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48.氷の女王

 「死んで、黒鐘さん」


 知念が引き金を引き、体育館に銃声が反響する。

 そして銃口から放たれた銃弾は空気を切り裂きながら智慧理へと一直線に突き進み……しかし智慧理の体を貫くことはなかった。

 知念の指の動きと銃口の向きを注意深く観察し、その発砲のタイミングと銃弾の軌道を予測することで、智慧理は銃弾の回避という離れ業を生身でやってのけたのだ。


 「……は?」


 人間が銃弾を回避するという信じ難い光景に、知念は一瞬硬直する。その隙に智慧理は地面を蹴って知念との距離を詰め始めた。

 彼我の距離は約5m。智慧理の脚力ならば1秒と掛からない距離だ、が……


 「来るなぁっ!」


 智慧理が知念の下へ辿り着くよりも早く、2発目の銃弾が放たれた。

 銃弾の回避は相手の指の動きと銃口の向きに細心の注意を払うことでようやく実現できる妙技だ。全力疾走の最中にできるようなことではない。


 「くぅ、っ!?」


 狙いを付けず闇雲に放たれた銃弾は、智慧理の左脚の太腿を貫通した。銃創からは鮮血が迸り、智慧理の顔が苦痛に歪む。

 しかしそれでも智慧理は決して足を止めることはなかった。


 「嘘でしょ!?足を撃たれて何で動けるの!?」

 「何ででしょう、ねっ!」


 智慧理は知念の右腕を掴み、その手に握られている拳銃の引き金を強引に引く。

 2度、3度と銃声が響き、その度に体育館に敷かれた絨毯に弾痕が刻まれる。程なくして引き金がカチカチと軽い音を鳴らし、拳銃に込められた弾丸が全て撃ち尽くされたことを示した。

 これで知念から武器の優位性は失われた。


 「てやぁっ!」


 智慧理は知念の顔面に渾身の右肘を叩き込んだ。生命力増幅機能のよる身体能力強化の恩恵を受けずとも、智慧理のその一撃は鼻を陥没させるほどの威力を秘めており、知念の頭は大きく後方へと振れた。

