不殺の誓約、防御の魔法
ウェンディの身辺警護についても、キャリントン公爵家が厳重にする旨を、王家に報告したそうだ。アーサー王子は言った。
「もしウェンディが拉致され、無理やり魔法を使わされて女神の怒りを買うようなことになれば、全人類が損失を被ることになる。それが、我が国の考えだ」
その言葉は、ウェンディが背負うものの、途方もない重さを物語っていた。
アマンダが自室に戻ると、机の上に、見慣れない手紙が置かれていた。それは、ウェンディからの手紙だった。ウェンディは、魔法を使って、それを飛ばしてきたらしい。手紙には、毎日、女神と会話を重ね、魔法がかなり上達したこと、そして、こうして手紙を送れるようになったことの喜びが綴られていた。
(なんと、便利なことだろう)
アマンダは、その手紙を手に取り、しみじみと思った。離れた場所にいる友人と、瞬時に心を通わせることができる。だが、自分からは送れない。それが、何とも残念だった。アマンダは、ウェンディからの手紙を、何度も読み返した。そこには、新しい世界への扉を開いた、友の喜びが、溢れるほどに詰まっていた。
アマンダは、ウェンディに手紙をしたためた。
(これが届くのは、早くても五日後くらいかしら……)
このために、急ぎの早馬を走らせるほどのことはない。アマンダは、そう考えた。
手紙には、隣国エスメラルダが、いち早く女神アルテミスに会ったという情報を手に入れていたこと、魔力の復活が拒絶されたこと、そして、ウェンディが女神の依り代となったことを、エスメラルダ側に伝えた、という事実が記されていた。
「ウェンディに魔力が与えられたこと、魔法が使えるようになったことは、まだ誰にも話していないわ」
そう書き添え、アマンダは、心からの心配を綴った。
「エスメラルダのドミニク王女は、かなり魔法に執着しているようだった。あなたの身の上に、危険が及ばないことを祈っているわ」
そして、それから五日後。ウェンディがその手紙を読んだとき、キャリントン公爵の屋敷には、すでにエスメラルダからの使者が訪れていた。手紙に書かれた、アマンダの予感が、現実となってしまったのだ。ウェンディは、固く閉ざされた扉の向こうに、自分を待つ、新たな試練の影を感じていた。
キャリントン公爵邸を訪れたエスメラルダ王国の使者は、ヴィットリオ・ベルティーニ男爵と、その従者だった。ベルティーニ男爵は、エスメラルダから派遣され、王都に常時駐在しているのだという。それにしても、一部の王族とキャリントン公爵しか知らないはずの情報を、こうも素早く手に入れたものだと、公爵はエスメラルダの情報収集力に舌を巻いた。
ベルティーニ男爵は、ただ事実確認に来ただけだったようで、ウェンディにも会わせずに帰らせたが、公爵は、この件を重く見ていた。屋敷の警備を厳重にし、ウェンディが外出する際には、手練れの騎士を随伴させるよう、警備体制を強化した。
ウェンディもまた、アマンダからの手紙を読み、自分の身の上に危険が迫っていることを悟った。自らを守る術を、夢の中で女神に相談したが、女神は、例え暴漢であろうとも、相手を魔法で傷つけてはならないと示唆した。
ウェンディは、絶望しそうになった。相手を傷つけられない魔法に、いったい何の意味があるのだろうか。だが、ウェンディは、諦めなかった。暴力を振るう相手を傷つけずに、どうやって身を守るのか。ウェンディは、防御のための魔法の応用方法を、夢の中、そして現実でも、一生懸命に考え始めた。




