意外な縁と、解かれた鎖
その頃、ダンスを終えたアーサー王子が、少し息を弾ませながら、アマンダに尋ねていた。
「それにしても、どうして君はそんなにダンスが上手いんだ?」
アマンダは、満面の笑みで、正直に答えた。
「三人の兄に、散々鍛えられまして。特に長兄のウィリアムズ兄さんは、わたくしの体をぬいぐるみか何かのように、滅茶苦茶に振り回すのです」
その言葉を聞いたアーサーは、はっと目を見開いた。
「ウィリアムズ・ジェンキンズ…?もしかして、近衛連隊の少尉の?」
アマンダがこくりと頷くと、アーサーは納得したように、破顔した。
「ああ、なるほど。ウィリアムズが君の兄なのか。彼からダンスの手ほどきを受けていたと聞けば、君のダンスの理由が理解できた気がするよ。彼の訓練は、なかなかに苛烈だからな」
王子と、まさか自分の兄が知り合いだったとは。アマンダは少し驚きながらも、その意外な繋がりを微笑ましく思った。そして、この瞬間、アマンダとアーサーの間に、また一つ、特別な絆が生まれたのだった。
週末になり、アマンダは久しぶりに伯爵邸へ帰った。兄弟たちが揃っている食卓で、アマンダは王立学校での日々の出来事を、楽しそうに話して聞かせた。第三王子アーサーの様子や、ウェンディ嬢の空回りぶりを、身振り手振りを交えながら語る。
すると、その話を聞いていた長兄のウィリアムズが、ニヤリと笑った。
「ほう、アーサー殿下から、おまえのダンスの腕前は聞いたぞ。我々が散々鍛えておいたのが、役に立ったようだな。感謝してもいいぞ」
恩着せがましく、そう言ってアマンダの頭をぐりぐりと撫でる。
「それからな、アマンダ。おまえの『お猿さん発言』も、アーサー殿下がそれはそれは楽しそうに話して聞かせてくれたぞ」
ウィリアムズの言葉に、アマンダは耳まで真っ赤になった。まさか、あんなやり取りを王子が他の人に話していたなんて。
そんなアマンダの様子を見て、次兄のピーターが、面白そうに口を挟んだ。
「ウェンディ嬢が空回りしているのなら、アマンダは猿回しの猿、といったところかな」
その皮肉めいた、しかしどこか愛情のこもった言葉に、アマンダは拗ねたように唇を尖らせた。
「もう、ピーター兄さんまで!」
明るい笑い声が、ジェンキンズ伯爵家の食卓に、いつまでも響いていた。
週末になり、ウェンディもまた、侯爵邸で両親に学校での出来事を話していた。第三王子に近づこうと奮闘しているのに、どうにも上手くいかないこと。そして、伯爵令嬢のアマンダが、なぜだか自然と殿下の懐に入り込んでいる様子を、悔しさを滲ませながら報告した。
その話を聞いた侯爵夫人は、静かに、しかし鋭く夫である侯爵に問いかけた。
「ウェンディは、何かひどく焦っているように聞こえますが、あなた、ウェンディに何か命じましたの?」
侯爵は、一瞬たじろいだが、やがて観念したように白状した。
「アーサー殿下を籠絡し、婚約者の座を手に入れてこい、と言っただけだ」
「何を馬鹿なことを!」
侯爵夫人は、夫をきつく睨みつけた。
「まだ十歳にもならない子供に、なんてことを命じるのですか。いかに貴族とはいえ、まだ早すぎます。ウェンディは、今はただ、アマンダ嬢のような子と、楽しく過ごすことができるようにさせるべきです」
侯爵夫妻の間には、娘の将来に対する、まるで違う思惑が存在していたことが、この時明らかになった。
「ウェンディ」
侯爵夫人は、そっと娘の手を取った。
「王子のことは忘れなさい。アマンダ嬢も、何も考えていないはずよ。殿下もです。今はただ、学校で仲良く過ごせる、ただの友だちになれれば、それでいいの。それから先は、大人になってからでも、決して遅くはありませんから」
その言葉は、ウェンディの心を縛り付けていた鎖を、カランと音を立てて解き放ったようだった。(お父様の言葉は私の心をずいぶんと縛っていたのね。お母様、私はもっと自由でいいのね)。
父から課せられた重い使命は、いつの間にかウェンディ自身の心にも、重くのしかかっていたのだ。ウェンディは、ずっと張っていた肩の力が抜けていくのを感じた。そして、生まれて初めて、心の底からほっと息をついた。




