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蓮に舞う  作者: Momamo
第1章
17/20

16.第13節:《原初》の指輪


家に着いたあとティアを再び呼び、柚を着替えさせてもらってベッドに寝かせた。


『緋核液も飲ませましたし、明日には目覚めると思いますわよ。』


「そうか、わかった。ありがとう。」


『主様のためなら(ワタクシ)なんでも致しますわ!ではまた何かあったら呼んでくださいまし。』


「あぁ、また呼ぶ。」


ティアは霧のように消えた。



俺はリビングで1人、今日のことを考える。



本当に《夜哭》が現れるとは一一。

それに、柚が不意打ちとはいえ一撃でやられるなんて、あまり考えられない。

あの《夜哭》、妙に影が薄かったがそのせいか…?

特殊な能力を持っているのだろうか。


俺は封環から回収した指輪を取り出す。

小さな、エメラルドの石がついた指輪。

触っていると不思議な感覚に襲われる。


指輪を観察していると小さな文字で〈Vita(ヴィータ)〉と書かれているのを見つけた。

なんだか既視感があり、ふと思い出して封環を見ると、封環にも文字が刻まれていることに気づく。


封環には〈Primor(プリモル)〉と刻まれていた。


どういう意味なのかがわからず、ネットで調べてみるが情報があまり出てこない。

正しいのかは分からないが唯一でてきた検索結果は、〈Vita〉は"命"、〈Primor〉は"原初"という意味になるらしい。


封環には宝石など付いていないが、もしかしたらなにか《鍵》のような存在なのか…?


分からないことが多すぎる。

こんなんじゃ舞を取り戻すことも…………


その時、魔力通信がかかってきた。


「………もしもし。黒刃か?」


『あぁ、そうだ。《鍵》は無事回収できたか?』


「あぁ、紅月が《夜哭》にやられて負傷したが鍵は回収できた。いつ取りに来る?」


『そうか。今から行く、5分後に着く。』


「わかった。」


今日着ていた仕事着は柚の分も含めて細かくして捨てよう。


俺はストックしてあった新しい仕事着に着替えると、屋根裏に上がって黒刃を待った。

屋根裏は、裏の人間との取引の際に使う場所として、依頼人が入ってくる窓と俺たちが入る用の内側の階段、そして交渉用の机と椅子と僅かな灯りがある。

窓と階段に続く扉には魔力封印が施されており、俺たちが許可していない人は入ることも出来ないようになっている。



一一・・・


「それで、紅月はどんな状態なんだ?」


窓から入ってきた黒刃は椅子に座りながら聞いてくる。


「今は落ち着いているが、背中をバッサリ斬られているから暫くは安静だな。」


「そうか。《鍵》は?」


「ここに。」


俺は小さなエメラルドのついた指輪と、堂島の会話を記録した魔道具を黒刃に渡す。


「これが………確かに、持つとなんとなくだがわかるな。」


「さて。依頼された物の受け渡しも済んだし、昨日の続きで聞きたいことが山ほどあるんだが。」


「まぁ待て、そう焦るな。私の用事はまだ終わってない。」


「??」


「お前の右手を出せ。」


俺は疑問に思いながら右手を出す。

黒刃はぶっきらぼうに俺の右手を掴むと、封環がはめてある指を上にして、《鍵》をコンっと封環に押し付ける。


次の瞬間、封環から迸るような光が溢れ出し、思わず目を閉じた。


「なッ!!なにをした?!」


「やはり……………お前が……………」


「なんだって?!」


「いや、ちゃんと説明しよう。少し待て。」


光が納まったのを確認し、俺は封環を見る。

すると、何も付いていなかったはずの封環に小さなエメラルドが付いていて、先程の《鍵》に書かれていた〈Vita〉の文字も刻まれていた。

そして今までになかった穴が空いており、その数は今ついた宝石含めて12個だった。


「これは…………………一体、どういうことなのかちゃんと説明してくれるんだろうな。」


「はははっ、ちゃんと説明はするさ、そう焦るな。まぁ、私のペースで話させてもらうがな。」


「………………。それで、これは一体どういうことなんだ?」


「そうだな……何から話そうか。じゃあまずは《鍵》のことから話そう。」


「…………。」


俺は続きを促す視線を向ける。


「まず、《鍵》とは、悠命樹の"何か"を解放するためのものだ。それは知っているな?………そして、《鍵》を全てまとめ、封印を解くことができる《原初の鍵》が存在すると噂されていた。……それがお前の指輪だ。」