 しかし完璧に攻撃が決まったにもかかわらず、智慧理はまるで手応えが感じられなかった。


 「防御魔術……!?」


 智慧理の推測通り、知念は予め<肉体の保護>の魔術を自分自身に施していた。

 <肉体の保護>は体の周囲に防御膜を展開し、衝撃から身を護る魔術。智慧理の打撃がどれだけ強力でも、防御膜がある限り知念にダメージを与えることはできない。


 「く、っ……」


 ここで智慧理は立ち眩みに襲われる。またしても精神干渉攻撃かと思った智慧理だが、すぐにそうではないことに気付く。

 立ち眩みの原因は、左太腿の銃創からの大量出血だ。


 「動脈を掠めたみたいだね」

 「ぁぐっ!?」


 知念に蹴り飛ばされ、智慧理は床に倒れ込む。


 「もう長くないでしょ、その傷だと」


 知念の言葉はブラフや脅しなどではない。このまま太腿からの出血が続けば、遠からず智慧理は失血死してしまう。


 「そのままそこで死んでいきなよ。私が聖ちゃんを生き返らせるところを眺めながらね」

 「ふざけ、ないで、っ……!」


 立ち上がろうとする智慧理だが、視界が霞み足に力が入らない。

 芋虫のように蠢くことしかできない智慧理に、知念は興味を失ったように背中を向ける。


 「やっと……やっとこの時が来た……!」


 知念は恍惚とした表情を浮かべ、絨毯に描かれた赤い魔法陣の傍らに膝を突く。


 「10年ぶりに……聖ちゃんに会える……!」


 赤子を撫でるような手つきで優しく魔法陣に触れる知念。すると魔法陣が淡い光を放ち始めた。魔法陣の光に照らされた知念の顔には狂気的な笑みが浮かんでいる。


 「さあ……生き返って!聖ちゃん!」


 知念のその叫びは、御伽原学園に仕掛けられた死者蘇生魔術における詠唱の役割を果たしていた。

 魔法陣から放たれる光が一層輝きを増し、同時に粉雪のような無数の光の粒子が体育館中に出現する。

 光の粒子は導かれるように魔法陣の上に集まっていき、粒子同士が次々と合体してより大きな光の塊へと変化していく。

 ある程度の大きさにまで成長したところで、光の塊は粘土のようにその形状を変化させ、マネキンのような姿を形作った。


 「……やった……!」


 笑顔のままに滝のような涙を流す知念。

 空中で形成された光のマネキンは、水の中を沈んでいくようにゆっくりと床の魔法陣へと降下していく。

 やがて光のマネキンの爪先が魔法陣に触れると、魔法陣から放たれていた光は唐突に消失し、同時に光のマネキンもパァッと弾けて消えた。

 そして全ての現象が収まった時、魔法陣の上には1人の少女がへたり込んでいた。


 「あれ?私……」


 困惑した様子で自分の両手を見下ろすその少女は、白みがかった水色の髪を背中まで伸ばし、現行の御伽原学園指定制服とは少し違うデザインの制服に身を包んでいる。


 「聖ちゃん!」


 その少女こそ、知念が焦がれに焦がれていた本条聖その人に他ならなかった。死者蘇生魔術は成功し、10年前に御伽原学園で命を落とした本条聖は、当時の姿そのままに蘇ったのだ。

 知念は一目散に聖に向かって走り出し、その勢いそのままに聖の体に覆い被さるように抱き着いた。


 「きゃっ!?あ、あなたは……?」

 「聖ちゃん……会いたかったよぉ聖ちゃん……!」

 「その声にその泣き方……もしかして麗美ちゃん?」


 聖に名前を呼ばれ、知念は知念の肩に顔を埋めるようにして何度も頷いた。


 「ど、どうしたの麗美ちゃん、急に大人のお姉さんになっちゃって。それに私、何で体育館に……?」

 「あのね、聖ちゃんはね……」


 知念は酷い涙声で、聖は10年前に御伽原学園で命を落としたこと。知念が独自の死者蘇生魔術によって10年越しに聖を蘇らせたことを説明した。


 「そっか、思い出したよ。私、学園のトイレで死んじゃったんだね」

 「……うん」

 「それで麗美ちゃんが、私を生き返らせてくれたんだ?」

 「うん……聖ちゃんがいない世界なんて、私には耐えられないから……」


 聖と知念はいわゆる幼馴染の関係にあった。

 知念にとって聖は少し年上の憧れのお姉さんで、ともすれば実の両親以上に聖のことを慕っていた。故に知念は聖が死んだという事実を10年経った今でも受け入れることができずに、聖の蘇りを計画したのだ。


