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21.御伽原大火災

 「ひ、っ……」


 燃え盛るチャリオットを前にして、睦美は引き攣った声を漏らす。逃げ出そうにも恐怖のあまり足腰が立たず、座り込んだまま僅かに後退ることしかできない。

 そんな睦美に対し、チャリオットは炎で形成された右前腕をゆっくりと伸ばし……


 「その子に触るな!!」


 炎の爪が睦美に届く直前、チャリオットと睦美の間に黒い影が降りてきた。同時に周囲に黒い羽根が舞う。


 「え……」


 チャリオットから自分を守るように立ち塞がるその背中を見上げ、睦美は呆然と呟く。


 「ブラック……エンジェル……?」


 ブラックエンジェル――智慧理はチャリオットを睨みつけたまま、背後の睦美に声を掛ける。


 「立てる?」

 「え、っ……」

 「立てるなら今すぐ逃げて。大丈夫、この怪物は私が倒すから」


 その声を聞いても睦美がブラックエンジェルの正体に気付くことはない。マスカレイドの認識攪乱機能によって、智慧理の声だということを認識できなくなっているのだ。


 「あっ……あの……」


 ブラックエンジェルを目の前にしたことで睦美は幾らか落ち着きを取り戻し、ふらつきながらではあるが立ち上がることができた。


 「あ、ありがとうございました!その……応援してますっ!」


 睦美は智慧理にそう声を掛けてから、避難誘導を続けている運営スタッフの下へと走り去っていく。


 「……ふふっ、意外と余裕あるじゃん」


 最後にブラックエンジェルへの応援メッセージを言い残していった睦美の強かさに、智慧理は思わず頬を緩める。だがすぐに唇を引き締め、改めてチャリオットを睨み上げる。


 「智慧理。さっきも言ったけど、チャリオットは炎の司教と同じで物質的な肉体を持たないわ。戦うなら余剰生命力か武器を使いなさい」

 「分かりました」


 紗愛のアドバイスを受け、智慧理は両腕を硬質化させ、全身から余剰生命力を迸らせた。


 「睦美に手を出そうとしたコイツは……直接ぶん殴らないと気が済みません!」

 「そう、なら思う存分ぶっ飛ばしてやりなさい!」


 余剰生命力を纏った智慧理を脅威と認識したのか、チャリオットが咆哮を上げながら智慧理に躍りかかる。その動きは狩りを行うトラさながらだ。


 「てやぁっ!」


 迫り来るチャリオットに対し、智慧理は渾身の右ストレートを繰り出す。余剰生命力に覆われた硬質の拳は、チャリオットの額のど真ん中に見事命中した。悲鳴を上げながら体を仰け反らせるチャリオット。かなり効いている様子だ。

 智慧理はそのままプロボクサーさながらに左右の拳でチャリオットに猛攻を仕掛ける。生命力の増幅によって強化された身体能力から放たれる拳打は秒間10発にも達し、硬い拳が命中する度にチャリオットの巨体が徐々に削れていく。拳打と同時に撃ち込まれる余剰生命力が、チャリオットの体を構成する炎を少しずつ消し飛ばしているのだ。

 元々大型肉食獣に匹敵する体格を有していたチャリオットは、いつしか大きめのイエネコ程度の体格にまで縮んでしまっていた。


 「これで……!」


 智慧理は右手の拳を左手で包み、両手を頭上に振り上げる。


 「終わり!」


 そして組み合わせた両手を、小さくなったチャリオットの背中に思い切り叩きつけた。ダブルスレッジハンマーと呼ばれるようなその一撃によって、チャリオットは跡形も無く消滅する。

 だがこれで一息、という訳にはいかなかった。会場中の炎の鬼人達が、続々と智慧理に向かって集まりつつある。


 「智慧理!警察と消防が到着したから、そのまま鬼人達を引き付けておいて!鬼人が智慧理のところに集まってれば、避難誘導がスムーズになるはずよ!」

 「分かりました!」

 「それと、智慧理、その……」


 紗愛は躊躇いながら言葉を続ける。


 「炎の鬼人に変異した人間は、もう元には戻らないわ。だから残念だけど……」

 「殺すしかない、ですか?」


 智慧理は右手にオズボーンを召喚しながら、紗愛の言葉を引き取った。


 「大丈夫です、元人間だからって殺すのを躊躇ったりしません。元人間を殺すのは初めてじゃありませんから」


 智慧理はオズボーンとヘリワードの2つの武器を構えて、迫り来る鬼人の軍勢へと突撃していく。

 鬼人達は統率の取れた動きで智慧理を包囲するような陣形を取り、次々と智慧理目掛けて飛び掛かってくる。その行動は智慧理に攻撃を加えるというより、智慧理の身動きを封じようとしているように見えた。

