揺れる馬車と、夢の啓示
モアナ族の集落で、三日ほど休養したアマンダたち一行は、ようやく帰路についた。二日かけて、馬車を預けてある宿まで戻ると、待っていたアマンダの侍女と御者が、涙を流して出迎えてくれた。一月近くも姿を見せなかったのだから、心配するのも当然だった。
宿には、公爵邸からも、迎えの騎士が数名来ていた。アマンダは、その場で、時間がかかった理由を説明し、女神アルテミスとの邂逅が叶ったこと、そして、魔力を人間に戻すという話は拒否されたことを語った。
「女神様と会えたということが、まず奇跡でございます……。女神様は、本当に存在するのだと……」
騎士たちは、驚きに目を見開いていた。
旅籠の主アンドレアさんが、たっぷりの食料を持たせてくれ、一行は再び馬車で領都へと向かう。ウェンディは、その頃になると、旅の疲れがどっと出たようで、馬車の揺れに身を任せ、うつらうつらと眠っていた。アマンダは、その横で、無理に起こすようなことはしなかった。
ウェンディは、今、夢の中で、女神との邂逅を、もう一度たどっているのかもしれない。アマンダは、そんなことを思いながら、静かに、ウェンディの寝顔を見つめていた。
ウェンディは、馬車の揺れの中で、夢を見ていた。それは、ただの夢ではなかった。白い光に包まれた夢の中で、ウェンディは、女神アルテミスから、魔法の特訓を受けていたのだ。
女神は、ウェンディに、正しい魔法とは何かを教えた。魔法は、命を活かすために使うもの。命を奪うために使ってはならない。そして、魔力は人間だけが持つものではないこと。かつては、精霊や妖精と呼ばれる者たちも魔力を持ち、魔法を使っていたこと。女神は、遠い昔の出来事を、まるで物語を語るように、ウェンディに直接教え込んでいた。
そんなウェンディの隣で、アマンダは、ただ静かに彼女の寝顔を見つめていた。アマンダは、ウェンディが夢の中で女神と交信していることなど、知る由もなかった。
(女神の依り代として務めを果たしたのだから、さぞかし体に負担がかかったのだろう)
アマンダは、そう思っていた。人ならざるものをその身に宿すということが、どれほど過酷なことなのか。アマンダは、ただ、ウェンディが疲労困憊で眠るその姿に、静かに思いを馳せていた。
アマンダとウェンディは、無事に公爵邸まで帰り着いた。ウェンディは、心配をかけたことを詫びると、今回の遠征で女神に会えたこと、そして、その際に女神が自分の体に降りてきたことを話した。
「女神アルテミスは、かつて人間に魔力を与えたことを後悔しており、再び魔力を与えることには否定的でございました」
ウェンディは、冷静に、そこまでを公爵に報告した。
その上で、ウェンディは公爵に、
「人払いをお願いしてもよろしいでしょうか」
と、そう言った。公爵は、何か秘密のことがあるのだと察し、すぐに人払いをしてくれた。




