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魔術犯罪防止課のトラ男と面食い後輩ちゃんの推しごと  作者: 桐城シロウ
一章 私が自分史上最高のイケメンを見つけて、転職した話
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8.尻尾に触るため、まずは可愛い後輩を目指します!

 



「お前らな……。普段、この時間帯はどっかに行って消えてるくせに」

「だって、新人がきたんだぞ!? そりゃ集まるだろ!」


 先輩がむすっとした表情で、フォークを持ち、サラダを食べていた。あー、本当は私も皆さんと一緒に向かいに座って、ご飯を食べてる先輩を舐め回すように見たかったんだけど、無理そう……。


 食い入るように、今日のおすすめランチメニュー、胡椒とハーブ塩を擦りこんだチキンと、黄色いターメリックライスの盛り合わせを食べる先輩を眺め、楽しんでいると、元バディのルカさんが話しかけてきた。怪我をしているのか、おしゃれなのかよく分からないけど、黒い眼帯をつけてる灰髪に青い瞳の男性で、ちょっとヤバめな匂いがする。お近づきにはなりたくない、微妙なイケメンなんだけど、私の好みじゃないだけかな……。


「フィオナちゃん、俺の話聞いてる? さっきからヒューのことばっか見てるね。本当に好きじゃないの?」

「じゃないです!! あと、話しかけないで貰えますか? 今っ、今、せっかく先輩がご飯を食べているところをようやく見れてる最中なのに! いつでも好きな時に先輩とご飯が食べられる皆さんには分からないんでしょうけど、ここにくるまで多大な苦労と努力をしたんですよ!? 先輩ったら、食堂で一緒に食べようって言ってるのに、断ってきて! 泣いてすがって、ようやくここに辿り着いたのに! 私の楽しい先輩を見る時間を奪わないでください!!」

「どこで息吸ってんだ、お前」

「喋っている最中に先輩の顔をちょっと見てるんですけど、その時にですね! 一秒、いや、二秒ほど見る合間に吸ってます。スーッて」

「そうか。この件について、考えるのはもうやめた方がいいんだろうなぁ……」


 私の奇行に慣れてきた先輩が、呆れた顔をしつつ、プチトマトを刺して食べていた。ああ、あのトマトになりたい……。でも、来世は先輩のお昼寝毛布になりたいかも! ふふふ、部屋にそんなものが置いてあるだなんて! リビングの日当たりの良いところにベッドが置いてあるって聞いて、きゅんってしちゃった。来世はトラ姿の先輩を優しく包み込む、ふわふわしっとりの高級毛布になるの。


 あ~、それにしても不法侵入してお昼寝姿が見たい! トラ姿の先輩が見たい!! 早く魔術を習得しなくっちゃ。しちゃいけないっていうのは分かってるんだけど、欲望に負けて、魔術で不法侵入してしまいそう……。私が「うふっ、うふふ」と、両手を頬に添えながら、うっとりしていれば、どうしてか皆さんがドン引きしていた。真っ先に口を開いたのは、実直そうな雰囲気を漂わせてる、金髪に蜂蜜色の瞳を持ったイケメンのニコラス君。正統派王子様って感じだけど、若干空気が読めない。


「先輩。その変な新人、やめさせた方がいいと思います!」

「ええっ!?」

「俺もそう思ってるんだが、やめそうにないし、ここで無理にやめさせたらストーカー化しそうで怖いんだ。こういう時は刺激しないのが一番だからな……」

「先輩、私のことそういう風に思ってたんですか!? 要注意人物なんですか!?」

「それ以外にぴったりの表現方法が見つからないんだよ。自覚しろ」

「そうですか……。じゃあ、じわじわと先輩の可愛い後輩になるべく、頑張りますね?」

「その表現、怖いからやめろ。侵食されそうで嫌だ!」

「侵食って! もうすでに、私の心を占めちゃってる先輩に言われてもなって感じなんですけど……」

「知るか。黙って食え」


 ちぇっ、つれないの。でも、塩対応されるのも好き! 背中がぞくぞくしちゃう。私がふふふと不気味に笑って、挽肉と野菜がごろごろ入ったトマトカレーを食べていると、ニコラスがあからさまに顔を歪めた。めっちゃくちゃ嫌そうな顔してるな、この子!


