20.第17節:空回りと火の手
なぜか、これは夢だとわかった。
俺は夢の中で舞と会っていた。
夢の中の舞は昔のままで、俺に笑顔を向けている。
俺は昨日買ったナイフとネックレスを取りだし、舞に渡す。
舞は一瞬驚いた顔をして、すぐに嬉しそうな顔で微笑んだ。
「渡しに来てね。」
舞がそう言った気がした。
そのまま俺の意識は、現実に浮上していった一一
目を開ける。
いつもの天井、いつもの部屋、何も変わらない。
ただ、舞がいない日々が続いているだけ。
俺はスマホを手に持ち起き上がり、リビングへと向かう。
柚は既に起きており、朝食を作っていた。
「あっ!おはよう、れん!ご飯もうちょっと待ってね!」
「あぁ、大丈夫だ。ゆっくり作っていい。むしろ毎朝作ってくれて助かる。」
「えへへっ。」
俺はソファに腰を下ろし、封環からふたつの箱を取りだした。
舞のためのナイフとネックレスだ。
(早く渡したいな………)
俺はしばらく箱を見つめたあと、封環に戻す。
一刻も早く見つけなければいけない。
黒刃からの情報はまだなのか一一
「ご飯、できたよっ!今日はお味噌汁とご飯と漬物、豆腐、あと納豆だよ!」
「あぁ、ありがとう。」
俺は椅子に座り、机に並べられたご飯を見る。
こういう、暖かなご飯も好きだな。
柚が椅子に座ったのを確認して、手を合わせる。
「いただきます。」
「いただきま〜す!!」
まずは味噌汁をひとくち飲む。
うん、美味い。
パクパクとご飯を食べ進めていると、柚が悲しそうな顔で話しかけてくる。
「昨日のナイフ、れんがやってたみたいに動かしてみようと思って寝る前にやって見たんだけど、すっっごく難しくて………どうやったられんみたいに滑らかに動かせるんだろう。」
「なんだ、そんなことか。空を飛ぶ時に自分の体を動かすだろ?それに近いイメージを魔力を通して送るんだ。あと俺がイメージしてるのは糸霊器を動かす感覚だな。」
「そっか、なるほど……ご飯食べ終わったらやってみる!ありがとう!!」
「あぁ、どういたしまして。柚、今日は仕事か?」
「うん!午後から1件手術が入ってるよ!」
「そうか、無理せず頑張れよ。」
「ありがとう!頑張ってくるね!」
「ちなみに俺も、今日は仕事だ。帰りはいつも通りの時間になると思う。」
「わかった!気をつけてね、怪我しないようにね!」
「あぁ。」
俺は食べ終わった食器を片付け、通勤用の服に着替える。
「じゃあ行ってくる。柚も仕事気をつけてな。」
「うんっ!ありがとう!れん、いってらっしゃい!」
「あぁ、いってきます。」
俺は外に出て駅の近くまで空を飛んだ。
駅に着き、ホームに向かうと通勤するたくさんの人がいた。
(いつもこの時間人が多いんだよな………朝から満員電車は本当にしんどい。)
俺はダミーのカバンを封環にしまい、電車に乗り込むと両手でつり革につかまる。
痴漢冤罪防止のためだ。
昔目の前で冤罪で捕まった人がいたから、それからはこうして通勤するようにしている。
満員電車に揺られ、俺は無心で駅に着くのを待った。
一一・・・
駅に着き、ダミーのカバンを取り出して俺は職場まで歩く。
職場は《戒》の名古屋支部。
少しデカめの建物だ。
職場に着くと、俺は更衣室で《戒》の制服に着替える。
制服は全体的に黒く、部分部分で銀色や青色の糸が使われている。
その時、後ろから声をかけられた。
「燈弥っ、よっす!」
同期の悠真だ。
「悠真か。どうした?」
「この前のことで話したいことがあるからこのあと時間取ってほしいんだけどよ、いけるか?」
「朝礼後なら少し行けるぞ。」
「了解っ!じゃあ朝礼後に第4会議室で待ち合わせな!」
「あぁ、わかった。」
「じゃあまた後でな!」
そういって悠真は部屋から出ていく。
「さて、俺も行くかな……」
着替え終わった俺は、着ていた服とカバンをロッカーにしまい、朝礼を行う共用ホールに向かった。
ホールには名古屋支部で働くたくさんの《戒》が集まっていた。
部屋を見渡すと、ちょうど悠真の隣の席が空いていたのでそこに座る。
「よっ、燈弥、さっきぶり!」
