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女神の飛信(ひしん) ―窮地を救う手紙―

「そうすれば、我が国の安全保障は保たれる。そして、貴国民一人であれば、許容できる範囲ではないのか」

 ユルゲン王は、ウェンディの名も素性も知らないはずだ。だが、その要求は、ウェンディの命を差し出せと言っているに等しい。


 ジェームズは、即答することができなかった。怒りと、絶望が、彼の中で渦巻いた。しかし、ここで感情的に返事をすれば、すべてが終わってしまう。


「そのご提案は、持ち帰って検討させてほしい」

 ジェームズは、それだけを言うのが精一杯だった。彼の声は、わずかに震えていた。ユルゲン王は、その返事に満足したように、深く頷いた。ウェンディの命と引き換えに、戦争を回避するのか。ジェームズは、重い使命を背負い、謁見の間を後にした。


 キャリントン領都で、ジェームズの帰りを待っているウェンディとアマンダの夢枕に、再び女神アルテミスが現れた。ジェームズが、ウェンディを人質としてシュタインベックに差し出すか否か、難しい決断を迫られていることを知らされた。


「そなたは、すでに魔力を得た。そして、そなたの友は、王太子の婚約者。ゆえに、そなたたちを、シュタインベックへ遣わすことは叶わぬ。しかし、中間地点のキャリントン領都までならばよい。シュタインベック国の大使を遣わし、アマンダを検分するようにと、ユルゲンに伝えるがよい」

 女神は、そう告げると、姿を消した。


 ウェンディは、目覚めるとすぐに、夢の中で教わった魔法で、ジェームズに手紙を飛ばした。

「私を差し出す必要はございません。アマンダと共にキャリントン領都でお待ちしております」


 人質としてウェンディを差し出すか否かで悩んでいたジェームズにとって、それはまさに天の助けだった。しかし、王太子の婚約者まで巻き込んでしまうことに、ジェームズは戸惑いを隠せないでいた。


 だが、一旦戦争となれば、ダベンポート国全体の問題となる。そして、女神の示唆であれば、間違いはないのだろう。ジェームズは、女神の言葉に従うことにした。


 翌日、ユルゲン王との謁見を願い出た。そして、女神の仰せの通り、キャリントン領都でお待ちしているので、ぜひ魔力の検分に使者を寄越してほしい、と伝えた。ユルゲン王も、その言葉に、不気味な笑みを浮かべ、了承した。


(これで、本当にいいのだろうか)


 ジェームズの心の中には、わずかな不安が残っていた。しかし、ウェンディとアマンダが揃えば、どんな困難も乗り越えられるという女神の神託を信じて、彼は、来るべき使者との対面を待つことにした。


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