 智慧理は左手でヘリワードを乱射し、右手でオズボーンを振るって鬼人を斬りつける。

 オズボーンが鬼人の首を刎ね飛ばすと、首の断面からは噴水のように血が噴き出した。鬼人はカガリやチャリオットと違って物質的な肉体を持っていることを、智慧理はこの時初めて知った。


 「くっ、数が……!」


 智慧理の表情に焦燥が浮かぶ。

 鬼人は体表から炎を発生させる能力を持つが、身体能力は人間にも若干劣る程度に低い。単体であれば智慧理にとっては全く脅威にならないと言っていい。

 だが1体では敵ではない鬼人も、数十体が一斉に攻めてくるとなると話が変わってくる。依然傷は負っていないものの、徐々に周りを取り囲む鬼人の数が増していき、動きが制限され始めていた。

 そんな智慧理に追い打ちをかけるかのように、会場全体を包む炎の中から更に3体の燃え盛るチャリオットが飛び出してきた。チャリオットは鬼人達を蹴散らしながら智慧理目掛けて一直線に突撃してくる。


 「智慧理、上に逃げなさい!」

 「はいっ!」


 このまま地上戦を続けると不利だと判断した智慧理は、6枚の翼を広げて空へと飛び立つ。が、


 「おやおや、それはいけませんねぇ」


 突如近くの炎からカガリが出現、智慧理に向かって巨大な炎の塊を放つ。


 「え、っ……」


 完全に不意を突かれた智慧理は、攻撃に対する反応が遅れてしまった。回避がもう間に合わないことを直感した智慧理は咄嗟にヘリワードの引き金を引くが、ビーム1発程度では炎の塊の勢いは全く衰えない。

 炎の塊は智慧理の右腕に直撃し、同時に中央公園全体が眩い光に包まれるほどの盛大な爆発を起こす。


 「うぐ、っ……!?」


 爆発によって左腕が吹き飛び、全身に火傷を負う智慧理。爆風によって飛ばされたのか壊れたのか左耳のインカムが失われ、紗愛の声はもう届かない。

 大きすぎるダメージによって朦朧とする意識の中、智慧理は辛うじて空中に留まった。この状態で地上に墜落すれば瞬く間に鬼人やチャリオットの餌食となってしまう。


 「おやおや。今の攻撃を受けて尚、空に留まり続けるとは……人ならざる耐久力と言わざるを得ませんねぇ……」


 カガリが驚きを露にする。

 智慧理にとって幸運だったのは、炎が直撃した部位が硬質化した左腕だったことだ。左腕の硬度のおかげで爆発のダメージがかなり抑えられ、結果としては左腕を犠牲にそれ以外の体を守ることができた。

 だがそれでも智慧理が重症であることに変わりはない。当然カガリもそれを理解しており、嘲りの感情を顔に浮かべる。


 「いやはや、こうも容易く私の目論見に嵌ってくださるとは思いませんでした」

 「目……論見……?」


 智慧理は残る少ない力を振り絞ってカガリを睨みつける。


 「会場中に炎の鬼人を放てば、あなたは市民を逃がすために鬼人を一手に引き受けることを選ぶでしょう。そしてあなたと言えど数十の鬼人を単身で相手取れば、数の暴力に押されて空へと退避せざるを得なくなる。私はその時までひたすらに炎を圧縮して威力を高め、あなたが飛び立った瞬間を狙って炎を放てばいい。不意を突かれたあなたは回避も防御もできずに炎の餌食となる……私の想定通りに事が運びました」