「あぁ。…………慧も、おはよう。」
俺は悠真を挟んで反対側に座る慧にも声をかける。
一瞬慧が苦い顔をしたように見えたが、気のせいだったようだ。
にこやかな笑顔で返事をしてくれた。
「おはようございます、燈弥さん。」
「それにしてもよぉ、なんで毎朝こんな集まらなきゃいけねぇんだ?話すことなんて特にないだろ!」
「まぁまぁそう言わず……他の隊員にも聞こえますから。」
「そうだぞ悠真、声を抑えろ。特に今は新人もいるんだ。手本になるような行動をしろ。」
「2人とも厳しいなぁ………ママとパパみたいだ。」
「誰がだよっ!!」
俺は悠真の左足を踏みつけた。
「ぐぁっ!!」
「そうですよ、僕がパパなわけないじゃないですか。」
「俺がママなのか?!」
3人で顔を見合せ、プッと笑う。
そんな感じで話をしていたら、前に支部長が現れた。
「始まるぞ。」
『えー、静粛に。これより朝礼を始める。起立。』
皆が一斉に立ち上がる。
『礼。』
「「「おはようございますっっっ!!!!」」」
挨拶とともに全員頭を下げる。
『着席。』
ガタガタと音を響かせながらみんなが座ったのを確認して支部長が話し始める。
『えー、今日は4月2日水曜日だ。週の真ん中だからといってたるまないように。連絡事項だ。昨日ひき逃げがあってまだ犯人は逮捕されていない。怪しいヤツがいたら職務質問をして魔力痕跡を確かめるように。あと一一一一・・・という事だ。今日も各自班に分かれそれぞれ行動しろ。あと一班につき2人以上の新人を見ること。まだ空きがあるところはこのあと前に来い。新人を振分ける。以上。解散っ!』
「「「ありがとうございましたっっっ!!!」」」
皆がガタガタと移動し始める。
「さて、慧、俺はちょっと燈弥と話があるから、先に7班のみんなを集めて待っていてくれ。」
「わかりました。」
俺も副班長に言っておかないとな。
そう思っていると、遠くからこちらに駆け寄ってくる影が見えた。
俺の班、5班の副班長である真壁 陸だ。
「燈弥さん。」
「陸か、ちょうど良かった。俺は今からちょっと悠真と話すことがあるから、先に5班のみんなを集めて待っていてくれないか?」
「わかりました。今日は最初パトロールでしたよね。1階のエントランス付近に集めておきます。」
「あぁ、頼んだ。」
「さてっ、燈弥、行くぞー!」
「おい、引っ張るなよ。」
俺は悠真に引っ張られながら第4会議室に向かった。
第4会議室に入り鍵を閉めると、悠真は魔道具を取りだして起動する。
「よしっ、これで防音になった。さて……話というのはこの前話した静岡行きの件のことなんだけどよ……あれからなんか分かったか?って、さすがにこの短期間じゃ一一」
「少しなら、わかったことがあるぞ。」
俺がそう答えると、悠真は一瞬ぽかんとした。
「え………ほんとか?この短期間に?あれだけ全然捜査が進まなかったことをか?!」
「あぁ。だが、だいぶ危険な情報だ。」
「それでもいい、教えてくれ。」
俺は少し迷った後、口に出す。
「………………《夜哭》って、知ってるか?」
瞬間、悠真の顔が強ばる。
「……………………関わってるのか。この、事件に。」
「あぁ。」
悠真はしばらく考え込むと、1回頷いた。
「よし、わかった。お前の言うことだ、信じる。だが、これは簡単に人を巻き込めない事件になる。話す人物を決めるまで、誰にも話さないで欲しい。」
「元からそのつもりだ。」
「それと、俺が知っている情報を共有しておこうかと思ったんだけどよ………もしかしたらお前の方が詳しくなっているかもな。一応聞くか?」
「あぁ、頼む。」
「俺が知っているのは一一」
そういって悠真が話し出した内容は、この数日間で知ったものよりも少ない情報だった。
「一一って感じだ。どうだ?知ってたか?」
「あぁ。俺が掴んだ内容と同じだ。」
「かーっ!!燈弥お前、凄いな!俺たちが何ヶ月もかけて集めた情報を、たった数日で手に入れたのかよ!」
…………まぁ、凄いのは、これを一括で教えてくれた黒刃なんだが………
「そうか、まぁ知ってんなら話が早いな。俺たちは今後これ以上の情報を手に入れなくちゃならない。頼りにしてるぞ、燈弥!」
