社交という名の戦 -毒を孕(はら)んだ招待状-
シュタインベックの使節団が持ち込んだ魔道具からは、ごくかすかな、桃色の光が放たれた。それは、まるで春の陽光を閉じ込めたかのような、淡く、優しい色だった。
シュタインベックの使節団の中にいた、僧服をまとった男が、小さく「おおっ」と声を上げた。そして、隣にいた男に、耳打ちするように言った。
「確かに魔力はあるようだが、ごくわずかなものだ。攻撃には使えない程度。……噂通りと考えてよかろう」
アマンダは、その会話を静かに聞きながら、少し興味を持って、僧服の男に尋ねた。
「その魔道具について、教えていただけませんか?」
男は、一呼吸おいてから、アマンダに向き直った。
「これは、『鑑定の魔道具』と申しまして、古の時代、魔法がごく一般的であった頃に、子供の魔力測定に用いられていたものです」
男は、淡々と、しかしどこか懐かしむような口調で続けた。
「シュタインベックでは、おそらく他国でも同じだったと思いますが、子供が六歳になると、所属する教会で魔力測定を受けていたのだそうです。その時に、魔力の大きさによって、魔道具の光の色が変わる、という仕組みでした」
そして、男は、再び、アマンダの手元にある魔道具を指差した。
「今回の桃色の光は、上から四番目、下から二番目の色でございます」
その言葉に、アマンダは、自分が持っている魔力が、決して強いものではないことを知った。それでも、そのわずかな魔力が、遠い国の緊張を解き、戦争の危機を回避する鍵になったのだ。アマンダは、その事実に、深く胸を打たれた。
鑑定に立ち会っていたキャリントン公爵子息のジェームズは、魔道具から放たれた桃色の光を見て、心から安堵していた。これで、シュタインベック王国は、女神から賜ったという魔法が、自国を脅かすものではないと見なしてくれるだろう。そう思うと、張り詰めていた心が、ふっと軽くなった。リヒターもまた、同じ思いでこの儀式を見ていた。
シュタインベックの使節団は、これで帰るかと思われたが、そうはならなかった。彼らは、せっかく来たのだからと、キャリントン領内の観光地を見て歩きたいと申し出てきた。彼らに糧食を提供することで、領民も潤っていた。公爵も、「無下に断るわけにもいかないか、少しばかりは案内することを許可する」と言った。
そして、その日の夜。使節団長であるシュミット公爵を主賓とする歓迎の宴が、キャリントン公爵邸の大広間で開かれた。シュミット公爵は、ユルゲン王の従兄弟にあたる人物だという。華やかに装飾された広間には、領内の貴族たちが集い、弦楽器の音色が響いていた。
その中には、もちろん、アマンダとウェンディの姿もあった。アマンダは、淡い青のドレスに身を包み、ウェンディは、真珠の刺繍が施された、白いドレスを着ていた。二人の姿は、まるで夜空にきらめく星のようだった。だが、その瞳の奥には、これから始まる、新たな駆け引きへの、静かな覚悟が宿っていた。
シュミット公爵のダンスの相手は、半ば自動的にアマンダと決まった。先方が公爵という高位の人物である以上、アマンダがいくら伯爵令嬢とはいえ、アーサー王子の婚約者として、そして「魔力を持つと噂される者」として、ダンスの相手に不足はなかったからだ。アマンダは、ダンス中の発言に、細心の注意を払った。公爵が、何気ない会話の中に、巧みに探りを入れてくるだろうことを、アマンダは知っていた。
結局、当たり障りのない、天気や旅の話で終始し、アマンダがホッと気を抜いた、その瞬間に、公爵はにこやかに言った。
「次は、ぜひシュタインベックで、お会いしましょう」
その言葉の裏に隠された不気味な意味合いに、アマンダは気づいていた。だが、アマンダは思わず、反射的に「はい」と答えてしまった。




