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聖域へのキャラバン

「私たちは、本当に何も知らないのね。お屋敷の執事にでも、相談してみましょう」

 ウェンディがそう言うと、二人は一旦、公爵邸まで戻ることにした。人の雇い方、そしてこの土地の人々の心を掴む方法を、もう一度、一から考え直すために。見知らぬ土地の、見えぬ壁が、二人を包み込んでいるようだった。


 公爵邸に戻ったウェンディとアマンダは、さっそく家令のリチャードの元を訪ね、口入屋での出来事を話して助言を求めた。

 リチャードは、二人の話に静かに耳を傾けると、恭しく、しかしきっぱりと述べた。

「ウェンディ様が、奥地へお出かけになりたがっているという件は、公爵様から伺っております。しかしながら、なにぶん未開の土地でございます。わたくしとしては、お薦めは致しかねます」

 婉曲ながらも、リチャードもまた、二人の旅に反対しているようだった。


「我儘なのは承知しております」

 ウェンディは、一歩前に進み出て、まっすぐにリチャードを見据えた。

「ですが、私とアマンダは、どうしても女神の神殿を訪れなければならないのです」


 ウェンディの強い決意に、リチャードは、一瞬たじろいだ。そして、ふぅ、とため息をつくと、観念したように言った。

「そこまで仰せになるのであれば、承知いたしました。奥地出身の使用人を一名と、騎士職の者を一名、お付けいたしましょう。口入屋には、こちらから断りの連絡を入れておきます。奥様方お二人に、素性の知れぬ者を付けるようなことは、公爵様も望まれないかと存じますので」


 リチャードの言葉は、二人の旅が、決して簡単なものではないことを、改めて物語っていた。それでも、二人の心は、遠い奥地にある、失われた物語への入り口へと、一歩近づいたのだった。


 翌日、二人は旅の供を紹介された。騎士のカール・リヒターと、奥地出身の使用人であるイアンである。


 イアンの話によると、女神の神殿までは、馬車で八日、その後、徒歩で二日ほどかかる道のりだそうだ。盗賊が出るような心配はあまりないが、今回の女性二人による冒険旅行は、すでに噂になっている。興味本位でちょっかいをかけてくる輩はいるかもしれない、とのことだった。


 騎士のリヒターは、公爵家の副騎士団長で、実力は随一。遠い国から来て、その実力だけで今の地位まで登り詰めた人物だが、礼節をわきまえた紳士であると聞かされた。


 物資を整えるのに二日を要し、いよいよ出発の日がやってきた。旅は、ウェンディとアマンダ、それぞれの侍女が一名ずつ、そしてリヒターとイアン、御者が三名という大所帯だった。馬車二両に、荷馬車が一両。アマンダとウェンディは、改めて、奥地への旅が、どれほど大変なものなのかを知った。


「現地に人が住んでいるとはいえ、貧しい土地ですので、食料などを現地で調達するのは難しいのです。逆に、穀物を少しでも持って行くくらいの気遣いが必要な土地なのです。水の補給だけでもさせてもらえるので、これでも砂漠の旅よりは荷が少なくて済む、と申せましょう」

 家令のリチャードが、そう言った。


 口入屋の主人が、報酬は金銭ではなく現物がいい、と話していたのは、こういうことだったのか。二人は、これから始まる旅の本当の姿を、少しずつ理解していった。それは、失われた魔法を求める、夢のような旅ではなかった。現実を直視し、様々な困難を乗り越えていく、厳しい道のりであることを、二人は覚悟した。


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