「あぁ。できる限り頑張るよ。」
「じゃあ、仕事に戻るか!あー、かったりぃなぁ。」
そう言いながら悠真は魔道具を停止させ、ドアの鍵を開けて外に出る。
俺も続いて外に出た。
「じゃっ、お互い今日も一日頑張ろうぜっ!またな!」
「あぁ。またな。」
そういって、それぞれ別の道を歩き出した。
一一・・・
エントランスに向かっていると、何やら周りが騒がしい気がした。
気にせず入口まで行くと、あぁなるほど、俺の班が原因だった。
俺の班は一般隊員が4人、新人が2人、副班長、班長の俺という構成だ。
今まで一緒に働いてきた隊員は問題を起こすことはほぼ無い。だが、新人の1人、小野田 陽翔が問題だった。
熱意もある、やる気もある、だが、空回りが多いのだ。
今回は、集合場所にフル装備で現れて、空を飛ぶ練習でジャンプし電球を割ったってところか。
電球の破片がそこらに落ちている。
「…………なにをしている。」
俺は溜息をつきながら近づいて話しかける。
「げっ!!!いや、あの、その…………」
「聞いてくださいよ燈弥班長っ!こいつ、フル装備でパトロールすると思ってたんすよ!」
「先に来て待ってたらしくて、僕たちが現れた瞬間ジャンプして電球割れたんだ。」
「……………………。」
「でも、熱意はあるから……許してあげてくれませんか?」
「でもあの、フル装備以外にも余計な装備つけてて…!!」
「燈弥さん、すみません、俺がついていながら……」
上から順に、小野田 陽翔、瀬戸 宙、唐澤 楓、新見 涼、安西 葵、佐々木 澪、真壁 陸だ。
陽翔と佐々木は新人で、残りが一般隊員、陸は副班長だ。
「待て待てお前ら、いっせいに喋るな。わからなくなる。話を整理したい。陸、教えてくれ。」
「はい。まず最初に、小野田がフル装備でここで待っていました。その後来た俺らを見た時に、『見てください!俺、これでもちゃんと空飛べますからね!』と言って、ジャンプし、電球が割れました。その後皆に怒られていたところで、燈弥さんが来たって感じです。」
「なるほど、わかった。まず最初に、陽翔。フル装備はパトロールには使わない。制服に着替えてこい。あとその変な支給品じゃない装備も置いてこい。あと、室内では空を飛ぶな。」
「はい……」
「そして次に、みんなで騒ぐ前に片付けをしろ。他の隊員の迷惑になる。」
「「「はい………………(………。(こくっ))」」」
「分かったら、行動をしろ。パトロールに行くまで時間が無いぞ。」
「「「はいっ!!!!!(………。(こくっ))」」」
そこからはみんなテキパキと動き、散らばった破片を片し、新しい電球を取りつけた。
陽翔も制服に着替えてきて、やっとパトロールに出れる状態になった。
「じゃあ行くぞ。パトロールは3組に別れて行動する。1組目、俺・涼・陽翔、2組目、陸・安西・佐々木、3組目、瀬戸・唐澤。新人の陽翔と佐々木は班長・副班長の俺と陸の指示に従うこと。わからないことは俺たち以外にも聞いていい、皆勉強になるからな。じゃあそれぞれ《斥》に乗り込んでパトロール開始だ。」
俺たちはそれぞれ《斥》に乗り込むと、魔力で車を起動させ、発進した。
座ってる順番は、運転席が涼、助手席に俺、後部座席に陽翔だ。
「今日もよろしく。」
「よろしくお願いしますっ!」「よろしくお願いします…」
「今日は北西域の方をパトロールする。住宅街が多いからスピード違反・信号・踏切・一時停止に注意しよう。」
「はいっ!」「…………。(こくっ)」
「ところで、陽翔、なんでさっきはフル装備を着てたんだ?」
「いや、その………重大な事件があった時に、着てた方がいいかなって思って……」
「そうか………。これからは基本、特に服装について言われなかったら制服でこい。フル装備は滅多なことでは着ない。」
「わかりました……」
「それと、建物の中で飛ぶのも禁止だからな。もし飛んだ先に人がいたらどうなるかってのを考えろ。」
「はい………」
「説教は終わり。入隊してどうだ?なんか困ってることあるか?」
