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32.<開門>と<死光線>

 「ヴァヴを召喚って……そんなことできるんですか?」

 「<開門>の魔術を使えば多分できるわ」

 「カイモン?」

 「門を開くって書いて<開門>。簡単に言うと邪神を召喚するための魔術よ」

 「邪神を召喚……」


 それを聞いて智慧理の脳裏に蘇ったのは、御伽原中央公園での炎の司教カガリとの対決だ。戦闘の最中、カガリは邪神ザララジアの召喚を試みた。


 「じゃあ、あの時カガリが使ってたのも……」

 「<開門>だったと思うわ。私は見てないから断言はできないけど」

 「あれ紗愛先輩も使えるんですね」

 「使ったことは無いわ、知識として知ってるだけ。邪神の召喚なんてただの自殺行為だもの、1億円積まれたって御免だわ」


 智慧理は紗愛がかなりの金持ちだと知っているので、紗愛にとっての「1億円積まれる」がどの程度のことなのか測りかねた。


 「でも邪神を召喚するための魔術で、邪神じゃないヴァヴを召喚できるんですか?」

 「こればっかりはやってみないと分からないけど、分の悪い賭けじゃないと思うわ。ヴァヴは邪神ヴィズビオンの肉体の一部が剥離して生まれた邪神眷属で、言い方を変えれば邪神ヴィズビオンの一部だもの」

 「なるほど……?」


 魔術師の紗愛ができると言うならできるのだろう、と智慧理は受け入れた。


 「それでヴァヴの召喚に成功したらどうするんですか?」

 「智慧理がヴァヴを殺すのよ。街に被害が出る前にね」

 「わぁシンプル」


 紗愛が一晩使って考え出した作戦は、「召喚して殺す」というあまりにも単純明快な2工程だった。


 「私も戦闘を智慧理に任せきるのは悪いとは思ってるのよ?いつも智慧理ばっかり痛い思いをしてるし……」

 「それは別に私気にしてないですけど」

 「できることなら私も一緒に戦いたいけど、私なんて智慧理の足を引っ張った挙句無駄死にするのが関の山だろうし……」

 「そう言えば私、紗愛先輩が戦ってるところって見たことないです」


 智慧理はこれまでに紗愛の戦闘行為というのを目にしたことが無かった。以前恐竜人間ダハの研究施設で紗愛が智慧理に光芒銃を向けたことがあり、それは辛うじて戦闘行為と呼べなくも無いが、その時も紗愛は実際に発砲はしていない。

 要するに智慧理は紗愛の戦闘能力というものをまるで知らなかった。


 「紗愛先輩ってどれくらい強いんですか?」

 「私の戦闘能力なんて普通の恐竜人間とそんなに変わらないわよ」

 「えっ!?」


 智慧理は耳を疑った。

 先祖返りでない普通の恐竜人間の戦闘能力はウェンディゴとほぼ同等。そして恐竜人間もウェンディゴも智慧理ならパンチやキックの一撃で殺害できるレベルであり、はっきり言って雑魚の部類だ。


 「アーティファクトを使えば流石に普通の恐竜人間に1対1で負けることは無いと思うけど……それでも中位眷属以上の相手には間違いなく歯が立たないわね」

 「そ、そうだったんですね……」


 智慧理は何となく紗愛はダハと同じくらいには強いものだと思っていたので、普通の恐竜人間並みというのには驚きを隠せなかった。


 「私はほら、魔術の解析とかアーティファクトの開発とかの方に特化してるから。戦いは持ち場じゃないっていうか」

 「紗愛先輩は引きこもりタイプの恐竜人間なんですね」

 「そこはせめてインドア派とか言いなさいよ人聞き悪いわね」


 数ある表現の中で最も聞こえの悪いものを選んだ智慧理に、紗愛は表情を引き攣らせた。


 「話を戻すけど、私が考えた作戦だと智慧理の負担がかなり大きくなるわ。上位眷属と戦う以上、命だって保証はできない。だから智慧理が嫌だって言えば別の作戦を考えるけど……」

