冷めたお茶と、微笑みの外交
ドミニク王女は、アーサーの言葉に、楽しそうに笑った。
「お兄様は、わたくしの夫として、きちんと役目を果たしておりますよ。その点は間違いありませんので、ご心配には及びませんわ。エスメラルダ王の義理の息子として、立派に補佐をしておられる様子を見ていると、わたくしの夫ながら、頼もしいなと思っておりますのよ」
ドミニク王女の言葉は、以前、アーサー王子から聞いた話とは、まるで違っていた。だが、その言葉に嘘はないように思えた。アマンダは、ただ静かに、その様子を見守っていた。
ドミニク王女は、さらに身を乗り出して、アマンダに尋ねた。
「女神様とは、どのようなことを話されたのですか?」
アマンダは、ちらりとアーサー王子の顔を見た。しかし、彼が制止する様子はない。アマンダは、正直に答えることにした。
「人間が再び魔法を使えるようにしてください、とお願いをしました」
アマンダの言葉に、ドミニク王女は、さらに興味を引かれたようだった。
「まぁ!それで、女神様は、どうお答えになったのですか?」
アマンダは、静かに、そしてきっぱりと答えた。
「女神様は、人間には魔力を再び与えない、と仰せになりました。魔力は、人間には過ぎた力であったのだ、と……。わたくしたちの願いは、明確に拒否されてしまいました」
その時、アーサー王子が、ふっと口を開いた。
「まあ、そういうことで、二人の令嬢の冒険譚は、これくらいでいいのでは?せっかくのお茶が冷めてしまうからね」
そう言って、王子は、すでに冷たくなったお茶を、美味しそうに飲み干した。ドミニク王女も、さすがに聞きすぎたと思ったのだろう。それ以上、女神の話に触れることはなかった。
お茶会が終わり、アマンダとアーサー王子が二人きりになると、王子は、ぽつりとつぶやいた。
「ドミニク王女は、なぜそこまで、女神との邂逅の内容を知りたがったのだろう。そして、情報が、こんなにも早くエスメラルダに伝わったのは、どうしてだろう」
アーサー王子の瞳は、遠くを見つめているようだった。
「……彼の国の手の者が、この王宮にもいるのだろうな」
アマンダは、その言葉に何も答えることができなかった。自分たちが足を踏み入れた世界は、ただの冒険譚ではなく、国と国との思惑が渦巻く、複雑な世界であることを、彼女は改めて知ったのだった。
エスメラルダのドミニク王女が、魔力と魔法について探りを入れてきたことは、キャリントン公爵家を含む王家の中で、すぐに共有された。そして、元第二王子であるチャールズにさえ、その内容を漏らさないようにと、王からの指示が飛んだ。たった一つの情報が、国家間の関係にまで影響を及ぼす。アマンダは、その事実を、静かに受け止めた。