「そうっすね……敬語が大変です。実は……俺、元々言葉遣いめっちゃ悪くて、咄嗟の時に汚い言葉が出ちゃうんです。」
「まぁ、《戒》はそこまで言葉遣いに厳しくないから、気ままに治していこう。」
「そうします。あとそういえば、《斥》の操作方法とかって、今後教えて貰えるんすか?」
「そうだな。数ヶ月もすれば、2人行動ができるようになる。その時に運転させてもらえ。」
「わかりました!」
「免許は持ってるのか?」
「はい!冬に取りました!」
「そうか。運転しても、事故らないようにな。」
「っす!!」
そうして走っていると、横からすごいスピードで走り抜けていく車がいた。
「速度計って一一うん、オーバーだ。サイレンつけて追いかけて。」
ウーウー!!
サイレンが鳴って他の車が避けていく。
あっという間に車に追いつくと、スピーカーで止まるように指示する。
『端っこに寄ってください。はい、そうですそのまま…はい、ストップ。』
俺たちは車から降りてスピード違反をした車に駆け寄る。
「おにーさん、20キロオーバーだったよ。運転免許書ある?一一」
手続きが終わって、スピード違反の人は頭を下げて車に戻っていく。
俺も運転する時は気をつけなきゃなぁ、とぼんやり考えた。
「さて、まだまだパトロールするぞ。いこう。」
その後も、様々な取り締まりをした。
一時停止がいちばん多かったな。
「さぁ、とりあえず帰ろうか。」
そう言った時、ふと視界の端に何かを捉えた。
振り返ってみると、建物から火が出ていた。
「クソッ、急げ!!あの家に向かえ、火事だ!!」
『こちら5班1組、火事の現場に遭遇、座標は北西域ブロック・C-3、現場の人の避難誘導を開始します。救急・消防車は向かっていますか?』
『現在確認が取れておりません。まだ通報されていない模様。急ぎ救急・消防に連絡します。』
『了解。』
「まだ通報がされてないみたいだ。陽翔、張り切るのはいいが空回りしないように気をつけろ。涼、現場の人の誘導を頼む。」
「はいっ!」「…………。(こくっ)」
陽翔は元気よく返事をし、涼は頷く。
俺たちは《斥》から降り、火事で集まってる人達の元に向かう。
「子供が…………私の子供がっ!!!誰か、助けて…!!」
「「!!!」」
「まだ子供が取り残されてるんですか?!」
「おい、陽翔、落ち着け一一」
「助けに行ってきます!!!!!」
陽翔は俺の声も聞かず家の中に入ってしまう。
「はぁ……………俺も行く。涼、ここは頼んだ。」
「…………。(こくり)」
涼が頷いたのを見て俺も続いて家の中に入る。
家の中はあちこちに火の手が回っており、まともに歩ける場所が少ない。
俺は薄い水の膜を体に纏わせ、陽翔を探す。
「陽翔!!」
「燈弥先輩!ここです!!女の子が1人倒れてます!!」
声のする方へ急ぐ。
すると、女の子を抱えた陽翔がいた。
「陽翔、説教はあとだ。1人で脱出できるな?」
「はいっ!!あ、あの、先輩は……」
「俺はお前たちが脱出するまでこの今にも崩れそうな建物を支えないといけない。俺もすぐ脱出するから先に行ってろ。」
そう言って俺は薄い水の膜を2人に覆わせ、空気の膜を作って口元に張りつけた。
「外に出るまでは機能する。急げ、子供に傷一つつけるなよ。」
「はいっ!!!!」
そうして陽翔は外に向かっていった。
一一一一一一一一一一一一一一一(陽翔視点)
やってしまった。また、やってしまった。
1人で突っ走って、何をやっているんだ俺は。
でも、この子を助けれた。
たとえ間違っていたとしても、俺は、間違ってなかったと思いたい。
俺は女の子を連れ外に出た。
外に出た途端水の膜は割れ、空気の膜もなくなった。
「家族の方!いますか…!!子供を救出しました!!」
「あぁ……っ!!!さき……っ!!!無事でよかったっ!!!!!!!」
俺はほっとする。
俺でも、人の役に立てるんだ。
俺は、間違って、なかったんだ。
その時、母親らしき人がキョロキョロと周りを見渡す。
「すみません、あの………………家の中で男の子を、見ませんでしたか………?」
「?!」
まだ取り残された人がいたのか?!
