水滴(1/7追加)
【水滴】(1/7追加)
友達の家に泊まりに行った日のことである。その日は女2人で恋バナに花を咲かせた。アラサーの恋バナは環状線のように行ったり来たりするだけで終点は無いのだ。夜も深まり、友達はソファベッド、私は敷ふとんで寝ていた。
私は、キッチンの方からする水音で目が覚めた。ポチャン、ポチャンと水が滴る音が異様に大きく聞こえた。その音がやけに気になり、なかなか寝付けなくなってしまった。友達のアパートは、寝床とキッチンがドアによって区切られている。私は、そのドアの近くで寝ていた。ドアの1部は、くもりガラスになっている。
めんどくさいけど、蛇口を閉めようー。そう思って私が布団から這い出て、キッチンに向かおうとした時だった。暗闇の中、くもりガラスの向こうにぽーっと白い影が浮かび上がっていた。その白い影はゆらゆら揺れているようだった。なんだろう、そう思ってドアに顔を近づけた。すると、
バシャっっ。と大きな音を立てて、水のようなものがドアに当たった。私はびっくりして体が強ばり、動けなくなってしまった。すると、私の耳元でいきなり水滴の落ちる音が聞こえた。ポチャン、ポチャンと。そして不意に掠れた低い女の声が聞こえた。
「「「うるさい」」」
気がつくと朝だった。友達は先に起きて、コーヒーを振る舞う準備をしていた。私は昨日の出来事を溺れげに覚えていて、友達に話そうとした。しかし、上手く言葉が出てこない。
「順子、あれ、昨日さ...。あの、キッチンでさ、水が」
「ん?何」
「いや、だからなんか、水滴が」
「コーヒー飲も」
友達が2人分のコーヒーをキッチンから寝床に運んで来てくれた。私はどうしていいから分からなくなってしまい、渡されたコーヒーを見つめていた。
「なんか変な夢みたかも」私が呟く。
「...うん。夢だよ。またうるさいって言われちゃうよ」
私と友達は会話を打ち切った。友達は、あの声のことを知っているだ。知っていて会話を打ち切った。部屋にはコーヒーの匂いが立ち込めるばかりだった。