44.7番目の七不思議
「とりあえず本条聖の個人情報について色々と調べてきたわ」
智慧理が夜のパトロールを開始したのとほぼ同時に、インカムから紗愛のそんな言葉が聞こえてきた。
「個人情報調べてきたって……どうやってですか?」
「本条聖の自殺は当時警察が捜査したらしかったから、警察署の資料課にあった捜査資料引っ張ってきたわ」
「情報漏洩じゃないですか」
「情報漏洩じゃないわよ。私一応警察関係者だもの。非公式だけど」
非公式の関係者はもう関係者ではないのではないかと智慧理は思ったが、紗愛の周囲の権力構造が奇妙なのは今に始まったことではないので何も言わなかった。
「まずは本条聖の自殺の件から話しましょうか。事件が起きたのは1学期の中間試験を目前に控えた木曜日。学園に残って勉強をしてた女子生徒が、本校舎3階女子トイレの個室の中で本条聖が死んでるのを発見したわ」
「個室で亡くなってたんですか~?第一発見者さんはよく本条聖さんが亡くなってるのに気付きましたね~」
「個室って言っても鍵掛けて中で自殺してたんじゃなくて、扉が開けっ放しになってたみたいよ。それに個室の外の床まで血が流れて来てたから、第一発見者の女子生徒はすぐに異変に気付いたんですって」
「個室の外まで血が、って……本条聖はどんな死に方したんですか?」
本条聖の自殺について、智慧理は何となく窒息による自殺を想像していた。そのため血が個室の外まで流れていたと聞いて智慧理は軽く面食らう。
「本条聖は自分の喉に包丁を突き刺して死んでたそうよ」
「喉に包丁!?」
そして想像よりも数段凄惨な本条聖の死に様にもう1度面食らう智慧理。
「現場はかなり酷いことになってたみたいよ、個室全体に血が飛び散って」
「それってホントに自殺だったんですか?ホントは誰かに殺されたんじゃ……」
「それは当時みんな思ったみたいよ。家族とか友達とかは『聖が自殺なんて考えられない』って口を揃えて証言したし、実際本条聖は学業でも人間関係でもお金でも悩みを抱えてる様子はなかったらしいし。でも警察がどれだけ捜査しても自殺を否定する証拠が見つからないどころか、家庭科室の備品の包丁を持ち出す本条聖の目撃証言が出てきたりもしたから、警察としては自殺って結論付けるしかなかったみたいね。まあ……私が捜査に参加してたら話は違ったかもしれないけど」
「紗愛先輩ってその頃から警察に協力してたんですか?」
「もっと前から協力してたわよ。でも明らかに邪神眷属が関わってる事件にしか私は呼ばれないから、本条聖の件ではお呼びが掛からなかったみたいね」
そう言って紗愛は残念そうに溜息を吐く。しかし10年も前の事件に関われなかったことを今更惜しんでいても仕方がない。
「次は本条聖自身についてね。誕生日は7月17日、事件当時は16歳の高校2年生。新聞部で聞いた通り、放送部と図書委員に所属してて、当時家庭科を教えてた森本先生と仲が良かったそうよ。ちなみに森本先生は事件の後しばらくして学園を退職してるわ」
「じゃあ新聞部ってちゃんと正しい情報取ってきてたんですね」
「そういうことになるわね。まあ多分犯人が新聞部に情報を流してるから当然だけど……それはいいとして、本条聖のことを調べてたら、ちょっと気になることがあったのよ」
「気になること、ですか~?」
コテンと首を傾げる露華の姿を智慧理は幻視した。
「捜査資料には警察が聞き込みした内容なんかも載ってたんだけど、その中に『本条聖には不思議な力があった』っていう証言がいくつもあったの。手を使わないで物を動かしたりとか、何の道具も無しに物を凍らせたりとか、そういう不思議な現象を本条聖はよく起こしてたらしいわ。特に小さい頃に多かったそうよ」
「それって、本条聖は魔術師だったってことですか?」
「いや、魔術師じゃないわね。多分、本条聖はイグノザードよ」
「いぐの……ざーど?」
突然聞いたことのない単語が飛び出し、戸惑う智慧理。
「なるほど~、イグノザードですか~」
