8.第5節:血は嘘をつかない
一一一一一一一一一一一一一一一(柚葉視点)
(れんに任されちゃったからな〜、頑張らないとっ)
私は空を飛びながら、どういう流れで調べようか考える。
建物の構造に、警備システム……それから監視カメラの位置と、入れ替われそうな従業員、だっけ?
「うんっ、いつも通りやればいけそうっ!」
私は呟きながら屋上に降り立ち、腕を捲りナイフを取り出す。
私は血を操ることが出来る。
私の血に触れたものの情報は全て私の頭の中に流れ込み、記憶される。
建物の構造や、人の容姿や性格、生き方、その時の感情すらも、なんでもわかる。わかってしまう。
相手が傷を負っていれば操ることも、治すことも出来た。
だからこそ、疎まれた。
気持ち悪いと蔑まれ、近寄るなと遠巻きにされた。
その中でただ1人、彼だけは。蓮也だけは、私を疎むことは無かった。
一一すごい能力だ、一緒に来るか?
そう言われた時の私の気持ちは、今までにないほど高鳴った。
だからこそ、蓮也に失望されるくらいなら死んだ方がマシだ。
だからこそ、彼の期待には応えなくてはならない。
「れん…待ってて。今回も、絶対やり遂げるから。」
腕を、斬る。
ボタボタと、血が滴り落ちる。
落ちた血は、まるで逆再生するかのように宙に浮かぶ。
「探って。」
血は弾け飛び、霧となり、建物に侵入していく。
「頑張るね。待ってて、れん一一」
貧血になった私はその場に座り込んだ一一一。
一一一一一一一一一一一一一一一(蓮也視点)
「……………。」
聞こえてくる話は、ろくでもない内容ばかりだった。
金が、敵が、女が、薬が、殺すか、攫うか、そんな会話ばかり。
魔力探知もかけてみたが、《鍵》らしき反応が複数あって、どれが本物か分からない。
『そういえば堂島様、《鍵》の方は…』
(……!!)
『あぁ、ちゃんと肌身離さず持っておるよ』
(やっと情報を口に出したか。しかし、肌身離さずとは……)
『ここにな!』
堂島は首元に下げていたネックレスを取りだし、ぶら下がった《鍵》を見せびらかすように掲げた。
見た目もそのままの《鍵》は何やら怪しい雰囲気を出してる。
『これには盗難防止用に、ワシから離れた瞬間音が鳴るようになっていてだな一一』
(盗難防止魔術か、厄介だな…しかし、本当にあれが《鍵》なのか?)
他の魔力反応を探る。
(他に肌身離さず持っていそうなのは指輪と……魔力結晶か?全て身につけているが、どれが本物なんだ…?それとも、この全てがダミーで別の《鍵》があったりするのか?)
鍵の見た目は資料に乗っていただろうか。
確認してみる。
一一乗っていないな。
黒刃に聞いてみないとダメか。
俺は黒刃に魔力通信をかけ、頭の中で話しかける。
『………黒刃か?今いいか?』
『あぁ、大丈夫だ。どうした、問題があったか?』
『《鍵》らしきものが複数ある。どれが本物か分からない。見た目の情報は無いのか?』
『残念ながら、《鍵》の見た目は私にも分からない。全て奪うことは可能か?』
俺は内心ため息をついた。
『………できなくはないが、確実にバレる。』
『構わん。本物が手に入ればそれでいい。それに、お前なら逃げられるだろう?』
『まぁそうだが………。一一わかった、最終日に決行する。』
『よろしく頼む、ではな。』
プチッと通信が切れる。
人の気も知らないで…好き勝手に言う。
まぁいい、仕事をするだけだからな。
もう後は記録用魔道具を放置して一旦帰っても大丈夫だろう。
柚はどうしてるだろうか。
俺は新たに遠距離盗聴用の魔力結晶を忍び込ませながら柚に魔力通信をかけた。
『柚?今どんな感じだ?』
『れん〜!えっとね、もうちょっとで建物全体把握し終わるとこだよ!』
『そうか、わかった。こっちは今日はもう終わりで良さそうだ。柚の方が終わったら、一旦帰ろう。』
『わかった〜!今屋上にいるからね。』
『了解。最終確認が終わったらすぐ行く。』
魔力通信を切り、魔力結晶がしっかり反応するかを確認した後、窓から脱出した。
決行は最終日。
それまでに情報をまとめあげ、戦いに備えなければならない一一一