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人質という名の刃

 シュタインベック国の家臣の中には、もう少し情報の収集と精査を、という声もあった。だが、ユルゲン王は、それでは遅いと考えていた。

「先制攻撃を受けてからでは遅いのだ。戦争の準備を整えてから、情報の収集と精査を行ってもいいではないか」

 彼は、軍部が戦争準備を始め、一度ある臨界点を超えてしまうと、もう引き返せなくなるということを、知らないようだった。


「敵の魔法使いの実力がわからない以上、最大限の武力を用意することになります」

 軍部の将軍が、そう具申すると、ユルゲンは迷いなく答えた。

「そのように」


 シュタインベック王国の秘密兵器は、炸裂弾という大砲の弾だった。大砲自体も、近年になってようやく普及し始めた、強力な兵器だが、炸裂弾は、弾自体が着弾と同時に爆ぜ、周囲の人や馬を傷つけるという、凶悪なものだった。ユルゲンは、この炸裂弾の製作を急がせていた。彼の心の中には、恐怖と、それからくる焦りが、渦巻いていた。


 その頃、シュタインベック王国の首都に到着したジェームズとリヒターら、キャリントン領からの特使は、国王からの親書をユルゲン・シュタインベックに渡すべく、迎賓館に滞在しながら謁見の時を待っていた。


 シュタインベック国側は、特使と親書の扱いをどうするか、王と高位貴族で話し合った。最初から喧嘩腰になる必要はない。まずは会って、話を聞いてみようという結論になった。


 謁見の間は、張り詰めた緊張感に満ちていた。

「ユルゲン陛下におかれましては、この度は謁見をお許しいただき、誠にありがたく感謝申し上げます。ここに、デビット王より預かって参りました親書がございますので、お受け取りください」

 ジェームズがそう言うと、書状を取り出し、侍従に手渡した。侍従は、書状に仕掛けがないか、隅々まで調べた上で、ユルゲン王の手元に届けた。


「我がダベンポート王国は、貴国に対して、何ら攻撃の意志も、手段も持っておりません。従前からの平和な関係を、切に希望しております」

 ジェームズが、通訳のリヒターを通じて話すと、ユルゲン王は、眉をひそめて言った。

「貴国が魔法を復活させ、我が国に攻め入る準備をしているという情報があるが、如何に」


 ジェームズは、動じることなく、静かに答えた。

「我がキャリントン領で、魔力が復活した者が、わずか一名おります。しかし、それだけのことでございます。魔力復活に際しても、あらゆる生命を奪う魔法に対して制限がかけられておりますので、攻撃に使うことはできません。ユルゲン王の懸念されるような事態は、ございません」

 その言葉は、真実を語っているようだったが、ユルゲン王は、疑わしげな表情を崩さなかった。


 ユルゲン王は、ジェームズの説明を最後まで聞くと、不敵な笑みを浮かべた。

「では、魔力が復活した、わずか一名を、我が国に人質として派遣する、というのはどうだ?」

 その言葉は、まるで何気ない提案のように聞こえたが、ジェームズの胸に、鋭い刃のように突き刺さった。


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