 「そっか……私のために頑張ってくれたんだね、麗美ちゃん」


 聖が優しく知念の頭を撫でる。


 「うん……!聖ちゃん、私頑張ったよ……!」


 知念は涙に濡れた顔に教師らしからぬあどけない笑顔を浮かべる。


 「それでね、聖ちゃん!私、聖ちゃんに喜んでほしくて用意したものがあるの!」

 「あら、何を用意してくれたの?」

 「ちょっと待ってて!」


 知念が聖から離れてステージ脇に移動し、ステージに下ろされた暗幕を開く。

 するとステージ上では、体中をロープで縛られた教頭が意識を失った状態で倒れていた。


 「じゃ~ん!聖ちゃんを殺したクソジジイだよ!」


 知念は独自の調査によって、10年前の聖の死の真相が自殺ではなく教頭による殺人であることを突き止めていた。


 「教頭先生?わぁ、10年で老けたんだねぇ」

 「ねぇねぇ聖ちゃん、このクソジジイのこと憎いでしょ?憎いよね?殺したいくらい憎いよね?」

 「えっ?ん~……確かにムカムカはするかも」

 「だよねだよね!だからね、聖ちゃんに喜んでもらうために私、今からこのクソジジイを殺そうと思うんだ~!」


 知念がステージに上がり、教頭の背中を軽く蹴りつける。

 物騒な発言とは裏腹に、知念の笑顔はどこまでも無垢だった。教頭を殺害することで聖が喜ぶことを、自分の行為が聖のためになっていることを、一片たりとも疑っていない。


 「あっ!それとも聖ちゃんが自分で殺す?その方が聖ちゃんもスカッとするよね?」

 「ん~……どうしよっかな~」


 聖も立ち上がってステージに移動し、知念の隣で教頭を見下ろす。


 「私が殺す?聖ちゃんが殺す?私はどっちでもいいよ!」

 「そうだなぁ……」


 人差し指を頬に当てて考え込む素振りを見せる聖。


 「ん~……決めた!」

 「決めた?どうする?どっちにする?」

 「こうする!」


 次の瞬間、ステージが血に染まった。


 「な……んで……?」


 知念が呆然と自分の体を見下ろす。知念の腹部は、直径5cm程の巨大な氷柱によって背後から貫かれていた。


 「あはははっ!すご~い!」


 串刺しになった知念の姿を見て、満面の笑顔で手を叩く聖。


 「聖ちゃん……どうし、て……?」


 幼い頃から聖を慕って育ってきた知念は、聖がイグノザードであることも、特に氷や冷気を生成する現実改変を得意とすることもよく知っている。故に知念は「聖が自分を氷柱で串刺しにした」という絶望的な事実を的確に理解してしまえていた。


 「え~?だって教頭先生に殺された私が逆に教頭先生を殺すなんて、ありきたりな悪意過ぎてつまらないでしょ?」

 「悪、意……?」

 「それよりも、自分のことをず~っと慕ってくれて、10年もかけて自分のことを生き返らせてくれた、そんな妹みたいな幼馴染を何の理由もなくいきなり殺しちゃう方が、よっぽど悪意に満ち満ちてると思わない?」