 カガリは芝居がかった仕草で両腕を大きく広げると、


 「分かりますか?今回の私の目的は、ザララジアの信奉者を増やすことではなく、最初からあなたを抹殺することだったのですよ!」


 勝ち誇ったように高らかにそう叫んだ。


 「じゃあその目的は失敗ですね……」


 息も絶え絶えに智慧理は言葉を返す。


 「こうして私は生きてますから……」


 智慧理のその言葉にカガリは不機嫌そうに顔を顰める。


 「強がるのも大概になさったらどうです?左腕を失い全身に火傷を負ったあなたに、これ以上何ができるというのですか?」


 カガリの指摘はあながち間違いではなかった。智慧理の怪我は生命力増幅機能が無ければとっくに命を落としているほどの重傷で、その上失われた左腕や全身の火傷は一向に回復の気配を見せない。ダメージが大きすぎるためか、自然治癒力が相当低下しているのだ。


 「決まってるじゃないですか、あなたを殺すんですよ」


 だが智慧理は激痛と損傷によって意識が朦朧とする中、無理矢理に笑顔を形作りながらそう啖呵を切ってみせた。


 「ほう?片腕を失い今にも命の灯が消えそうなあなたが、炎の司教たる私を殺すと?」

 「ええ。分かりませんか?私があなたを殺すのなんて、腕1本で充分だって言ってるんですよ」


 智慧理のその挑発に、カガリは能面のような無表情になる。だがその顔の内側で激しい怒りが渦巻いていることは、火を見るよりも明らかだった。


 「2度とそのような大口を叩けないように、骨すら残さず焼き尽くして差し上げますよ!」


 カガリはバスケットボール大の火球を同時に6個作り出し、次々と智慧理目掛けて射出した。

 それらの火球は先程智慧理がその身に受けた炎の塊と比べると、威力も速度も遥かに劣っている。先の一撃はカガリが長時間かけて炎を圧縮した渾身の大技なのだから当然だ。

 だが威力速度共に劣ると言えど、今の智慧理が6つの火球の内のどれか1つでも食らってしまえば致命傷になる。智慧理は火球と接触しないようカガリからなるべく距離を取る……かと思いきや、逆に火球の隙間を縫うように飛行しながらカガリとの距離を詰め始めた。


 「なっ、正気ですか!?」


 1つ間違えば火球と正面衝突して即座に命を落とす捨て身の策。だがだからこそカガリの不意を突くことができた。


 「てやあああっ!!」

 「くっ……!」


 智慧理が気合と共に右手のオズボーンを振るい、カガリはそれを躱そうと体を反らす。だが先程の智慧理がそうだったように、不意を突かれたカガリは回避行動が遅れ、オズボーンの切っ先がカガリの胸を掠めた。


 「っ、ぐあああああっ!?」


 オズボーンの呪詛によって増幅された苦痛に、絶叫を上げるカガリ。

 炎の司教と言えど、痛みから逃れようとする本能は人間や他の生物と変わらない。カガリは苦痛の元凶であるオズボーンから逃れようと、智慧理とは反対の方向へ飛んでいく。


 「逃がしません!」


 カガリのすぐ後を追従する智慧理。再び振るわれたオズボーンの刃が、カガリの右足のふくらはぎを僅かに斬りつける。


 「ぎゃああああっ!?」


 再び絶叫を上げるカガリ。何とか智慧理を引き離そうと飛行速度を上げるも、智慧理はそれを上回る加速によってカガリの前方に回り込んだ。


 「っ、何なんだその速度は!?」


 いつもの他人を小馬鹿にしたような口調をかなぐり捨ててカガリが叫ぶ。


 「どうして瀕死のお前がそんな速度で飛び回れる!?」

 「それがあなたの本性ですか?育ちが出てますよ!」


 智慧理が振り下ろしたオズボーンの刃が、カガリの胸を袈裟懸けに切り裂く。3度目の絶叫が中央公園に木霊した。


 「あら?顔色が悪くなってますよ?」


 カガリの表情からはすっかり余裕が消え失せ、智慧理とオズボーンを怯えた瞳で交互に見比べている。

 顔色に関しては智慧理も他人のことは言えない。だが無理矢理にでも笑顔を浮かべている智慧理と、怯えを表情に出してしまっているカガリとでは、精神面において大きな差があった。


 「どうしてだ……?」


 カガリの声には疲労が滲んでいる。炎の司教たるカガリは物質的な傷を負わないが、オズボーンが宿す呪詛は確実にカガリにダメージを蓄積させ、それがカガリを疲弊させていた。


