腐敗臭(1/24追加)
夜中にふと異臭に気づいて目が覚めた。温泉のにおいが部屋の中に漂っている。腐った卵のにおい。硫黄なのか、これがどこからか漏れているのであれば、大変なことだと気づいたとき、私は布団から飛び起きた。硫黄は空気より重いので、下にたまるとどこかのニュース番組で見た記憶がある。部屋のなかは、硫黄の臭さが充満していた。逃げなければいけない、しかしにおいの元がどうしても気になる、そんなことを私は頭のなかでぐるぐると考えていた。
においの発現元は、どうやら浴室かららしい。私は、鼻と口を袖口で覆いながら、そっと浴室のドアを開けた。そこには、男の生首があった。皮膚は爛れ、腐敗は始まっている。右目の眼球は溶けて、外側に飛び出していた。頭の髪の毛はところどころむしり取られたような後があった。左頬には内出血しているのか、青黒くなっていた。口は閉じることができず、舌が根元から出てきたような長さになっていた。
私は浴室のドアを勢いよくしめ、急いでアパートを出た。家から離れたところで、慌てて履いてきた靴の靴紐を結び直す。その日は、友人の家を頼って寝泊まりした。
次の日、仕事を休んで自分のアパートに帰った。まだ腐乱臭が漂っている。浴室のドアは半開きだが、幸運なことに中は見えない。
その次の日には、引越し準備を始めた。浴室のドアは開かないようにガムテープで張りつけ開かないようにした。消臭剤を撒きながら、引越し作業をした。時々、浴室からカタカタから音がしたが聞こえないふりをした。
引越した後、あの首がどうなったか、知ることは1度もなかった。