑ましく見守っていた。一方、侯爵邸では、ウェンディの母が、娘が招待されたことを心から喜び、早速、離宮でのお茶会にふさわしい衣装や贈り物の準備を始めた。
王族とのお茶会という、これまでにない特別な出来事を前に、二人の家は、期待と喜びに包まれていった。
いよいよお茶会当日がやってきた。ウェンディは、新調したばかりのドレスに身を包んでいた。ほんのり桜色がかった、フリルとレースがあしらわれた可愛らしいドレスだ。肩の荷が下りて以来、ウェンディの表情はどこか柔らかくなり、そのドレスは、今の彼女の心そのもののように、瑞々しく輝いて見えた。
そして、前日には、厨房の料理人に手伝ってもらいながら、マドレーヌを焼いた。ほとんどの工程は料理人が手際よくこなしてくれたが、ウェンディも負けじと、粉をふるったり、溶かしたバターを生地に混ぜ込んだりと、真剣な顔で作業に加わった。そうして出来上がった、一つひとつが彼女の心のように温かいマドレーヌを、ウェンディは丁寧に箱に詰め、きれいなリボンをかけて、そっと抱え持った。
一方、アマンダはというと、いつものように何の気なしに学校の制服を着て、出かけようとしていた。
「伯爵令嬢が、王族のお茶会に制服で行くなどと、とんでもございません!」
慌てた侍女に、あえなく行く手を阻まれてしまった。仕方なく、手持ちのドレスの中から、紺色のシックな一着を選んで着せられる。飾り気のないアマンダには、それがかえって、大人びた魅力を添えているようだった。
手土産については、アマンダも考えていた。ウェンディが、きっと何か可愛らしい焼き菓子を持ってくるだろうと、なぜだかそう確信していたからだ。だから、アマンダは、伯爵家秘伝のレシピで作る、木の実がたっぷり入ったプディングを、厨房の料理人に作ってもらった。その重みのあるずっしりとしたプディングを、アマンダは誇らしげに手に抱え、離宮へ向かう馬車に乗り込んだ。
それぞれの思いを、それぞれの箱とドレスに込めて、二人は、特別な時間へと向かっていくのだった。
郊外の離宮にアマンダの乗る馬車が到着したとき、車寄せには、ちょうどラッセル侯爵家の家紋をつけた馬車が停まっていた。第三王子アーサーが、ウェンディの小さな手をそっと取り、馬車からエスコートして降りるところだった。その後ろから、ウェンディの侍女が続き、離宮の侍従に何やら荷物を手渡している。侯爵家の馬車が滑るようにして去っていくと、入れ替わるように、ジェンキンズ伯爵家の馬車が車寄せに入った。
アーサー王子とウェンディは、並んでアマンダを待っていてくれた。アマンダが馬車を降りようとすると、王子は今度はアマンダの手をとり、優雅な仕草でエスコートしてくれた。
「殿下とウェンディ様が並んでいらっしゃる姿が、まるで一幅の絵のようでしたわ。とてもお似合いでした」
アマンダは、心に浮かんだままを、そのまま言葉にした。
その言葉に、王子は楽しげに微笑んだ。
「そうかい。では、二人を席に案内しよう」
そう言って、王子は一足先に歩き出した。美しいドレスを身につけたウェンディも、シックなドレスのアマンダも、王子に遅れまいと、一生懸命ついて歩く。
「王子、少し早すぎます」
アマンダが思わずそう言うと、王子は申し訳なさそうに振り返った。
「それはすまなかった。ドレスを着た令嬢は、すたすたと歩くわけにはいかなかったな」
そう言って、王子は二人の歩調に合わせてくれた。