 「どうして……死にかけのお前が……俺より速く動ける……?」

 「さあ?どうしてでしょうね?」


 智慧理ははぐらかしたが、その答えは単純にして明快。今の智慧理は残り少ない生命力を、全て戦闘のために消費しているのだ。

 本来なら生命維持や自然治癒などに使われるはずの生命力すらも身体強化に回し、それどころか余剰生命力をオズボーンに纏わせて攻撃力を底上げさえしている。生命力に一切の余裕がないにもかかわらず余剰生命力を放出する行為は、文字通り「命を削って」いる。

 街を脅かし、友人の睦美をも危険に晒したカガリをこの場で打ち倒すため。智慧理は全身全霊を注いでいた。


 「クソッ……!」


 カガリは身を翻してまたしても智慧理から逃れるように飛行する。向かう先は地上、未だ衰えぬ勢いで燃え盛る炎の中だ。

 炎の司教の真価は、炎の中でこそ発揮される。炎に飛び込むことさえできれば、炎を介した瞬間移動能力によって奇襲も逃走も思いのまま。

 そう考えたカガリだったが、


 「遅いですよ!」


 彗星のように余剰生命力の尾を引きながら、智慧理がカガリを捉える。逆手に盛ったオズボーンの黒い刃が、カガリの背中に深々と突き刺さった。

 これまでの掠っただけの斬撃とは訳が違う、体の中枢を抉る強烈な一撃。それによってもたらされる苦痛もこれまでとは段違いで、カガリは最早悲鳴を上げることすらできなかった。


 「っ、いい気に……なるなよ!」


 カガリの全身から炎が迸る。智慧理は素早くオズボーンを引き抜いて後退し、炎の炸裂を回避した。


 「こうなったら仕方がない……こんなところで使うつもりは無かったが……!」


 荒い息遣いで智慧理を睨みつけるカガリ。その瞳には狂気的な光が宿っている。


 「エアマティサワラ・オアタグシネズン・アガガウィカリ……」


 カガリの口から悍ましい雰囲気の呪文が紡がれ始める。

 すると中央公園の上空に異変が生じた。ドクンッと心臓の鼓動のように空間が脈打ったかと思うと、空間に直径数mほどの玉虫色の亀裂が発生する。


 「何……あれ……」


 亀裂を見上げた智慧理は、その向こう側に何かの存在を垣間見る。

 それは赤いクラゲのような、或いは燃え盛る彼岸花のような、炎を纏った巨大な触手の塊で……


 「うぐぁっ!?」


 それの一端を認識した瞬間、智慧理を激しい頭痛と眩暈が襲う。同時に智慧理は自分の中に「異なる自分」が入ってくるような錯覚を覚えた。

 炎を崇めよ。大いなるザララジアを崇めよ。炎に身を委ねよ。炎に身を投げよ。大いなるザララジアにその身を捧げよ。

 異なる自分の声が智慧理の脳裏に響く。声が大きくなると同時に、頭痛と眩暈は加速度的に悪化していった。


 「こ、れは……っ!」


 精神を汚染されている。智慧理はそう直感した。

 同時に智慧理は、亀裂の向こうに垣間見た存在が邪神ザララジアそのものであることを理解する。

 ザララジアが炎の司教よりも数段強力な精神汚染の力を持つこと、そしてザララジアを視認することで人間は精神を汚染されることを、智慧理は以前紗愛から聞いた。カガリの精神汚染の影響を受けなかった智慧理の精神を汚染する存在がいるとすれば、この状況においてそれはザララジア以外に考えられない。


 「ホノメティカソン・エギジョヌオス・イェスキ・ザララジア……」


 カガリの呪文が続くにつれて、亀裂は徐々に広がっていく。


 「まさか、っ……ザララジア、を……!?」


 今はまだ一端しか姿を見せていないザララジア。その全貌がどれほどの巨体を誇るのか智慧理には想像もつかないが、仮に亀裂がザララジアの全貌を露にするほどにまで拡大した場合、ザララジアは当然亀裂を通って御伽原の上空に完全に顕現するだろう。

