女神降臨と背負わされた重責
その時、突然、ウェンディの体が痙攣し、光り出した。ウェンディを光が包み込むと、神殿中に、響き渡る声が聞こえた。
「我は女神アルテミスである。我を呼び出したのは、汝か」
その声は、アマンダに直接問いかけていた。突然のことに、アマンダは動転していたが、何とかかろうじて、頭を下げて答えた。
「女神さまを呼び出したのは、ウェンディとアマンダ、二名でございます」
「人間に施した、魔力の封印を解除してほしいと、参ったのであろう」
女神は、二人の心を読み取ったかのように、そう言った。
「その通りでございます」
「それは、ならぬ」
女神の声には、確固たる拒絶の意志が込められていた。
「魔力は、人間には過ぎた力だったのだ。魔法で地上を灰燼に帰そうとした愚か者がいたのを、そなたも知っているであろう」
アマンダは、ウェンディの父が話した、恐ろしい噂話を思い出していた。この旅の始まりの物語が、今、目の前で現実となっていた。
「しかし、一つ、そなたに提案がある」
女神の声は、厳しさの中に、どこかかすかな期待を含んでいるようだった。
「断ることもできるが、我を呼び出したそなたたちの内、我が依り代としたこの娘に、魔力を与えよう。人間が魔力を正しく使えることを証明できれば、徐々に人間全体に魔力を戻してやっても良い。どうする」
アマンダは、愕然とした。ウェンディを依り代にしている以上、自分だけで独断で返事をするわけにはいかない。
「女神さま、今女神さまが依り代としておられる、ウェンディ本人に、この提案を聞くことは可能ですか?」
アマンダの問いに、女神は、少し意外そうな声を上げた。
「この娘は、すでに私に『魔力を欲しい』と言ってきている。アマンダよ、お前の答えは?」
アマンダは、ウェンディの言葉を信じた。そして、まっすぐに顔を上げて答えた。
「わたくしは、ウェンディを信じております。彼女であれば、その大役を、きっと果たせると信じます」
「そうか。……分かった」
女神の声が、遠ざかっていく。ウェンディの体が、光を失い、脱力して、崩れ落ちるように倒れた。アマンダは、慌ててウェンディに駆け寄った。
「大丈夫、ウェンディ!」
アマンダの呼びかけに、ウェンディは、ゆっくりと目を開けた。
「アマンダ……。わたくし、どうしたのかしら?女神さまは?」
「女神さまは、あなたの体に降りてきたの。人間には魔力を返せないとおっしゃっていたわ。でも、あなたにだけ魔力を与えるって……。ウェンディが魔力を正しく使いこなせれば、人間に魔力を返してもいいって、そうおっしゃっていたのよ!」
ウェンディは、顔を真っ青にして、ふるふると震えた。
「わたくしに、そんな大役が担えるのかしら……。自信がないわ」
「えっ?でも、女神さまは、あなたが了承したって、言っていたわよ?」
ウェンディは、頭を押さえながら、うっすらと記憶を辿った。
「……そう言われてみれば、夢の中で、そんな会話をしたような気がするかも……」
そう言ってウェンディは、まだぼんやりとした表情で、アマンダを見つめた。二人の、そして人間全体の運命をかけた、新たな試練が、今、始まったのだった。
神殿から出てきた二人を、集落の長は静かに待っていた。二人の顔を見て、長はすべてを察したかのように、ゆっくりと口を開いた。
「女神様は、現れたのですね」
アマンダは、ウェンディのことが心配で、すぐにでも休ませてやりたかった。そして、彼女が魔力を賜ったことは、今は秘密にしておいた方がいいだろうと咄嗟に考えた。
「はい、アルテミス様は、ウェンディの体を依り代にして現れました。人間に魔力を戻すことは、断られてしまいました」
アマンダがそう答えると、長は、ウェンディの方に静かに視線を向けた。
「ウェンディ様、女神様が降りた後は、尋常でなく体が疲れると申します。大丈夫でございますか」
ウェンディは、まだぼんやりとしていたが、気丈に答えた。
「族長殿、今はまだ、気が張っているせいか、何ともありませんが……」
長は、二人の様子から、それ以上何も尋ねようとはしなかった。
「今日のところは、お二人とも、ゆっくりとお休みくだされ。食事も、消化の良いものから、ゆっくりと普通に戻していかれるとよいでしょう」
そして、二人の前には、薄く、しかし温かいスープのようなものが供された。そのスープを一口飲むと、張り詰めていた二人の心が、ふっと緩んだ。疲労困憊の体に、温かいものがしみわたり、生き返るような気がした。
この旅は、まだ終わってはいない。ウェンディに与えられた、大きな使命。そして、それを見守るアマンダ。二人の物語は、新たな局面へと移り始めていた。