 「私はその作戦がいいと思います」


 紗愛の語尾に被せるように智慧理は作戦の支持を表明した。


 「要するに私がヴァヴに勝てばいいんですよね?それくらい分かりやすい作戦の方が私はやりやすいです」

 「……頼もしいわね。流石はブラックエンジェル」

 「それで、やるならいつやるんですか?私はいつでも大丈夫ですけど」

 「そうね……場所の確保とかもしなきゃいけないから、明日の夜でどうかしら。1日あれば色々手筈を整えられると思うの」

 「明日ですね、分かりました」


 作戦決行の予定も決まったところで、今日はひとまず解散……という話になりかけたところで、智慧理はとあるアイデアを思い付いた。


 「あっそうだ!紗愛先輩、露華にも手伝ってもらうのはどうですか?」

 「えっ?」


 屋上を出て行こうとしていた紗愛の足が止まる。


 「紗愛先輩、前に露華は私と同じくらい強いって言ってたじゃないですか。だから私と露華が力を合わせれば、ヴァヴに勝てる確率も上がるんじゃないですか?」


 智慧理はこのアイデアを我ながら名案だと思っていた。折角露華という新たな戦力と知り合うことができたのだから、その力を借りない手はないと。


 「そう、ね……」


 しかし智慧理の自己評価とは裏腹に、智慧理のアイデアに対する紗愛の反応はあまり芳しくなかった。


 「えっ……な、なんかダメですか?」

 「いや、ダメってことはないけど……」


 顎に手を当てて何やら考え込む紗愛。ダメってことはないけど何なのか、智慧理はハラハラしながら続きを待った。

 智慧理の体感で1分ほど待った末に、紗愛は再び口を開く。


 「……そうね。一応鹿籠さんにも声を掛けてみましょうか」

 「ええっ!?」


 紗愛が出した結論に、智慧理は仰け反らんばかりに驚いた。


 「何よ、その驚き方は。智慧理が言い出したんじゃないの」

 「だ、だって!紗愛先輩が『そのアイデアはちょっと……』みたいな雰囲気出すから!」

 「別に出してないわよそんなの」

 「出してましたよ!今にも『今回は鹿籠さんにお願いするのはやめときましょう』とか言い出しそうでしたよ!」

 「やめなさいよそのモノマネ。私そんなんじゃないでしょ」

 「割とこんなんですよ。『今回は鹿籠さんにお願いするのはやめときましょう』」

 「その髪ファサファサするのやめなさい!私そんなのしてないでしょ!?」

 「『この御伽原学園生徒会長千金楽紗愛様の前にひれ伏しなさい!』」

 「私がいつそんなこと言ったのよ!?」


 全く似ていない紗愛のモノマネが段々楽しくなってしまい、結果盛大に話が逸れてしまった。


 「はぁ、全くもう……とにかく、鹿籠さんに手伝ってもらうなら、鹿籠さんには智慧理の方から話を通しておいてよ」

 「は~い」


 そのやり取りを最後に、今度こそ紗愛は屋上から去っていく。


 「……なんで紗愛先輩、露華に手伝ってもらうのイヤそうだったんだろ」


 紗愛は否定していたが、紗愛が露華との協力にあまり乗り気でなかったことは確かだ。その理由を聞き出そうと思っていたにもかかわらず、モノマネが楽しすぎて聞きそびれてしまった。