「えっ露華は知ってるの!?」
自分だけ会話に置いて行かれそうになり、智慧理は軽い絶望を感じた。
「ああ、ごめんなさい。思念の現実改変力が普通の人間よりもずっと強くて、魔術を使わなくても魔術と同じような現象を起こせる知性体、いわゆる超能力者のことを、私達魔術師はIgnorant Wizard、略してイグノザードって呼ぶのよ」
「だったら超能力者って言ってくれたらいいのに……」
「ごめんごめん、私にとってはイグノザードの方が馴染み深かったからつい。拗ねないで智慧理」
「拗ねてないです」
「拗ねてますね~」
露華にまで指摘されてしまっては形無しである。
「本条聖がイグノザードだったとなると、本条聖の事件に魔術師が絡んでる可能性が出てくるわね。精神力の消耗無しに魔術と同等の現実改変を行えるイグノザードは、良くも悪くも魔術師の注目を集めるから」
「じゃあどこかの魔術師が本条聖を殺して、魔術を使って自殺に偽装した、みたいなことも?」
「無くは無いわね。まあ10年前の事件の真相なんて今からじゃ調べようも無いけど。それに私達にとって重要なのは、当時じゃなくてこれからのことよ」
「これから?」
「ええ。私達は御伽原学園で何者かが本条聖を生き返らせようとしてるって前提を共有してる訳だけど、もしかしたら犯人の動機には、本条聖がイグノザードってことも関係してるかもしれないわ。言い方を変えると、本条聖を生き返らせようとしてる犯人の正体が、生前本条聖と親しかった人間とは限らなくなった、ってことね」
犯人の目的が本条聖との再会なのであれば、その動機から犯人の正体は生前の本条聖と親しい間柄の人物である可能性が高く、実際紗愛はその方面から犯人を絞り込むつもりでいた。
しかし本条聖がイグノザードだと分かったことで、極論魔術師であれば誰でも本条聖を生き返らせる動機がある状況になってしまった。イグノザードは魔術的観点において多くの使い道があり、魔術師であれば誰でもそのメリットを享受できる。
「犯人を絞り込もうと思ったら~、逆に犯人候補が増えちゃいましたね~」
「そういうことになるわね。はぁ……」
「紗愛先輩元気出してください~。私がよしよししに行ってあげましょうか~?」
「ありがとう鹿籠さん、気持ちだけ貰っておくわ」
紗愛と露華ののほほんとした会話。
「あの~……」
そこに智慧理は恐る恐る介入する。
「どうしたの、智慧理」
「もしかしたらなんですけど……私、犯人絞り込めるかも……」
「えっ!?」
紗愛が大きな声を上げる。魔術師の話題で智慧理から有益な情報が出てくることなど夢にも思っていなかったというような声色だ。それを感じ取って智慧理はまた少し拗ねた。
「智慧理さん、どうやって犯人を絞り込むんですか~?」
「実はね、パトロールの前に1回家に帰った時に……」
そうして智慧理はパトロール前の出来事を2人に話し始めた。
「……あれ」
家に帰ってきた智慧理は、スマホに珍しい人物からの連絡が入っていることに気が付いた。
「レイラさんだ。どうしたんだろ……」
先日御伽原市ご当地アイドルの新田レイラと連絡先を交換した智慧理だが、最初に挨拶を送って以来メッセージのやり取りをしたことはまだ1度も無かった。時々全国区のテレビ番組にも出演している人気アイドルのレイラに気軽にメッセージを送っていいものか、智慧理には分からなかったのだ。
それがレイラの方から接触してきたということで、智慧理は何の用事だろうと思いつつメッセージアプリを開いた。
『こんにちは。少しお喋りしたくてメッセージ送っちゃいました。』
「レイラさんってスマホのやり取りで句点付けるタイプなんだ……」
比較的どうでもいいところに注目しつつ、智慧理はすぐに返信を入力し始める。
『連絡してくれてありがとうございます』
『何のお喋りしますか?』
智慧理が送ったメッセージはすぐに既読が付いた。レイラの方もたまたまスマホを見ていたタイミングだったようだ。
『じゃあ智慧理ちゃんの学園生活のこと教えてほしいな。』
