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我がウェンディを傷つける者は……

 そんなウェンディの元へ、ある日、遠縁にあたるキャリントン公爵家から縁談が舞い込んできた。キャリントン家は、数代前にラッセル侯爵家を輩出した家系で、さらに古くは、今の王家とも血の繋がりがあるのだという。その広大な公爵領は、この国の穀倉地帯に広がっており、年貢だけでも豊かな暮らしが送れるだろうと思われた。


 ラッセル侯爵は、この縁談も悪くないと考え、ウェンディとキャリントン家の嫡男、ジェームズとの見合いを進めることにした。


 王都の高級レストランの個室に招かれたウェンディは、ひどく緊張していた。見合いの相手であるジェームズ・キャリントン公爵子息は、ウェンディより二つほど年上で、落ち着いた雰囲気をまとった男性だった。その容姿は、平均より少し良い程度だったが、立ち居振る舞いから、並外れた育ちの良さが感じられた。静かに、しかし流れるように動く彼の姿に、ウェンディは、心の中で、そっと息をのんだ。


 ウェンディとジェームズの見合いは、お互いに好感触という雰囲気の中で終わった。この後も何度か顔を合わせ、両家が接近していくことになるだろうと、誰もがそう思った。


 学校に戻ったウェンディは、アマンダに、キャリントン公爵子息と見合いをしたことを話した。アマンダは、ウェンディの言葉に「へえ」と相槌を打ちながら、「で、どんなだった?上手くいきそう?」と、興味津々で尋ねた。


 ウェンディは、少し思わせぶりな言い方で、答えた。

「今のところは、順調そうね。……どこからか、邪魔が入らなければ、だけど」


 その言葉に、アマンダは、きっぱりと言った。

「私は、絶対に邪魔はしないわ」


 するとウェンディは、くすりと笑った。 「そんなこと、わかっているわよ。邪魔者というのはね、身内にいるものなの」 その言葉は、まるで鋭い針のように、ラッセル侯爵のことを指し示しているようだった。アマンダは、ウェンディの言葉の裏にある、侯爵家の事情を察し、何も言わずに、ただ静かに頷いた。彼女は、ウェンディが、今度こそ幸せを掴んでほしいと、心からそう願っていた。


 アマンダの周りには、穏やかで平和な日々が流れていた。第三王子アーサーからは、時々お茶会の誘いがあり、ウェンディと一緒に出かけることもあれば、アマンダだけが呼ばれることもあった。回数を重ねるうちに、アマンダはすっかり肩の力が抜け、離宮であろうと、王宮であろうと、以前ほど緊張することなく出席できるようになった。ただ、王子の護衛として、長兄のウィリアムズが同行したときだけは勝手が違った。ウィリアムズは、アマンダの些細な言動をいちいちからかい、そのたびにアマンダは、ぐったりと疲れ果てた。だが、そうしたイレギュラーさえなければ、お茶会はいつも楽しいものだった。


 やがてアマンダは、第三王子と第二王子の間にいる、スカーレット王女殿下からもお茶会に招かれるようになった。ここでは女同士、王子とはできないような、他愛もない会話で大いに盛り上がった。スカーレット王女の屈託のない笑顔は、アマンダの心をさらに和ませた。


 一方、ウェンディとジェームズとの交際も、順調に進んでいた。だが、一度だけ、小さな騒動が持ち上がった。ウェンディがキャリントン公爵領へ出向いた際、領地の女性たちが、自分たちの「王子」であるジェームズを奪われる、と騒ぎ立てたのだ。ウェンディは、その場の雰囲気に気圧され、少しばかり怯んでしまった。


 しかし、ジェームズは、その時、迷うことなくウェンディを庇った。

「我がウェンディを傷つける者は、私を傷つける者と同じである」

 領地の女性たちの前で、ジェームズは毅然とした態度でそう宣言したのだ。その言葉を聞いたウェンディは、胸の奥が熱くなるのを感じた。その一件で、ウェンディの中で、ジェームズの男ぶりは、ぐっと上がったのだった。


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