「封環が…《原初の鍵》…?」


「まぁ私も《原初の鍵》のことはよく知らん。噂程度だからな。ただ、実在した。それは今の現象を見たらわかるだろう。」


「…………………。」


俺は黙って続きを催促する。


「それで、現存する《鍵》は全部で12……今お前の指輪に空いている穴の数とも一致するな。《夜哭》は全ての《鍵》と《原初》を求めている。つまり、お前はこれから狙われやすくなる。私の目的は、《夜哭》より先に全ての鍵を集め《原初》に取り込ませることだ。」


「何故《原初》に集める?」


「その方が守りやすいからだ。それに……その指輪、外れないんだろう?そして恐らく、手首を切り落としたりしても意味が無い。お前にしか扱えない、もしお前から離れたら効力を失うような物なのだろう。」


「………………。」


それは何となく考えていたことだ。

もし、手首を切り落とされ封環だけ取られた場合、封環の能力は誰にでも扱えるのかどうか。


「つまりはそういう事だ。お前が生きている限り、捕らわれない限り、《鍵》は《夜哭》に渡らない。だからお前に集めると決めた。」


「どこで俺の封環のことを知った?」


「さてな………それは秘密だ。」


「………それで、俺に何を望んでいる?」


「そうだな…これからも《鍵》を集めて、その指輪に取り込んで守って欲しい。それに……それが一番お前のためになると思うぞ?」


「何故だ。」


「"魔力なし"も関わってくるからだ。」


ガタッ。

俺は思わず立ち上がる。


「そう興奮するな。"魔力なし"は現在《夜哭》に捕らわれている。ヤツらは《鍵》と"魔力なし"を贄として悠命樹を解放しようとしている。つまり、《鍵》が全てあちらに集まらなければ、その間は"魔力なし"が殺されることもない。」


俺は椅子に座りなおしながら質問をする。


「《鍵》のことはわかった。だが聞きたいことがある。」


「なんだ?」


「何故お前は、舞のことも舞の居場所も知っている?」


「…………………そうだなぁ、まぁ、お前はこれから関係してくるから教えてもいいだろう。………私は《夜哭》と因縁があるんだ。《夜哭》に潜入している知り合いもいる。それが教えてくれたんだ。《夜哭》が念願の"魔力なし"を手に入れたと。そしてその"魔力なし"がお前が大切にしていた人物だということも知っていた。だが、無関係の人間を巻き込むことは好かん。お前が《鍵》と関係があると分かったら話そうと思っていた。」


「因縁とはなんだ?」


「それはすまないが教えられない。こちらにも守秘義務というものがあるのでな。」


一拍、呼吸を整えてから少し掠れた声で口を開く。


「………。舞が今……どのように過ごしているのかは、知っているのか?」


「あぁ。魔法で眠らされて隠れた場所に安置されているらしい。」


「そうか………」


舞が生きている。

そのことに安堵した。

今は、とりあえず、それだけでも。


「他に聞きたいことはあるか?」


俺は少し考えて質問をする。


「舞が今どこに隠されているのかはわかるのか?それと、《鍵》がある場所はわかるのか?」


「残念だがどちらもわからない。またわかり次第お前に連絡をするつもりだ。今後も《夜哭》が関わってくるはずだから、鍛錬して強くなっておくのをおすすめする。」


「そうか………。もう1つ、ここ数年で人が消える事件が起きているのを知っているか?それと《夜哭》は関係しているのか?」


「あぁ、関係している。"魔力なし"が連れ去られてからだ。《夜哭》が活発に動きだし、《鍵》の捜索範囲を広げるために人を攫って洗脳したりして仲間にしている。だが頑なに仲間にならなかった者は殺されているようだ。」