 過ぎてしまったことは仕方ないので、智慧理はこのことは次に紗愛に会った時に改めて聞いてみることにした。


 「まずは露華に話しないと……昼休みの間に間に合うかな……」


 昼食を食べた後に紗愛と作戦会議をしたので、昼休みはもう残り少ない。

 智慧理は露華を探すため、早足で屋上から立ち去っていった。




 「露華、ちょっといい?」


 結局昼休み中に露華と話をすることができず、智慧理は放課後になってようやく帰宅しようとしている露華を捕まえた。


 「どうかしましたか~?」

 「話したいことがあるんだけど、ここじゃちょっと……」


 ホームルームが終わったばかりでまだ人の多い教室では話しづらい。智慧理はジェスチャーで「場所を変えよう」と露華に伝える。


 「じゃあ一緒にお手洗い行きましょ~」

 「うん、そうしよ」


 智慧理と露華は教室に鞄を残し、トイレへと場所を移した。


 「それでお話って何ですか~?」

 「うん、実はね……ウェンディゴのことなんだけど」

 「ウェンディゴの~?」


 第三者がトイレに入ってこないか、トイレの前を通った人に聞こえてしまわないかを警戒しながら、智慧理は露華にウェンディゴとヴァヴに纏わる一連の事情を伝えた。


 「それでね、一応明日の夜にヴァヴを召喚して、そこでヴァヴと戦うことになってるんだけど……もしよかったら露華も手伝ってくれないかなって……」

 「分かりました~」


 智慧理が言い終わらない内に、露華は笑顔で頷いた。


 「えっ、いいの!?」

 「はい~。頑張って一緒にヴァヴさんを倒しましょ~」


 露華があまりにもあっさりと承諾したので、智慧理は何だか拍子抜けしてしまった。


 「ありがとう露華。一緒に頑張ろうね」

 「よろしくお願いします~」


 互いに両手で握手を交わす智慧理と露華。


 「でも一緒に戦うなら~、私達ってもっとお互いのことを知らないとですよね~」

 「お互いのことって?」

 「私は智慧理さんがどんな戦い方ができるのか、まだあんまりよく知りませんから~」

 「あそっか、そういう話はしたこと無かったよね」


 智慧理と露華は肩を並べて戦ったことこそあれ、互いの能力の詳細については把握していない。露華の能力について、智慧理は「ワープゲートを作れて強力なビームを同時に何発も撃てる」という程度にしか認識していない。


 「私はですね~、こうやって廻廊を開いて~……」


 露華がパチンと指を鳴らすと、智慧理と露華の間の空間に2つの亀裂が発生した。


 「空間と空間を繋げられるんです~」


 露華が片方の亀裂に人差し指を入れると、指の先端がもう片方の亀裂から出てきた。


 「これは智慧理さんも知ってますよね~?」

 「そ、そうだね……なんかこれ見てると頭が変になりそう……」


 廻廊に隔てられた指が連動して動く様子は何かのトリックアートのようで、見ているだけで脳が混乱した。


 「それと私は~、<死光線>っていう魔術が得意なんです~」

 「しこうせん?どういう字書くの?」

 「死ぬの死にビームの光線って書いて死光線です~」


 ふわふわとした露華の喋り方には似つかわしくないほどに、死光線の字面は物騒だった。


 「死光線ってもしかしてあの金色のビームみたいなやつ?」

 「そうです~。<死光線>はパパが<排斥の光芒>を改造して作ったオリジナルの魔術なんですよ~。智慧理さん、<排斥の光芒>って知ってますか~?」

 「うん、知ってるよ」


 智慧理が常用しているアーティファクトの1つであるヘリワードは、引き金を引くことで<排斥の光芒>が発動するという代物だ。そのため<排斥の光芒>という魔術には、智慧理にも多少馴染みがある。


 「<死光線>はですん~、普通の<排斥の光芒>よりも威力が高くて、しかも傷が治りにくくなるっていう効果もあるんです~」

 「殺意が高いね……」

 「その分魔力の消費も<排斥の光芒>より多くなっちゃってるんですけど~……パパが魔力が多くなるように私を作ってくれたので、その辺りは問題無いんです~」

 「そ、そうなんだ……」


 当たり前のように自分に対して「作られた」という言葉を用いる露華に、智慧理は改めて露華が人造人間であることを思い知らされた。


 「他にも空を飛んだり邪神眷属の気配を感じたりもできますけど~、戦いで役に立つのは廻廊と<死光線>くらいです~」

 「ありがとう、教えてくれて。じゃあ私の方も何ができるのか話すね」

 「お願いします~」

 「あのね、正直自分でもあんまりよく分かってないんだけど、私には生命力増幅機能っていうのがあって……」


 智慧理も自らの能力について露華に打ち明け、2人は互いの能力の情報を共有した。これでヴァヴとの戦いでは、2人はより綿密な連携が取れるようになったこと間違いなしだ。

次回は7日に更新する予定です

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