俺はバッと後ろを振り返った。
その瞬間、ミシッミシッという嫌な音とともに、家がこちら側に傾いてきているのが見えた。
やばいっ、せめてこの人たちだけでも助けなきゃ……!!!!
でもその俺の覚悟は、無駄になった。
建物は、倒れてこなかったのだ。
(糸……??)
直後、建物はその場で崩れた。
一一一一一一一一一一一一一一一(蓮也視点)
さて、適当に補強して外に出るか。
…………いや、なんか嫌な予感がするな。
俺は一応索敵魔法を発動し、家の中を調べる。
…………ビンゴだ。
2階の部屋の中に生体反応がある。恐らく子供が倒れてる。
俺は急いで2階に向かう。
2階は火の手がすごくて床に穴も空いていたが、なんとか部屋にたどり着く。
倒れて息苦しそうにしていたのは小学2年くらいの男の子だった。
「もう大丈夫だ。助けに来たぞ。」
「う…おか、さん………」
「あぁ、すぐお母さんのところに送り届けるからな。」
俺は男の子を水に包んでから抱え、元来た道を戻ろうとするが、すでに火の手によって道は塞がれていた。
……しょうがない。壁をぶち破るか。
俺は燃えてもろくなった壁に体当たりをして外に出た。
空を飛んで燃えている家を見ると、陽翔達がいる方に倒れそうになっていた。
咄嗟に糸霊器を取りだし建物全体を糸で縛りあげ、元の位置に戻す。
(………この家はもうダメだな。このままにしておくと二次災害が起きてしまう。壊すか。)
俺は糸霊器を伝って魔法を使う。
風魔法で糸霊器で囲っている範囲の酸素を無くす魔法だ。
そして糸霊器を締め上げ、建物を崩した。
崩れた建物は糸霊器を伝って酸素が無くなったことで火の手が収まりつつある。
俺は陽翔達の元に戻った。
「あぁあああああ……!!!ようくん……ようくんっ!!!!!!!!!!」
「お母さん、落ち着いてください、きっとまだ……」
「ようくんというのはこの子のことか?」
「「!!!!!!」」
俺が子供を抱えて戻ると母親は涙を流しながら子供の元に来て頭を撫でる。
子供は少し火傷をしているが、大怪我ではないだろうから後遺症などもないだろう。
「この後救急が来る。そこで怪我の具合を診てもらうといい。」
「あぁ………ありがとう、ありがとうございます…!!!」
俺は子供を母親に渡し、陽翔の元へ戻る。
「陽翔。帰りに説教な。」
「はい…………」
「……だが、火の中に飛び込んで子供を助けに行くのは誰にでもできることじゃない。それは誇っていい。よくやった。」
「!!!!!!……………はいっ!!!!!」
陽翔は少し嬉しそうな顔で、元気に返事をした。
「涼、いるか?」
「…………。」
無言で涼が近寄ってくる。
「避難状況は?」
「近隣の住人は避難完了。ここに居るのはこの家の家族だけ……」
「そうか、ありがとう。救急と消防がくるまでとりあえず待機だ。」
「はいっ!」「………。(こくっ)」
そしてその後来た救急と消防、そして援軍の《戒》に状況説明をし、現場を任せ、俺たちは名古屋支部に戻ることとなった。
《斥》に乗り込み、名古屋支部へと向かう。
「さて、陽翔。何を言われるかわかってるか?」
「はい…………独断で行動し家の中に入ったこと…ですよね………」
