探り合う茶会、王女の鋭き切っ先
アマンダは急ぎ王都に戻り、アーサー王子の元へ向かった。そして、キャリントン公爵領の奥地にある森林地帯、女神信仰が残る神殿で、アルテミスという女神と邂逅したことの仔細を、つぶさに報告した。
「人間に魔力を戻すことは拒否されました」
アマンダがそう告げると、アーサー王子は、静かに頷いた。だが、アマンダは、さらに言葉を続けた。
「……ですが、ウェンディにだけ、魔力を戻し、人間が魔力を正しく扱えるかどうかを試す、と仰せになりました。ウェンディは、今、ちょっとした魔法を使うことができます」
アーサー王子は、アマンダの報告を真剣な表情で聞いていた。その日のうちに、彼は父である国王にも報告したようだが、王宮に特に大きな動きはなかった。おそらく、キャリントン公爵からの正式な報告を待っているのだろう。公爵家は王家の血縁であり、公爵から詳細な報告が届くのは、当然のことだった。
アマンダは、自分の身に魔力が与えられなかったことを、良かったと思うべきなのか、それとも残念に思うべきなのか、考えあぐねていた。魔力や魔法への興味は、たしかにあった。だが、ウェンディが背負うことになった責任は、あまりにも途方もない。それは、人間全体の、そして世界の将来に、大きく影響を与えるかもしれないのだ。
アマンダは、友であるウェンディの幸せと、彼女が背負うことになった重い使命を、心の中で、静かに祈るのだった。
アマンダが婚約者のアーサー王子に報告をした翌々日、キャリントン公爵自らが王宮を訪れた。公爵は、王と王太子に、公爵子息の婚約者であるウェンディが、女神アルテミスから魔力を賜り、魔法を使えるようになったことを報告した。
「女神は、人を試すためにウェンディに魔力を与えたのであり、かつて人が犯した過ちを再び繰り返すようなことがあれば、ウェンディから魔力が奪われると、そう仰せでございました」
公爵は、女神の言葉をそのまま伝えた。
「女神アルテミスが言う『人の過ち』とは、動植物を問わず、魔力を使って命を奪うことのようだとも、聞いております」
公爵からの報告に、王と王太子は、静かに頷いていた。
それから一週間ほどして、エスメラルダから、ドミニク王女とその夫となったチャールズ王太子が、王宮を訪れた。表向きは表敬訪問だったが、実のところ、女神アルテミスから魔力が下賜された、という情報の真偽を確かめるために来たようだった。
ドミニク王女主催のお茶会に、アマンダはアーサー王子とともに招かれた。それが初めての外交の仕事となるアマンダは、極度の緊張に包まれていた。かつて、お茶会を滅茶苦茶にされた因縁の相手、チャールズ王子も同席している。だが、アマンダは、心の中で、自分はもう、ただの伯爵令嬢ではない、と、静かに覚悟を決めた。
ドミニク王女は、アーサー王子から聞いていた通りの、黒髪に黒い瞳が印象的な、妖艶な雰囲気をまとった女性だった。
「アマンダ様、今日は私の茶会においでいただき、ありがとうございます。夫のチャールズと積もる話もあるでしょうが、わたくしとも親しくしていただけると嬉しいわ」
ドミニク王女は、流暢な言葉でアマンダに話しかけてきた。アマンダは、少し緊張しながらも、落ち着いて応じた。
「ドミニク様、お噂はかねがね伺っておりました。今日は王女様とお会いできると伺って、わたくしも嬉しく思いました」
社交辞令もそこそこに、ドミニク王女は、すぐに本題へと切り込んできた。
「アマンダ様も、女神アルテミスとお会いになられたとか」
アマンダは、その率直な言葉に、少し驚いたが、臆することなく答えた。
「はい。わたくしと、キャリントン公爵子息ジェームズ様の婚約者であるウェンディ嬢の前に、女神様が現れました。正確には、ウェンディ様の体に、女神様が降りてこられて、わたくしとお話をしていただいた、という感じです」
「まぁ、ウェンディ様に女神様が降りられるなんて、わたくしは少し怖いわ」
ドミニク王女は、そう言って、少し身震いをするように見せた。
「実際には、怖さは感じませんでしたが、ただただ驚きました。女神が降りられたウェンディ様は、それ以降、女神様と繋がることができたようで、夢の中で、女神様から教えを受けられているようですの」
アマンダが話を終えると、アーサー王子が、強引に話題を変えようとした。
「ドミニク様、女神様の話はさておき、我が兄チャールズは、きちんとドミニク様の夫として、役目を果たしておりますか?弟としては、大変気になるところでしてね」




