6.第3節:囁かれる失踪
家に着き、ドアを開けた瞬間柔らかいものが飛び込んできた。
「れん〜!!遅かったね、大丈夫だった?怪我してない?無理してない?」
「大丈夫だから、とりあえず中に入るぞ。」
俺は柚を押しのけながら家の中に入る。
「ん〜ちょっと冷たいれんもステキだね、今日も大好きっ!ねぇねぇ、呑みはどうだったの?ちょっと嬉しそうだけどなんかいい事あった?何があったの?」
「そうだな……」
俺は着替えながら質問をした。
「静岡旅行2週間に伸びるって言ったら嬉しいか?」
柚は硬直した後、プルプル震え始めた。
「〜〜〜!!!めっっちゃ嬉しいっ!2週間のお休みとるね!!!!ありがとう大好きだよれんっ!!!」
と叫び抱きついてきた。
「ははっ、まぁ俺は静岡で"仕事"なんだけどな。」
「……えっ。」
「えっ??」
部屋がしーんと静まる。
柚の顔がみるみる曇っていく。
「ま、まぁ、静岡に2週間一緒にいられるって点は変わらないから、な、ほら、そんなに落ち込むなよ……スイーツでも食うか?」
「うわあああぁぁん!!れんのばかぁぁ〜〜!!!」
柚は泣きながら走り去ってしまった……。
「……まぁ、後で落ち着いたらアイスでも渡せば許してくれるだろ。単純なヤツで助かる。」
俺はパーカーに着替え終わるとベッドに倒れ込む。
大したことはしてない1日だったが、収穫はあった。
4.5年前からではじめた失踪者。
……舞がいなくなった時と一致する。
これが舞と関わっていれば、なにか手がかりが見つかるかもしれない。
連れ去られた可能性ばかり考えていたから、他にも消えている人がいるなんて俺には考えもつかなかった。
悠真のおかげだな。
俺は寝転びながらスマホで失踪者のことを調べてみた。
数は少ないが、いつくかの記録がヒットした。
だが一一なぜだ?
何故、これほどの事態が騒がれていない?
悠真は、どこまで知っている?
消えた人の特徴、共通点等はあるのか。
静岡のどこに、何が、どんな情報があるのか。
調べなければならないことがたくさんある。
とりあえず、悠真には静岡に行くまでに知っている情報を聞き出さなければいけない。
「……さて。柚の機嫌は少しは落ち着いただろうか。」
俺は起き上がりリビングに向かった。
一一一一一一一一一一一一一一一
リビングに行くと、柚は体育座りしながらスンスンと泣いていた。
「柚。機嫌を治してくれ。2週間行くことになった理由を話すから、とりあえず話でも聞いてそれから落ち込むか考えろ。」
「スンっ………うん、わかった。それで?どうしてなの?」
柚が涙を拭いながらこちらを見たのを確認して、理由を語り始めた。
「舞の手がかりになりそうな情報を貰った。」
「ほんとっ?!」
柚は真剣な表情になり前のめりに話を聞く。
「あぁ。なにやら、全国的に人が消えていたようでな。それの原因が静岡にあるかもしれないみたいなんだ。」
「そうなんだ……。それを調べるためなんだね?」
「そうだ。舞と関係がないかもしれないが、可能性は調べたい。そしてこの話は《戒》の仕事として出た話だから、仕事なんだ。だが他の《戒》は来ない。柚にももちろん手伝ってもらうつもりだから、行動は2人だ。手伝って、くれるか?」
柚は真剣な顔で黙り込んだ。
俺も柚を見つめて黙る。
「……………………うん、わかった。そういう事なら、私も全力を尽くすよ。一緒に手がかり、見つけようね!」
俺はほっとした。
柚が断らないのは知っていたが、真面目な話はどうにも緊張してしまう。
「あぁ、ありがとう。柚が手伝ってくれるのは、本当に助かる。頼りにしてるぞ。」
「えへへ、うん!任せてよ!」
必ず見つけだす。
そうだ、アイスでも食うか?
そう言いかけた時、明るい空気を断ち切るように、魔力通信の陣が突然浮かび上がり、頭の中に音を鳴らす。
『瑠、紅月、今いいか?仕事だ。』