「そうだ。今回は奇跡的になんとかなったが、次も同じとは限らない。独断で火の中に飛び込み、もしお前が死んだら、子供を救ってくれと頼んだ家族にも罪の意識が芽生えてしまう。それは良くない。例え取り残された人がいたとしても、現場の責任者、今回だと俺だな、俺に確認をとり、その後行動すべきだった。お前は毎回突っ走りすぎだ。周りをよく見て行動しろ。わかったか?」
「はい………気をつけます……」
「次やったら後悔させてやるからな。」
「えぇ?!き、気をつけます……」
「よし。それと涼、的確に避難指示を出してくれて助かった。あと、1人にして悪かった。」
「大丈夫です…」
「そうか。何はともあれ、今回は上手くいった。次、もし何かあったらまた頑張ろう。」
「はいっ!」「…………。(こくっ)」
無言の時間が続き、俺たちは名古屋支部に戻ってきた。
「燈弥さん、火事があったと聞きました。大丈夫でしたか?」
着いてそうそう陸が待ち構えていて質問してくる。
「あぁ、何とか無事だが、陽翔が暴走して1人で火の中に入っていったんだ。」
「ちょっ、燈弥先輩!!他のみんなに言うのは無しですって!!」
「どうせすぐバレるからいいだろ。」
「はぁ………陽翔、お前は説教だ。」
「ちょっ、陸先輩まで?!」
その時、別のメンバーも近寄ってきた。
「また陽翔がなんかしたんすか?!」
「あぁ、独断で火の中に飛び込んでいってな……」
「燈弥先輩勘弁してくださいよ!!」
「僕も見たかったな〜、それ。」
「唐澤先輩まで…!!!」
「怪我はなかったの?大丈夫…?」
「葵先輩…っ!!葵先輩だけが優しいっ……!!」
「また、空回りしたんだ……」
「澪は黙ってろよ!」
「相変わらずお前たちが揃うと騒がしいな……1回落ち着けお前ら。」
俺が一声かけるとみんな静まる。
こういうところは素直で可愛いと思う。
「よし、じゃあちょっと遅いが昼休憩だ。1時間後に昼礼室集合にする。解散っ。」
「「「はいっ!!」」」
俺はそのまま喫煙所に直行する。
タバコを吸わないと仕事なんてやってられない。
屋上につき、喫煙スペースに行くと先客がいた。
悠真だ。
「おっ、燈弥も休憩か?」
「あぁ。聞いてくれよ、さっき一一」
俺はタバコに火をつけながら先程のエントランスでの出来事と火事の話をする。
「あっはっは!!お前のとこの新人はぶっ飛んでんなぁ!いいじゃんか、面白くて。俺のとこのはすっげぇ真面目で面白味もなんもないぞ?」
「まぁ……面白いというのは、同感だが。もう少し空回りが減ればいいんだがな……」
タバコを吸い、煙を吐きだす。
風が吹き、煙をさらっていく。
俺は短くなっていくタバコの火をぼーっと眺める。
「………………まぁ、でも。子供を助けるために火の中に飛び込んでいく精神は、嫌いじゃない。」
「そうだな。誰にでもできることじゃない。立派だよ。」
「あぁ……。」
俺たちは無言でタバコを吸う。
先に悠真が火を消し、立ち上がる。
「じゃあ、俺先に戻るわ!お先にっ!」
「あぁ。午後も頑張ろうな。」
「おう!」
そして悠真が去った後、もう一本タバコに火をつけて、空を眺めながらのんびりとタバコを吸った。
あんな新人がいるなら、この世界もまだ捨てたもんじゃない。
そう、思いながら。




