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三日三晩の蝋燭(ろうそく)、浄化される心

 徒歩二日の行程、荷物は最小限に絞った。だが、アマンダとウェンディが、大した荷を持てるわけではない。彼女たちの荷物は、ほとんどをリヒターとイアンに頼ることになった。侍女のうち、足に自信があるというウェンディの侍女、エレーナが荷物持ちを買って出て、同行を許された。御者とアマンダの侍女は、「魔女の宿」で馬の世話をしながら待機することになった。


 実は、エレーナも奥地出身だった。森の中に入ったことはないというが、精霊を見たことはあるのだそうだ。奥地の方言は独特で、特に年配者が話す言葉は、まるで外国語のようだった。イアンとエレーナは、旅の通訳としても、頼もしい存在となった。


 二日と半日ほどで、一行は女神の神殿があるという集落にたどり着いた。道中、大きな熊や鹿に何頭も出会ったが、それらはすべて精霊だった。事前にアンドレアさんから忠告を受けていなければ、リヒターの矢が、あるいはエレーナの短剣が、彼らに向けられていたかもしれない。獣の姿をした精霊は、敵意を見せなければ、静かに立ち去るというのは本当だった。


 アマンダは、生き物たちを傷つけずに済んだことに、心から安堵した。ウェンディは、この土地が持つ、不思議な物語の気配を、肌で感じていた。旅は、まだ始まったばかりだった。


 集落に着いた一行は、まずおさの家へと向かった。長は、見慣れぬよそ者たちを前に、威厳のある表情で言った。


「女神の神殿は、我々、奥地の民『モアナ』のものであり、古くから、よそ者を入れてはならぬという伝承がございます。どうか、ここはお引き取りくだされ」

 その言葉は、まるで固く閉ざされた扉のようだった。


 だが、アマンダとウェンディは、ここまで来る間に、これくらいの拒絶は想定済みだと考えていた。ウェンディは、公爵家の図書室で、閲覧が制限されていた古文書の中に書かれていた、ある呪文の話を、そっと切り出した。


 その瞬間、集落のおさは、はっと目を見開き、二人のほうをまじまじと見つめた。

「その呪文を知っているとは……。久しく表れなかった女神との謁見が叶う人間が、あなたたちなのかもしれぬ」


 長の言葉で、風向きが変わった。

「女神に会うためには、儀式が必要だ。三日三晩、ひたすら祈り続けねばならぬ。そして、その前に、体を清めるために、肉や魚を体から抜くため、一週間は草木の実だけで過ごさねばならぬ」

 長は、女神に会うための儀式に参加する覚悟があるか、と二人を試すように尋ねた。


 しかし、ここまでの苦労を考えれば、それくらい、大したことではない。アマンダもウェンディも、迷うことなく、頷いた。

 長は、その覚悟に満足したように、静かに微笑んだ。儀式への準備は、翌日から始まることになった。


 一週間の精進料理、草木の実だけの食事は、最初の三日ほどは、二人の空腹を極限まで苛んだ。だが、四日目を過ぎた頃から、アマンダとウェンディは、まるで気が抜けたように、ハイな状態になっていった。空腹は空腹だが、もう耐えられないほどではない。そんな不思議な感覚の中、一週間が過ぎていった。


 体を清めるため、女神の泉と呼ばれる冷たい水で沐浴し、木綿製の生成りの貫頭衣に身を包んだ二人。いよいよ、神殿の祈りの間へと足を踏み入れた。三日三晩の祈りが、始まったのだ。


 三日三晩とは言うものの、実際には、長大な蝋燭に一日分の目盛りが刻まれており、それが燃え尽きるまで祈りを捧げる、というものだった。蝋燭がきちんと燃えれば、実質は十時間ほどの祈りで、残りの時間は休息にあてられた。そうして、三日目の祈りも終わり、アマンダとウェンディは、女神が降臨するのかと、期待に胸を膨らませて待っていた。


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