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蓮に舞う  作者: Momamo
第0章
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2.第2節:空に刻む追跡線


空に出た瞬間、背後で警報が鳴った。

赤い光が建物の窓から次々に漏れて、屋上の警備員たちが慌てて何かを叫んでる。


だがもう遅い。

俺は既に飛んでる。

追ってくるなら空飛んできな。空で勝負してやるよ。



この世界の住人は空を飛べる。

だが、飛べても30分程、他に魔力を使いながらだと15分程度しか飛べない。

リミットを超えて飛ぶと良くて数日は指一本動かせなくなり、酷いと死に至る。

だから誰も飛びたがらない。

だけど俺は特異体質で生まれた時からずっと空を飛べるんだ。

だから、誰も追いつけやしない。



目指すは家、追っ手を撒いて家にたどり着くこと。



空を駆ける一一一

と言っても、別に走るわけじゃない。

魔力を纏ってその魔力を操る、そして体を押し出すように飛ぶ。

流れる風が肌を叩き、鼓膜に響く。


何百、何千回と空を飛ぶ練習をした。

だから自由自在に空を飛べる。

誰にも届かない、高さと静寂。

そこが俺の領域、俺の唯一の居場所だった。



舞のことを考えながら飛び続ける。

あれは、あの四肢は一体なんだったのか。

あれが舞だったのか?いや、そんなはず……


ふと後ろから悪寒がして振り返る。


誰かが追ってきてる。



……この魔力反応、間違いない。




時雨(しぐれ)(はやと)………!!!」




舌打ちとともにスピードをあげる。

だが、完全には振り切れない。追いつかれる一一一


隼はミルクティーベージュの髪色にグレーの瞳の眼帯をしている男で、昔からの因縁の相手だ。

なにかと俺の事を追ってきている。

ここに居るのは想定外だった。

隼は俺を追いかける為に空を飛ぶ練習をしたのか、飛行時間は一般人と変わらないがスピードだけは速く、俺に追いついてくる。

厄介な相手だ一一一



「やぁ、(るい)。久しぶりだね。元気にしてた?」


(るい)とは、俺の裏の名前だ。


「………。お前と話すことなんざない。」


「そうつれないこと言うなよ。ぼくときみの間柄だろ?」


「………………。なぜあの施設にいた?」


「少し調べ物をしたくてね。そしたらこの施設にはいないはずの人間が歩いていた。気になるだろ?そしたらビンゴ、瑠、きみだったってわけだ。」


「厄介な………。それで?大人しく帰ってくれたりはしないのか?」


「残念だけど見つけてしまったからには今日こそ捕まえさせてもらうよ。さあ、戦おうか!」


隼は腰に差してあった剣を抜き、そのまま切り掛ってくる。


「チッ…!!!」


俺は親指にはめてる指輪《封環(ふうかん)》を起動させ、黒と白の糸霊器(しれいき)を取り出し起動した。

手元で糸霊器が唸る。黒と白の円盤が、魔力の波動を帯びて震えた。



一一一封環(ふうかん)。それは生まれつき俺の右手の親指に嵌められてる指輪だ。着脱はできない。

物を収納することができる、とても便利な機能がついている。


一一一 糸霊器(しれいき)。それはヨーヨーに似た丸い形の特殊な魔道具だ。

1つの糸霊器で最大5本の糸を出すことができ、魔力を流すことにより硬度・糸の長さ・色・形・糸の向かう方向などを変化させることが可能だ。

また、魔力を通して属性を付与することもでき、熱、凍結、電撃など、様々な効果を付けられる。

糸霊器の糸の先端には着脱可能な小さなクナイのようなものがついており、それで刺すことも、鈍器のように殴ることも出来る。

糸自体も鋭利で鋭く研ぎ澄まされていて、簡単に物を切断できる。


ただ、糸霊器は地上で使うのには向いていない。糸が地面や壁に当たりまともに戦うことが出来ないからだ。

それ故に使う人も少なく、存在している糸霊器の数も少ない。

相手を拘束する為だけに使われたりする。


俺の糸霊器は特別製で、そこらに出回っている糸霊器とは格が違う。全てにおいて使い勝手がいい。

ある程度は地上でも戦える。



「糸使い……地上で戦う分にはさして驚異では無いけど、空中で戦うとなるとやはり強いね。厄介だ。制限がない。」


「じゃあさっさと諦めてくれ、よッ!!」



俺は両手に糸霊器を持ち全ての糸を起動した。

糸が様々な角度から隼に向かって飛んでいく。

自分の周りにも糸を展開させておき接近を許さない。


隼は鋭く剣を振り、ギリギリで糸を捌く。だが、捌ききれなかった1本が頬を掠めた。

その後も攻防は続いたが、隼は糸を捌ききれずに体の所々は切れていた。



「近づけないっての、は、とても厄介だ。どうしようかな……。」


「じゃあさっさと諦めてくれよな!!!こっちは忙しいんだ。」



俺は喋りながら糸の影に魔力を仕込み、意識を逸らした一瞬に隼の外套に魔力マーキングを忍ばせる。

いつもこっそり追ってきて家を特定されかけたためだ。

それでも魔力マーキングの効果時間は30分程度のため、それ以降は変わらず警戒しないとダメだが。



「うーん。やっぱり1:1だと不利でしかない、か。わかった、今は引くよ。だが、次は包囲網ごと連れてくるから待ってて。次は必ず捕まえる。」


そういって隼は不機嫌そうな顔をしながら地上に降りていった。


俺は警戒は続けながらも一旦安堵する。


「やっと退いてくれたか。ほんと、しつこい……。」

「舞のことも…考えなきゃいけねえってのに。俺は、暇人じゃないんだ。」


俺は移動を再開した。

舞と住んでいた、あの家に。




一一一一一一一一一一一一一一一(隼視点)



やっぱり1人だと厳しいか。

でも本当に……引っかかるとは。

そう考えながらぼくは車に乗り込む。

魔力で車を起動させ、静かに出発した。



ピコンっピコンっ



手元の発信機が、律動するように光を放つ。

再び始まる、長い逃走劇。

いつも通り"彼"を追跡し始めた一一一


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