『久し振りに母校の話聞きたい。』
そう言えばレイラは御伽原学園の卒業生だったな、と智慧理は睦美から聞いた話を思い出した。
リクエストにお答えしようと学園で最近会ったことについて考える智慧理だが、近況となるとやはりあの話題は外せない。
『最近は学園で七不思議が流行ってるみたいです』
『レイラさんの頃にも七不思議ってありました?』
『懐かし~!』
『あったよ。七不思議。』
『開かずの教室を探そうとして先生に怒られた男子とかいたな~。』
レイラのそのメッセージを見て、智慧理は眉を顰めて首を傾げた。
「開かずの教室……?」
智慧理の知る御伽原学園の七不思議に開かずの教室というものはない。
『開かずの教室って何ですか?』
『あれ?』
『もしかして私がいた頃と今の七不思議って違うのかな?』
どうやらレイラの知る御伽原学園の七不思議には、開かずの教室なるものが存在するらしい。
七不思議など所詮は口伝なので、年月と共にその内容が変質することはおかしくない。しかしレイラは現在大学2年生、去年の3月までは御伽原学園に通っていたのだ。
それからたかだか1年と数ヶ月で、七不思議の内容がそこまで大きく変化するとは智慧理にはあまり考えられない。
『智慧理ちゃん、今の七不思議がどんな感じか教えてくれないかな?』
『参考までに。』
『分かりました』
『ちょっと待ってください』
智慧理は現在の七不思議を簡潔にまとめてレイラに送信する。
『今の七不思議ってそうなってるんだ。』
『7番目は私は聞いたこと無いなぁ。御伽原学園で死んだ人が10年後に生き返るなんて。』
『そうなんですか?』
『うん。』
『それに、放課後に家庭科室で1人勉強をしていると幽霊に体を取られるっていうのも、私が知ってるのは家庭科室じゃなくて理科室だったと思う。』
レイラから齎された新情報は、智慧理にとって不可解な事実を示していた。
「理科室が家庭科室になったってこと……?何でそんなことになるの……?」
七不思議の7番目が丸々入れ替わっているというのは不思議だが、以前は七不思議に登場していた理科室が家庭科室に置き換わるという変化も智慧理には不可解だった。
「家庭科室よりも理科室の方が七不思議っぽいのに……」
家庭科室と理科室のどちらがより七不思議らしいかという問いには、多くの人が理科室と回答することだろう。理科室は人体模型の存在などから不気味な印象を受けやすいのに対し、家庭科室には調理実習などどこかのほほんとした印象がある。
仮に「元々七不思議に登場するのは家庭科室だったが後に理科室になった」という経緯であったのなら納得はしやすい。家庭科室では不気味さに欠けるため、脚色として理科室に変更するというのは動機の面で頷ける。
しかし現実に起きたのはそれとは真逆の現象だ。一体どのような経緯でそんな不自然な変化が起きたのかと智慧理は思案する。
すると珍しく、智慧理はあることに思い至った。
「そう言えば本条聖はよく家庭科室で勉強してたんだっけ……」
智慧理が思い出したのは放課後に新聞部で聞いた情報だ。「10年前の死者」こと本条聖は生前、七不思議の舞台にもなっている図書室、放送室、家庭科室と関係が深かった。
しかし家庭科室が元々は七不思議の舞台ではなかったとなると、その変遷の理由も見えてくる。
「本条聖は理科室には馴染みが無かったから家庭科室に変えたってことかな」
誰が変えたのかと言えば、七不思議の舞台に魔術を仕掛けた犯人だ。
犯人の目的は本条聖を生き返らせることで、そのために七不思議の噂を利用しようとしている、という紗愛の推測が正しかった場合。犯人にとって本条聖と七不思議との関連性は強ければ強いほどいい。故に犯人にとっては、七不思議に登場する理科室を家庭科室に改変する動機があるということになる。
「レイラさんが卒業した後に七不思議の内容が変わったってことは、犯人が動き出したのは去年の4月以降……で、今年に入って生徒会に七不思議関係の相談が増え始めたって紗愛先輩言ってたからそれ以前……」
