森のほとりの魔女と、束の間の休息
旅の序盤は、まだ村が点在しており、旅籠のない土地では村長の家に泊めてもらいながら進んでいった。旅の供のイアンが村の人々と話すのを聞きながら、奥地への情報を少しずつ集めていく。しかし、どの村でも、女神の神殿への参拝はよそ者には難しいという話ばかりで、実際に参拝したことがあるという者は皆無だった。
やがて、村も途切れ、一行は野営を強いられるようになった。初めての野営に、ウェンディとアマンダは二晩ほど興奮していたが、三日目以降は、体の汚れと旅の疲労が蓄積し、口数が少なくなっていった。
そして八日目。予定通り、一行は大きな森のほとりにたどり着いた。そこには、自称「魔女」が営む、食堂兼旅籠があった。一行は、温かい食事と湯気の立つ風呂、そして清潔なベッドにありつき、疲労困憊の体をゆっくりと癒した。
宿の女主人であるアンドレアさんは、齢五十というが、どう見ても三十歳くらいにしか見えない、若々しい女性だった。かつては王都で近衛騎士を務めていたが、怪我を負って引退し、退職金をはたいてこの宿を始めたのだという。
「魔女と自称しているのは、男除けでね。こう言っておくと、腑抜けた男は怖がって近づいてこないから、ちょうどいいんだよ」
そう言って、アンドレアさんは豪快に笑った。元近衛騎士だけあって、背が高く見目も良い彼女は、さぞかしモテたことであろうと、ウェンディとアマンダは思った。
旅で汚れた衣類も、アンドレアさんの手にかかれば、翌朝までにきれいに洗濯され、パリッと乾いていた。こうした手際の良さも、「魔女」だからと言われると、なるほどと納得させられてしまうものだった。
この宿に馬車を預け、一行は、いよいよ徒歩で女神の神殿を目指すことになった。出発前に、宿の主であるアンドレアさんが、これからの旅路について、いくつか忠告をくれた。
「ここから先は、精霊にたくさん出会う。礼を失しないよう、十分に注意することだ。精霊は、どんな姿で現れるかわからないからね」
その言葉は、まるで物語の始まりを告げるかのようだった。




