慈愛の系譜 ―魔法は命のために―
戦勝国となったダベンポート王国は、敗戦国のシュタインベック王国に賠償金を請求することになった。キャリントン領も、戦火で破壊された農地や道路、砦などの賠償を、ダベンポート王に委託していた。
賠償金の額を決めるのは、容易なことではなかった。あまりに高額な賠償金は、相手国の王家を疲弊させ、民の反発を招く。しかし、少額すぎれば、次の戦争の準備が、すぐに始まってしまうだろう。相手の支払い能力をいかに正確に読み、その上で、どのくらいの金額を請求するのか。それは、施政者の腕の見せ所でもあった。
ダベンポートの王都に呼ばれたシュタインベックの大使は、重苦しい空気が漂う中、賠償金の要求を聞くために、王宮に滞在していた。彼の心は、これから告げられるであろう、厳しい言葉に備えて、固く閉じられていた。
シュタインベックの大使は、多額の賠償金が要求されることを覚悟していた。あとは、いかにしてそれを値切るか、あるいは支払いを延期させるか。彼の頭の中は、そのことばかりで埋め尽くされていた。
その時、ダベンポート王国からの要求が告げられた。
「相互不可侵条約の締結をもって、賠償とする。以上」
一瞬、大使の頭の中は真っ白になった。後から交渉にあたった代表団の一人が語ったことだが、その場にいた者全員が、その言葉の意味を、すぐには理解できなかったのだという。
一切の賠償金を請求しないというこの要求には、ダベンポート国内でも、当然、異論があった。だが、ウェンディとアマンダが、女神の神託として、強く主張したのだ。
「賠償金の請求ではなく、不可侵条約の締結を条件とせよと、女神が仰せです」
今回の戦いで、ウェンディの魔法が、どれほどの戦功を立てたかは、ダベンポートの首脳部では周知の事実だった。彼女の言葉は、ただの令嬢の言葉ではない。それは、女神の意志を代弁する、重い言葉だった。
シュタインベックの大使は、その言葉の裏にある、見えざる力を感じ取っていた。それは、金銭では決して贖うことのできない、確固たる平和への意思だった。
シュタインベック王国が、不可侵条約の締結だけで賠償金の支払いを免れたという事実は、瞬く間に近隣諸国に伝わった。同時に、ダベンポート王国には、女神アルテミスの加護が与えられており、いかなる攻撃も無効化される、という噂も広がった。
しばらくして、ウェンディとアマンダは、それぞれ婚約者と婚礼を挙げた。ウェンディはジェームズ公爵子息と、アマンダはアーサー王子と。そして、それぞれに子供をもうけた。その子たちには、わずかながら、魔力があった。
ウェンディは、夢の中で、女神アルテミスから神託を受けた。
「この子たちを、正しき道を歩むように導け」
ウェンディとアマンダは、喜びを分かち合った。自分たちが女神から託された魔法の復活という使命が、こうして次世代に引き継がれたことを。そして、その使命の重さを、改めて感じていた。
二人は、女神が望んだ通り、魔法を、生きとし生けるものの命を慈しむものとして活用するよう、子供たちに教育した。失われた魔法の物語は、彼らの世代で終わりではなかった。それは、これから生まれてくる、多くの子供たちへと、静かに、そして確かに、受け継がれていくのだった。
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