これまでの情報を基に、犯人の活動時期を絞り込む智慧理。しかし智慧理ではここから更に犯人像を絞り込むことができない。
「紗愛先輩に相談してみよ」
そろそろパトロールを始める時間だ。智慧理はジャージに着替えて部屋を出る。
そして近所にある人気のない寂れた神社に移動した智慧理は、人知れずブラックエンジェルへと変身し、夜空へと飛び立っていった。
「智慧理さん、いつの間にかレイラちゃんとお友達になったんですね~」
智慧理が話を終えると、まずは露華が本筋とは関係ないところに食いついた。
「う、うん。こないだの握手会の時にちょっとね……」
「睦美さんはそのこと知ってるんですか~?」
「あ、いや……睦美にはまだ話してなくて……」
「どうしてですか~?睦美さんはレイラちゃんの大ファンなのに~」
「うっ……だ、大ファンだからこそ、私が抜け駆けしたみたいに思われるのが怖くて……」
自分でも疚しいと思っているところを露華に容赦なくガンガン突かれて、大量の冷や汗を流す智慧理。
「鹿籠さん、智慧理を詰めるのはまた後にしましょう。七不思議の話が先だわ」
「分かりました~」
紗愛からの助け舟に智慧理はほっと息を吐いた。
「新田レイラの話は裏取りをしてみるまで鵜呑みにはできないけど、もしホントならかなり重要な証言になるわ。智慧理、お手柄じゃない」
「あ、ありがとうございます」
智慧理としては完全に棚から牡丹餅的に入手した証言なので、褒められてもあまり自分の手柄とは思えなかった。
「仮に新田レイラの卒業後に七不思議が今の形に変化したんだとすると……犯人として怪しいのは去年の4月以降に御伽原学園に来た人間よね」
「私もそう思ったんですけど……」
「あら智慧理、何か引っ掛かる?」
「はい。犯人が動き始めたのが去年の4月以降でも、それよりも前から犯人が学園にいた可能性もあるんじゃないかなって。例えば一昨年入学した人が去年魔術のことを知って、そこから本条聖を生き返らせようと思って動き出したとか……」
「確かに可能性としてはゼロじゃないけど、それでもそのセンは薄いと思うわ」
紗愛の口調は確信的だった。
「学園関係者1000人に本条聖蘇生の可能性を信じさせて、その思念を死者蘇生魔術に利用するなんて手口、魔術初心者が考えられるようなものじゃないもの。生まれた時から生活の中に当たり前に魔術があった魔術師の家系の人間じゃなきゃ思いつけない手口だわ」
「でも~、昔から魔術を知ってたけど~、その作戦を思いついたのが去年だったって可能性もありますよね~?」
智慧理とは別の場所をパトロールしている露華から鋭い指摘が飛んでくる。
「それは確かに有り得るわね。だから去年の3月以前に学園にいた人間が犯人っていう可能性はまだ捨てられない。でもまずは去年4月以降に学園に来た人間の中に怪しい人間がいないかを探して……」
「だったら怪しいのは知念先生ですね~」
「……え?」
露華が出した予想外の名前に智慧理は虚を突かれて目を丸くする。
「鹿籠さん、それってどういう意味?」
驚いたのは紗愛も同じで、露華にそう尋ねる声からは僅かに動揺が感じられる。
「そのままの意味ですよ~。去年の4月以降に学園に来た人の中だったら、知念先生が1番怪しいと思います~」
「そう言えば知念先生って、確か学園の先生になったのは去年の4月でしたっけ?」
「そうよ。けど鹿籠さんはどうして知念先生が怪しいと思ったの?」
「前に家庭科室に仕掛けられてた魔術の効果を調べてた時、知念先生とお話しましたよね~?」
智慧理が無断で家庭科室を使っていると勘違いして、知念が智慧理を注意した時の話だ。あの時は後からやって来た紗愛が家庭科室の使用許可を得ていることを知念に説明して事なきを得た。
「あの時知念先生は、私達が調べてた『放課後に家庭科室で1人勉強をしていると幽霊に体を取られる』っていう七不思議を知ってるって言ってましたよね~?」
黒鐘さん、調査って具体的には何をやってたの?