 「分から、ない……聖ちゃんの言ってること、1つも分からないよ……」


 知念が大量の血を吐き出して膝から崩れ落ちる。


 「そう?じゃあ麗美ちゃんにはもっとちゃんと私の悪意を分かってもらわないとね!」


 聖が現実改変によって鋭い氷柱を作り出し、それを逆手に握って振り上げる。


 「ありがとう麗美ちゃん。大好きだったよ」

 「聖……ちゃん……」


 項垂れる知念の首筋を狙って、聖は氷柱を振り下ろす。

 そして氷柱の先端が知念の首に突き刺さる……その直前。


 「きゃっ!?」


 高速で飛来した黒いマスケット銃が聖の右手を弾き、握られていた氷柱を粉々に砕いた。


 「……誰?」


 聖は右手の甲を擦りながら、マスケット銃が飛んできた方向に視線を向ける。


 「はぁっ……はぁっ……!」


 そこには膝立ちでヘリワードを投擲した体勢のまま、荒い息遣いで聖を睨みつける智慧理の姿があった。


 「あなた……誰?」


 聖はこれまで智慧理の存在を認識しておらず、当然智慧理が何者であるかも把握していなかった。


 「黒鐘、さん……なんで……?」


 知念は絶望に沈んだ表情の中で、智慧理が何故自分を助けたのか理解できないという目をしていた。


 「何でも何も無いでしょ……!目の前で人間が殺されそうになってたら、とりあえず止めるに決まってるじゃないですか……!」


 智慧理は出血多量でふらつく体に鞭打って無理矢理立ち上がる。


 「それが自分を撃ち殺そうとした相手だったとしてもね……」

 「そんな……」


 そこで智慧理は知念との会話を打ち切り、視線を聖へと移した。


 「本条聖……ホントに悪意の信徒だったんですね」


 智慧理は悪意の信徒がどのような存在であるかをよく知らない。しかし聖のこれまでの支離滅裂且つ残虐な言動は、正しく悪意の信徒と呼ぶに相応しいものだ。


 「へぇ、そんなこと知ってるんだ。っていうかあなたは誰なのかな?学園生?」

 「黒鐘智慧理、1年生です」

 「そっか~。私の1コ下、じゃないや。11コ下だね」


 聖は友好的な笑顔を浮かべながらステージを飛び降り、ゆっくりと智慧理に近付いてくる。


 「話の流れからして、智慧理ちゃんは麗美ちゃんの敵だったのかな?私が悪意の信徒だって知ってた辺り、私が生き返るのを邪魔しようとしてた感じ?」

 「察しがいいですね、大体そうです」

 「ってことは智慧理ちゃんは私の敵かぁ。残念だなぁ」


 聖が溜息を吐いて立ち止まる。すると聖の背後に、8つの氷柱が宙に浮いた状態で出現した。


 「敵を殺すのって当たり前すぎて、あんまり悪意が実感できないんだよね~……」

 「さっきから何を訳分からないことを……」

 「分からないなら智慧理ちゃんも悪意の信徒になるべきだよ。まあ……その前に私に殺されちゃうんだけどね」


 聖のその言葉と同時に、8つの氷柱が智慧理目掛けて斉射された。

 智慧理は素早く側転を繰り返し、高速でその場から離脱する。直後、それまで智慧理が立っていた床に氷柱が次々と突き刺さった。


 「あはっ!すご~い!体操選手みた~い!」


 智慧理が披露したアクロバットに、聖は手を叩いて歓声を上げる。


 「喜んでられるのも今の内ですよ!」


 智慧理は左脚に無理を利かせて聖に突進する。ここまでの身のこなしから聖の身体能力がそこまで高くないと判断して、素早い急襲による短期決着を狙ったのだ。

 聖の目前まで迫った智慧理は、その喉元に向かってオズボーンを繰り出した。


 「おっと危ない」


 しかしオズボーンの刃が聖の喉を突き刺す直前、聖の体が重力というルールから解き放たれるように高速で上昇し始めた。

 みるみる高度を上げる聖は、天井に頭がぶつかる直前にピタリと空中で静止する。


 「ふぅ~、危なかったぁ……」


 これ見よがしに胸を撫で下ろす聖を智慧理は苛立たしく睨み上げる。


 「空まで飛べるんですか……!」

 「そうだよ~。だから天井に挟まったボールとかも取れちゃうの、ほら」


 聖が天井に挟まったバレーボールを回収し、適当に放り投げる。

 ボールなど智慧理にとってはどうでもいいことこの上ないが、聖が飛行能力を持っているというのは非常に厄介だった。

 智慧理は未だに変身能力が回復しておらず、当然空を飛ぶことも今はできない。聖が飛行している限り、智慧理の攻撃手段は限られてしまう。


 「あっ、そうだ!智慧理ちゃん、こういうのはどう?」


 空中の聖が智慧理に向かって人差し指を伸ばす。するとその指先から、薄水色のビームのようなものが放たれた。

 智慧理がその場から飛び退くと、ビームは床の絨毯に命中する。するとビームが命中した場所が一瞬にして氷に覆われた。


 「智慧理ちゃんは可愛いから、氷柱で串刺しなんてしたら勿体ないもんね。だから氷漬けにして可愛いまま取っておいてあげる!」


 起きた現象と聖のその言葉から、智慧理は聖のビームの性質を、命中した対象を凍らせるか氷の中に閉じ込めるものだと推測した。


 「ふざけないで!」


 聖が次々と放つビームを、智慧理は神経を研ぎ澄ませてそれらを全て回避する。


 「くぅ、っ……!?」


 しかし激しい動きを繰り返している内に左脚の銃創からの出血が悪化。智慧理の動きが鈍くなる。


 「えいっ!」

 「ぁぐっ!?」


 そしてとうとう薄水色のビームが右足の踵を掠め、智慧理は勢い余って転倒してしまう。

 ビームはほんの僅かに掠めた程度だったため、智慧理の右足は氷漬けにはなっておらず、それ以外の外見上の変化も発生していない。

 だが智慧理は右足の感覚を感じ取ることができなくなっていた。影響はビームが掠めた踵だけに留まらず、右の股関節よりも先が全て神経の通っていない肉塊に置き換わってしまったかのようだった。

