3.第3節:追跡の罠
すこし飛んだところで俺は魔力マーキングを起動する。
耳のところに陣が浮かび、そこから声が聞こえてくる。
『…………で、はい…………今………区・南域…………5……』
「少し聞こえずらいな……魔力妨害を使っているのか。だけど俺には関係ない。」
俺は魔力出力を上げた。
『はい、現在愛知 第4管区・南域ブロックD-5より中域C-4方面へ移動中。最終目的地は未だ不明です。はい。包囲網をお願いします。』
……やはり追跡されていたか。
しかし一体どうやって……
そこで俺は思い出した。
施設でナースの女とぶつかった事を。
女とぶつかった右側を中心に探ると、ポケットの中に発信機を発見した。
「あの女もグルだったのか…見抜けなかった俺のミスだな。あの時は焦りすぎてた。今後は気をつけないと……。」
しかしどうするか。
このまま発信機を捨ててもいいんだが、鬱陶しいあいつをおちょくるのも面白そうだな。
「……よし。とりあえず柚と合流するか。」
俺は別の魔力を構築し、柚に発信した。
『………もしもし?れん?作戦は、舞ちゃんはどうだったの…?』
「失敗した。この話は後でする、今は時間があまりない。柚今どこにいる?」
『中域C-3辺りで待ってるよ〜。合流する?』
「合流したい。目印になる建物…そうだな、その辺で1番高いビルの屋上で待機しててくれ。ついでに俺と同じような体格の男を1人拉致ってこい」
『了解〜。じゃっ、また後でね!』
通信が途切れた。俺も中域C-4方向から少し変更してC-3方向に向かった。
ゆず、本名 神城 柚葉
表向きは神城 柚葉と名乗り外科医をしていて、表の裏ではTōkaとして宝石細工や金属細工、魔装細工(詠刻術)等の様々な細工をする細工アーティストをしている。
裏の仕事は紅月と言う名前で活動している。
俺の相棒、仕事仲間だ。
一一一一一一一一一一一一一一一(合流地点にて)
「れん〜!会いたかったよ〜」
「ゔー!!ゔぅー!!!!!」
そういって柚は俺の腕に抱きついてきた。
「離れろ、鬱陶しい。」
「もう……れんったらケチなんだから。でもそんな所も好きだよ。……それで、状況は?」
「いつも通り隼に追われてる。発信機はこれだ。」
そういって僅かに魔力を放つ小さな機械を見せた。
「壊しちゃえばいいんじゃないの?」
「それもそうなんだが……いい加減ムカついてるからな、少しおちょくってやろうかと思って。」
「な・る・ほ・ど〜……。いいね!楽しそう!それで?どうするの?」
「その男を使う。」
そう言って俺は拘束された男をちらりと見る。
身長・体格、全てが俺と同じような男。
さすがだな、柚は。いつも俺の期待を裏切らない。
「俺の服をこいつに、こいつの服を俺が着て、発信機をこいつに持たせて空に飛ばす。家とは逆方向にな。」
「30分ほど飛ばせて地面に降ろしてやればいいだろう。」
「なるほどね、いいと思う!じゃあ早速……」
柚は男にじりじりと詰め寄り、服を脱がせ始めた。
俺も自分の服を脱ぐ。
顔の変装も別のものに変えた。
(静かに吹く風の音)
一一
一一一
一一一一・・・
「着替え終わったな。じゃあな、気張れよ、名も無きおっさん」
「ゔー!!!!ゔゔー!!!!!」
俺は男を空に浮かばせ、30分で地面に落ちてくように魔力を調節して、南東域E-5に向かって飛ばした。
「……さて、少し回り道して家に帰るか。」
「そうだね。あの家に、帰ろう。」
ようやく腕を解放した柚と共に空に浮かび、北域B-3方面に向かった。
一一
一一一
一一一一・・・
なにか騒がしいと思った。下からだ。
柚に舞のことを話していて気づかなかった。
何事かと思い下を見ると、大量の戒機《斥》の車がいた。
「何事だ?こんな《戒》が出動するなんて…いや、まさか……」
《戒》とは、別世界の日本で言う警察組織で、《斥》とはパトカーのことである。
俺は魔力マーキングを再起動した。
『ええ、はい、そうです、E-5方面はダミー、B-3方面が本物です、はい。はい…はい、《斥》複数台にて追跡中です』
……………やられた。
恐らく発信機はダミー、俺自身に位置情報の魔力マーキングが付けられていたんだ。
「柚、予定変更だ。二手に分かれる。俺はB-2、柚はC-3方向に戻れ。柚に魔力マーキングは付いていないから路地裏で降りてしばらく潜伏、その後戻ってこい。それぞれ《斥》を撒いたら家に集合だ。」
「了解〜。れん、気をつけて帰ってきてね。れんがいないと、私………」
「わかった、気をつけるから、柚も、全力で撒けよ。」
「うんっ!わかった〜!じゃあまたあとでね〜」
俺たちは二手に分かれた。
『……二手に分かれた?そうですね…本命はB-2方向に向かってます。7:3で《斥》を分けて追跡してください。』
………本当にしつこい男だ。
どこまでも追ってくる。
俺は地形を活用しながら《斥》を撒いていく。1台、2台、3台………と車が減っていく。
「そもそもどこに魔力マーキングを…………靴か。あのナースの女、小賢しい真似を………。」
俺は適当に選んだビルの屋上に降り立ち靴を脱ぐ。
「……………あ、あった。やっぱり靴か。」
靴を持ったまま悩む。
魔力マーキングの効果時間は恐らくあと5分ほど。
「5分なら、まぁ。ここで暇つぶしするかな。」
俺は封環から適当な重いものを取りだし屋上に続くドアを塞いだ。
舞のことを考える。
舞……お前がいないと、俺は……。
頭がおかしくなりそうだった。
この1年間、あらゆる手段を使って手がかりを探した。
だが見つかった手がかりは、さっき、潰えた。
舞は今どこにいるのか、生きているのか、死んでしまったのか。
わからない。
また、調べ直さなければいけない。
一一一そんなことを考えて5分過ごした。
バリケードをしたドアの向こう側からは怒鳴り声が聞こえ、ビルの下には《斥》が並んでた。
「今度こそ、じゃあな。」
俺は一瞬姿を消してビルから脱出する。
今回は危なかった。気づかなければ家まで連れて行ってたかもしれない。
今度は気をつけよう。今度がない方が有難いが。
……ぽつり。
雨が頬を濡らした。
俺は、雨が嫌いだ。
舞が居なくなった、あの日を思い出すから。
俺はあんな四肢だけを見て諦めたりなんか、しない。
必ず見つけだす。
たとえ遺体であったとしても、必ず、取り戻す。
待っていろ一一一
そう誓いながら、帰路についた。
次回は設定集です。ネタバレも含まれるので気をつけてください。