「そうか……。………悠命樹の解放とはなんなんだ?」


「そうだな………簡単に言うと、この世界、ユグリスが誕生した時から封印されていると言われている邪神を復活させることだ。悠命樹が封印の役目をしており、その悠命樹を解放することによって邪神が復活される、と《夜哭》の中では言われている。」


「そんな事初耳だぞ…………………その邪神が復活したらどうなる?」


「ユグリスは滅ぶであろうな。」


俺は考え込む。

そういえば、先程戦った《夜哭》が"あの人"と言っていたな……


「《夜哭》にはトップとなる人間がいるのか?先程戦った《夜哭》が"あの人"と言っていた。」


「いる。そいつは《夜哭》の中でまるで聖女のような振る舞いをしており、《夜哭》全体を掌握している。そいつが悠命樹の解放を掲げている。」


「そうか………。とりあえず、わかった。沢山質問に答えてくれて助かった。また聞きたいことが出来たら質問する。」


「あぁ、わかった。私に時間がある時であれば質問に答えよう。お前はもう関係者なのだから。それより、紅月はこのまま関わらせていいのか?」


俺はどうするべきか悩む。

柚まで俺の元から居なくなったら……俺は、耐えられないだろう。だが。


「……………。正直、安全なところにいて欲しいのが本音だ。だが、あいつはそれでは納得しないだろう。だから、あいつが納得するように自分で決めてもらう。」


「そうか………わかった。とりあえず私は魔道具だけ預からせてもらって今日は帰らせてもらう。また何かあれば連絡してこい。」


「あぁ。」


「くれぐれも《夜哭》には気をつけろ。ではな。」


一筋の風と共に黒刃は消えた。



あまりにも多くの情報に俺は頭がパンクしそうだった。

タバコに火をつけ、煙を吐き出す。

それだけで少し考えがまとまる気がした。



(とりあえず、舞が無事なのがわかって、安心した。だが、《鍵》を全て奪われると舞がどうなるかもわからない。全力で集め、守らないといけない。)


俺は吸い終わったタバコを灰皿に押し付け、リビングに戻った。



一一・・・



俺は冷蔵庫にあったもので適当に料理を作り、一人で食べる。

いつもは柚と一緒だから、一人だとなんだか味気ない。


サッと食べ終わり食器を洗い、柚の顔を見に行く。



落ち着いて寝ており、時折寝言を言っている。

大丈夫そうだな、と安心した俺がリビングに戻ると、ジアがいた。


『よォ、主様。敵が湧いてこなくなったから戻ってきたぜ。』


「あぁ、お疲れ。どうだった?」


『弱ェ弱ェ。弱すぎる。退屈だったぜ?』


「そうか。何はともあれ無事に戻ってきてよかった。俺が見聞きした事は伝わってるな?」


俺はソファに座りながら聞く。


『あァ。さっきの黒い女の会話だろ?』


「そうだ。これから強い敵が沢山出てくる。ジアももっと暴れられるぞ。あと俺も、もっと強くならないといけない。鍛錬にも付き合ってもらうぞ。」


『なんだって?!主様と戦えるのか!そりゃァ楽しみだな。それに強い敵かァ、全部ぶっ壊していいんだよな?』


「あぁ、構わん。」


『楽しみだ、楽しみだぜ。じゃァ俺様は中に戻るな。またな、主様。』


「お疲れジア、またなんかあったら呼ぶ。」


ジアは霧に溶けるように消えた。



「さて、俺ももう寝るかな………」


自室に戻り部屋着に着替え、ベッドにダイブする。


そして俺はこれからのことを考えながら眠りについた。



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