 右脚の感覚が失われ、左脚は出血が更に悪化している。智慧理は今や移動能力をほぼ完全に失っていた。


 「あ~あ。頑張ったけどここまでだね、智慧理ちゃん」


 聖は右手で銃を模り、その指先を智慧理に向ける。そこからもう1度ビームが放たれれば、最早智慧理はそれを回避することは叶わない。

 せめてもの抵抗として智慧理がオズボーンを投擲しようとしたその時。


 「エルカサム!」


 どこか安心感を覚えるその声と共に、体育館の中に幾筋もの黄金色の閃光が走った。


 「きゃあっ!?何!?」


 聖は動揺しつつも自らを囲むように球状の氷の外殻を形成。直後複数の黄金色のビームが氷の外殻を破壊した。


 「あっぶなぁ……誰?」


 氷の防御によって聖は無傷だった。突然の第三者による攻撃に、聖は警戒心を露わにしながら体育館中に視線を巡らせる。


 「私です~」


 すると智慧理のすぐ目の前に廻廊の出口が出現、そこから智慧理を背中に庇う形で露華が姿を現した。


 「……本当に誰?」


 聖はまじまじと露華の姿を眺め、それから訝しむように首を傾げた。聖と露華は初対面なので至極当然の反応である。


 「智慧理さん、大丈夫ですか~?」

 「……ちょっとよくない状況かも」


 智慧理の心情としては露華に弱音を吐くのはできれば避けたかったが、かといって今の状態で強がったところでまるで説得力がない。


 「露華の方は大丈夫だった?」

 「はい~。あのネコちゃんはバッチリ倒してきましたよ~」


 露華は夜の獣を未だに猫だと思っていた。


 「ごめんなさい、智慧理。鹿籠さんの方に掛かりきりになっててフォローが遅れたわ」


 インカムから紗愛の謝罪が聞こえてくる。


 「正直露華が来てくれなかったら危なかったかもです……」


 智慧理が紗愛と会話する一方で、露華と聖もまた会話を始めていた。


 「あなたは智慧理ちゃんのお友達?なんかえっちな服だね」

 「鹿籠露華って言います~。あなたは本条聖さんですか~?」

 「そうだよ。初めまして」

 「初めまして~」


 状況にそぐわず礼儀正しく挨拶を交わす2人。


 「さっきのビーム、露華ちゃんがやったのかな?露華ちゃんって魔術師?」

 「そうです~」

 「そっか……はぁ、今は魔術師の相手する気分じゃないんだよね~」


 聖は頬に手を当てて溜息を吐く。


 「折角生き返ったのにすぐに殺されちゃっても嫌だし……うん、今日のところはこれくらいにしよっかな」

 「逃げるんですか~?」

 「そうだね。三十六計逃げるに如かず、ってね」


 そう言った瞬間、聖の姿が忽然と消失した。露華は驚いて目を丸くする。


 「瞬間移動……そんなことできるなんて、相当高位のイグノザードじゃない……」


 智慧理の視界越しに状況を見ていた紗愛も、驚きで僅かに声を震わせている。

 しかし露華や紗愛と違って、智慧理は聖の瞬間移動に反応することができなかった。


 「……智慧理さん?大丈夫ですか?智慧理さん!?」


 智慧理の様子がおかしいことに気付いた露華が、焦った様子で何度も智慧理に呼び掛ける。

 智慧理は露華に「心配しないで」と伝えようとしたが、結局声を出すこともできないままゆっくりと意識を手放した。

次回は11日に更新する予定です

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