 それを阻止するには、カガリが呪文によって完全に亀裂を広げ切る前に、カガリの口を封じる他ない。だが……


 「う、ぐっ!?」


 頭痛と悲鳴、それと脳内に響く「異なる自分」の声は、耐え難いほどに悪化している。このままではカガリの口を封じることはおろか、ザララジアの精神汚染に抗い続けることすら難しい。

 ザララジアの完全顕現を阻止するためには、まずはザララジアの精神汚染をどうにかしなければ。激しく痛む頭で智慧理は必死に打開策を模索し……


 「っ、あああああっ!」


 智慧理は振り上げた右手に握るオズボーンを、深々と自らの腹部に突き刺した。

 瞬間、腹部の肉を深々と抉ったオズボーンの刃が、言葉にならないほどの耐え難い苦痛を智慧理に齎す。


 「エアマティサワラ、っ……!?」


 カガリは驚きのあまり一瞬詠唱を途切れさせた。オズボーンが与える苦痛を身を以て知っているカガリにとって、オズボーンを自らに突き刺すという行為は想像だにしないもの。驚いて当然だ。

 だがそのオズボーンの苦痛こそが、智慧理が求めていたものだった。


 「ああ……頭がスッキリしましたよ……!」


 正気を失いそうなほどの苦痛が、頭痛や眩暈や「異なる自分」など、ザララジアの精神汚染の影響を智慧理の意識から駆逐する。


 「自分の心を誰かにいいようにされるくらいなら、死ぬほど痛い方が100倍マシです!……っ、ごふっ!?」


 智慧理は口から血の塊を吐き出した。

 オズボーンの呪詛を抜きにしても、自分の腹に刃物を突き刺すというのは正真正銘の自殺行為だ。ただでさえ片腕を失い全身に火傷を負っていた智慧理がそんな真似をすれば、智慧理の死は最早秒読み状態だ。


 「はああああああああっ……!!」


 だがそんな状態でありながら、智慧理は残り少ない生命力を振り絞り、全身に高密度の余剰生命力のオーラを纏う。

 上空の亀裂が広がり続けている以上、どちらにせよ残された猶予は少ない。故に智慧理は次の一撃で完全に決着をつける心積もりでいた。

 そして限界を超えて力を振り絞ったためか、智慧理の肉体に変化が生じた。黒いブーツに覆われた智慧理の両足が、腕と同じように黒く金属光沢を放つ鎧のように変化していたのだ。

 自らの足の変化に気付いた智慧理は、無意識に口元に笑顔を作った。


 「これで行きますか……!」


 智慧理は黒い翼をはためかせ、カガリ目掛けて飛翔する。

 ロケットのような速度で風を切る最中、智慧理は体を反転させて両足をカガリへと向けた。キッチリと揃えられた両足の爪先を起点として、余剰生命力がドリルのように螺旋を描きながら智慧理の体を包み込む。


 「オアタグ、シネズン、っ……」


 カガリが恐怖に表情を引き攣らせる。詠唱を中断できないカガリにとって、迫り来る智慧理は「死」そのものだった。


 「死に晒せぇぇぇっ!!」


 智慧理渾身のドロップキックがカガリの胸板に直撃する。その強烈な一撃は、カガリの頭部以外の体全てを消し飛ばした。


 「が、っ……」


 唯一残ったカガリの頭部も、焚火が燃え尽きるように小さくなって消えていく。

 カガリが完全に消滅すると同時に、上空の空間の亀裂も急速に塞がり始めた。あっという間にザララジアの姿は見えなくなり、後にはそこに亀裂があったという痕跡すら残らなかった。

 カガリという統率者を失ったことで、地上の鬼人やチャリオットは我先にと炎の中に逃げ込んでいく。ものの数分で燃え盛る中央公園から邪神眷属の姿は消え去った。


 「よかった……」


 カガリを打破した智慧理は、邪神眷属のいなくなった中央公園を見下ろして安堵の息を吐く。炎は依然として激しく燃えているが、邪神眷属の影響が無くなった炎であれば消防隊が消し止められる。

 気掛かりなのは睦美の安否だが、智慧理にはもうそれを確認するだけの力すら残っていない。

 智慧理は今にも手放しそうな意識をどうにか繋ぎ止めながら、中央公園から飛び去って行った。

次回は16日に更新する予定です

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