リードの応酬、芽生える敗北感
その日のマナー講座は、アマンダにとって、王族に対する挨拶とエスコートを直接王子から教わる、特別な時間となった。そして、王子との別れ際にアマンダは、次回はダンスのステップを教えてもらう約束まで取り付けてしまった。こうして、アマンダと第三王子の物語は、ほんの少しずつ、特別なものへと変わっていった。
アマンダとアーサー王子が日を追うごとに親密になっていく様子を、ウェンディは焦燥の入り混じった眼差しで見ていた。本来、その場所にいるべきは自分のはずだ。父から何度も聞かされた、「おまえが第三王子の婚約者となるのだ」という言葉が、まるで呪文のようにウェンディの耳元で木霊する。その重圧が、ウェンディの心をじりじりと締め付けていく。
ウェンディの焦りは、やがてアマンダにきつく当たる、という形で表面化し始めた。些細なことで小言を言ったり、からかうような口調で接したり。だが、アマンダはまるで気にする様子がなかった。ウェンディの嫌味も、遠くで鳴くカラスの鳴き声のように、右の耳から左の耳へと通り過ぎていく。
これを、鈍感と見るべきか、それとも揺るぎない自信と見るべきか。ウェンディは、後者だと解釈した。アマンダは自分とは違う。伯爵家の末娘として、惜しみない愛情を注がれて育った彼女は、自分の中に確固たる自信を持っているのだと。そう思うと、ウェンディの焦燥感はさらに募った。
実際、この時点では、何も焦る必要などなかったはずだ。第三王子はまだ年若い少年であり、婚約者が決まるなど、まだまだ先のこと。アマンダだって、ただ王子との交流を楽しんでいるだけで、特別な感情を抱いているわけではない。
それなのに、ウェンディは自ら焦り、自縄自縛の罠にはまり込んでいった。彼女は、王子の心を手に入れることではなく、アマンダを打ち負かすことばかりを考えるようになっていた。そして、そのことが、彼女自身の魅力を、少しずつ蝕んでいくことに、この時のウェンディは、まだ気づいていなかった。
アマンダが待ちに待って胸を躍らせていたマナー講座でのダンスの時間がやって来た。アーサー王子と踊れるから、というわけではない。ダンスそのものが、心底好きだったからだ。三人の兄たちに、文字通り鍛え上げられたその腕前は、自慢の一つだった。女性役も男性役も、どちらも完璧にこなすことができる。
アマンダは、商家の娘たちにも、よくダンスの稽古をつけていた。マーガレット、サラ、イザベラ、メアリー。彼女たちに教えるときは、決まってアマンダが男性役を務めた。こうした親切な、いや、少しお節介ともいえる行いが、いつの間にかクラスの娘たちの中での、アマンダのリーダーシップを育んでいったようだった。
そして、ついにマナー講座で、アーサー王子と踊る日が来た。アマンダは、王子と軽やかにステップを踏み始めた。アマンダがかなりの踊り手であると悟ったアーサーは、次第に、教科書には載っていないような、かなり早い、複雑なステップを繰り出し始めた。それは、アマンダの力量を試すかのような、挑戦的なリードだった。
だが、アマンダは怯まなかった。兄たちと踊るときは、いつもこんな調子だったからだ。ウィリアムズは力強く、ピーターは優雅に、アルバートはいたずらっぽく、それぞれにアマンダを翻弄してきた。その経験が、今、アマンダの体に染み付いている。どんなリードにも、アマンダは難なくついていく。王子が繰り出す複雑なステップにも、アマンダは軽やかに応じた。
しまいには、アーサー王子の方が、根負けしたように息を切らし、「もう降参だ。君には敵わない」と、笑いながら両手を上げたのだった。アマンダは、満面の笑みで、少し息を弾ませながら、王子に深くお辞儀をした。その姿は、まるで勝利を収めた戦士のようだった。
激しく、それでいて息の合ったアーサー王子とアマンダのダンスを、ウェンディはただ呆然と見つめていた。流れるような、それでいて力強い二人のステップは、あまりに鮮やかで、到底自分には真似できない、とウェンディは悟った。ダンスでは、とてもではないがアマンダには敵わない。胸の奥に、敗北感と、焦りとはまた違う、新たな感情が湧き上がってくる。ダンスではだめだ。では、自分は一体何でアマンダに勝てるのだろう。何か、私だけが持っているものはないのか。ウェンディは、必死にそれを探そうとしていた。




