ゴミ屋敷(1/14追加)
優実
「A町には、有名なゴミ屋敷があるの。小学校の近くの1軒家なんだけど、粗大ごみからカンビン、ちりごみまでいろいろなゴミが、敷地内にめちゃくちゃに置いてあるのね。中には変な犬の像とか、どっかから持ってきた美容室の看板まで変なものもたくさん置いてある。たぶん家主は、捨てられないだけじゃなくて、どっからか拾ってきちゃうんじゃないかな。
あ、家主っていうのは、腰の曲がったおじいちゃんなんだけど、どこにでもいる普通そうなおじいちゃんに見えるの。ゴミ屋敷に住んでいるもんだから、陰険だし臭そうではあるんだけど。たまに小学生がおじいちゃんを冷やかしにゴミ屋敷まで行くんだけど、おじいちゃんは無視してる。え、私はゴミ屋敷の目の前の道が通勤路だから、毎日どうしても家の前を通らなくちゃいけないのよね。本当にあそこは異様。雨の日のゴミ屋敷なんか、マジで仕事に行く気失っちゃう」
孝
「いやー。やばいよ。マジで。くせーのなんのって。俺は清掃員やってて臭いには慣れてるんだけど、まじであそこは臭いわ。ゴミ屋敷のすぐ目の前にゴミ捨て場があんのに、あそこのゴミが捨てられた形式はマジでねーのよ。あの家は燃えるゴミも捨ててないよ、絶対。玄関の前に野菜の切れ端とか魚の頭とか置いてあんだけど、下のほうは土に帰ってたよ最早。ビンカンもそのまま。ペットボトルには黄色だか茶色だかの液体が入ってんの。あれは絶対、人間の…。アレだよ。セルフネグレクトってやつだね。世も末だよ。え、あそこに住んでいる人?きったねーババアだと思ったけど。70歳?80歳?わかんねーけど。髪の毛もぼっさぼさよ。長くてさ。顔もしわくちゃ。目が血走ってて怖すぎ。認知症も入ってんのかな。俺もたいした人生じゃないけど、人生の余生であんなふうには絶対になりたくないね」
美玖
「私はあの変なおうちの近くの小学校に通ってます。今は6年生です。来年は中学生なので、今から少しドキドキしてます。あのおうちは、小学校の友達の間でも、すごい有名で、男子なんかはたまに肝試しとか運試しとかでおうちの近くをうろうろしてる子もいます。なんか、変なものがいっぱいあって怖い、というか、やっぱり臭いがすごいっていうか。でも、ああいうとこの変なものって結構興味深いっていうか。ゴミ山のなかにドアがあったり、バイクが捨ててあったり。カセットテープもいっぱい落ちてて、男子のなかにはそれを盗んで見てみようって子もいました。え、住んでる人?なんかサラリーマンみたいな人が朝、おうちのドアから出てくるのを見たことがあります。結構デブで、全身の肉がたるんでる感じ。しかも、ハゲでした。私のお父さんもいまいちだけど、あの人が家族じゃなくて本当に良かったと思います」
妙子
「もう本当に嫌。私は隣の隣に住んでるけど、本当に嫌。あのゴミ屋敷、最初は普通の家だったのよ。私はここに20歳の時に嫁いできたけど、その時は平凡な町内だったの。もう30年も住んでるけど、そこそこいい町だったのよ。でも2-3年前から段々ゴミが増えてきたなって感じで、今では敷地内いっぱいにゴミ溜めよ。塀があるから何とかなってるけど、風の強い日なんか最悪よ。ゴミ、チリ、ホコリ、よくわかんないゴミ。飛んでくんのよ。私の家のほうへの風向きだったら本当に最悪ね。カラスとかよくわかんない鳥も飛んでくるし。変な虫とか絶対沸いてるわよ。え?行政にも何回も言ってんのよ。クレームを。行政職員も大変よね。何回も訪問してもらってるんだけど、全然効果なし。本当、こういう言葉って言っちゃいけないけど、気が狂ってるとしか思えないわ。え?住民。それが本当にやばいのよ。女。女なの。結構若いおねえちゃんでね、身なりだけはしっかりしてんの。黒髪のロングで、顔立ちもそんなに悪くなくてね。あの、上白石なんとかに似てる感じよ。たまに見かけると普通の恰好してんの。化粧してるとこも見たことあるわ。人ってわかんないわよね。なんであんな身なりを気にできんのに、家はやばいのかしら。なんか虐待とかされてたのかね。世の中意味わかんないこともあるわ」
インタビュワーA
「で、一体だれが住んでいるんだ」
カメラマンB
「取材行きます?」
インタビュワーA
「いや~経費がおりんだろ」
カメラマンB
「もしかしたら上白石萌音に似た人が出てくるかもしれませんよ」
インタビュワーA
「それもそれで怖いわ」
結局、ゴミ屋敷に誰が住んでいるかは謎のままである。