今は七不思議の中の『放課後に家庭科室で1人勉強をしていると幽霊に体を取られる』っていうのを調べるために、ここで1人で勉強してました。
あ~、そう言えばあったねそんなの。
知念先生も七不思議のこと知ってるんですか?
うん、私ここの卒業生だから。
当時の智慧理と知念の会話だ。
しかしレイラから得た情報が正しいのなら、知念が御伽原学園に通っていた頃は、七不思議の舞台は家庭科室ではなく理科室だったはずなのだ。
「知念先生が<認識の攪乱>で七不思議の記憶を書き換えられてる可能性もありますから~、知念先生が犯人だって断言はできませんけど~、それでも怪しいのは……」
「ちょ、ちょっと待って鹿籠さん」
焦ったような口調で露華の言葉を遮る紗愛。
「どうかしましたか~?」
「まず、私達は知念先生と七不思議の話なんてしたこと無いと思うんだけど……」
「……え?」
今度は露華が驚く番だった。
「智慧理、鹿籠さんの言ってることって覚えてる?」
「いえ……そんなこと無かったと思いますけど……」
智慧理と紗愛は困惑しながらお互いの記憶を確かめ合う。智慧理も紗愛も、露華の言う「知念と七不思議の話をした時」の記憶は持ち合わせていなかった。
「……だとしたら、知念先生が犯人です」
露華の声が僅かに低くなる。
「私には知念先生と七不思議のお話をした記憶が確かにあります~。その時は智慧理さんも紗愛先輩も確かにいました~。それなのに2人がその時のことを覚えてないってことは、知念先生が<認識の攪乱>で2人の記憶を書き換えたとしか考えられないです~」
「……鹿籠さんがそう言うのなら、そういうことなんでしょうね」
紗愛が即座に露華の証言を受け入れたのは、仲間への妄信でも無ければ思考停止でもない。
露華は非常に優秀な頭脳と高い精神干渉耐性を兼ね備えている。そのため智慧理と紗愛の記憶になく露華だけが覚えている事柄があった場合は、露華の記憶違いの可能性よりも、智慧理と紗愛が何らかの精神干渉によって記憶を改竄されている可能性の方が圧倒的に高いのだ。
「私達、気付かない間に記憶を消されてたってことですか!?」
「そうね、まんまとしてやられたわ」
紗愛の声色はいつになく口惜しげだった。熟練の魔術師である紗愛にとっては、自分が魔術で出し抜かれたという事実は許し難いものがあるのだ。
「犯人はこれまで自分に繋がる記憶を入念に抹消してたわ。新聞部が情報提供者の名前を忘れてたようにね。その一環で私達の記憶も消されたんだわ」
「でも~、2人はそれに気付きましたよ~?」
「……そうね。鹿籠さんがいてくれたおかげで、犯人の工作は完全に裏目に出たわ」
智慧理には紗愛の声しか聞こえていないが、インカムの向こうで紗愛がニヤリと性格の悪そうな笑顔を浮かべているのが手に取るように分かった。
「私達から自分の記憶を消すだなんて、自分が犯人だってアピールしてるようなものじゃない。<認識の攪乱>を多用する割に精神干渉耐性を考慮しないだなんてとんだ未熟者だわ」
「紗愛先輩紗愛先輩、悔しいからってここにいない犯人相手にマウント取るのはカッコよくないですよ」
「うっさい!とにかく鹿籠さんが知念の尻尾を掴んで私の前まで引きずり出してくれた以上、もう知念に逃げ場は無いわよ。あの教師面した三流魔術師、目的も本条聖との関係も現住所も出身大学も恋愛遍歴も性癖も何もかも明かしてやるんだから……!」
「知念先生の性癖明らかにされても私達どう反応したらいいんですか……」
必要以上にやる気を漲らせている紗愛に少し引いている智慧理。
しかし実際紗愛の情報収集能力は御伽原でも随一。その紗愛がここまでのやる気を見せている以上、最早知念に逃げ場はないだろう、と智慧理は確信していた。
「ああそうだ、それとアイツにも話を聞きに行かないとね……」
紗愛のその呟きはたまたま雑音に紛れ、智慧理と露華には届かなかった。
次回は3日に更新する予定です