「顔目当てって……。そういうこと、やめた方がいいと思います。つきまといも犯罪ですよ、ハートリーさん」

「あ、気軽にフィオナって呼んでくれていいよ! 年下だよね? 何歳?」

「に、二十二歳……」

「若ーい! どうしてこの部署に入ったの? 前科があるの?」

「それ、初対面で聞くようなことじゃ……」

「あっ、ごめんごめん! 嫌なら無理に言わなくてもいいからね? 別に。ほら、私、こういう調子でガンガン聞いていっちゃうからさー! 嫌なら嫌って言って? 答えなくてもいいし、嫌だって言われたらそれ以上踏み込まないし~」

「分かりました……。それで? 俺の質問に答えて欲しいんですけど」

「お前にはその子の相手、無理だって。引いとけ、引いとけ」

「そうだぞ、ニコラス君。思っていた以上に変な美人だし、逆らわない方が得策だ」


 染めているのか、青い髪に青い瞳を持った双子がニコラス君をからかう。二人とも、綺麗な顔立ちをしていた。綺麗過ぎて、何の特徴も無い。髪色を変えたら、分からなくなる可能性大! おおうと思って見ていたら、にっと悪戯っぽく笑う。


「ようやく見てくれたね、兄さん。どうする? 話しちゃう?」

「話しとけよ。じゃないと、またロッカールームで叫ばれるぞ。面倒臭いだろ」

「それは確かに。初めまして、フィオナちゃん。変声チョーカーで声を変えてるんだけど、この意味分かる?」

「えっ? 分からないんですけど……」

「そっちの、ちょっとだけ髪が長い方が女なんだよ。男の方はショーンって名前で、女の方はシンディー」

「ヒュー! つまらないじゃない、言っちゃうと! せっかく驚かせようと思ったのに!」

「この堅物め。つまらん真似をしやがって」

「あ、ああ。なるほど。どうりで……ちょっとだけ違和感があると思ってました」


 そっくり同じ顔立ちなんだけど、シンディーの方が華奢で背が低く、丸みを帯びている。女顔の男性なのかな? って思ってたけど、女性だった。へー、男装した美人が特に好きってわけじゃないけど、テンションが上がる。どうして男装してるんだろ?


「これ、聞いたらまずいのかなぁって思いながらも、そのっ、聞きたいことがあるんですけど……!!」

「あ、男装してる理由? 元は兄さんとその友達に仲間外れにされるのが嫌で、始めたんだ。でも、こういう仕事でしょ? 女でいると舐められるし、兄さんと並び立つと男に見られやすいし、楽しくて続けてるんだ~。フィオナちゃんも、嫌になったらするといいよ」

「あ~、やっぱりその、トラブルに巻き込まれた時女だと、」

「ううん、違う違う。ここにはいないけど、あっ、ルカがそうか! ここの連中、セクハラばっかするから。ちょっと高いけど、一時的に男の姿になれる薬を飲んでいて」

「えっ!? そ、そんなに酷いんですか? セクハラが!?」

「そうそう。お尻を触ってくるやつばっかだよねえ~、大変大変」

「ルカがそれを言うなよ! 薬代払わせるぞ!?」

「やなこった。嫌ならそれ飲んどけ」

「クズ! クズ!」

「クズでぇ~す、どうもこんにちはぁ~!」


 ルカとシンディーがじゃれあい出した。それにしても、そんなに酷いの!? セクハラ! 慌てて隣の先輩を見てみると、ちょうど、骨付きチキンにかぶりついているところだった。チ、チキンに両手を添えて品良く食べてる! 銀混じりの青灰色の瞳が「ん?」とでも言いたげに、私のことを見下ろしていた。肉汁が滴り落ちてきそうな薄いくちびるを、舌がぺろりと舐めている。はわわわわ!! これはR指定されてもいいぐらいの食事シーンじゃないの!? 転職、最高!


「かっ、かかかかかっこいい!! ワイルドセクシー! ちょっ、写真撮ってもいいですか!?」

「今の話を聞いて、それを聞くのか? 他に聞くことがあるだろうに……」

「はい! もうここがセクハラ地獄な職場だったとしても、先輩の顔の良さでチャラになります。あと、私はどうも部長のお孫さんに似ているみたいで……いざとなったら、部長に告げ口して雷落として貰います」

「よっ、容赦ねえ! うわ~……躊躇しちゃうじゃん」

「ルカさんがセクハラしなきゃいい話かと」

「え~? お堅いこと言うなよ、ニコ君! 相変わらずだなぁ」


 私の発言を聞いて、ぞっとしたようにルカが両腕を擦る。大げさな仕草だった。それを眺め、ニコラス君が嫌そうな顔をする。


「ニコラス君はしないよね? そういうこと。あと先輩もしませんよね!? ねっ!?」

「俺をなんだと思ってるんだ、お前。しない。それよりも早く、」

「はあ? 先輩がそんなことするわけないでしょう! それよりも早くカレーを食べたらどうですか? ハートリーさん」

「あっ、はぁいはぁい! 俺もしないよ~。妹に殺されそうだからね」

「うん、殺す!」

「はははっ、食べよ食べよ! 教えてくれてありがとう、ニコラス君。私、骨付きチキンを食べる先輩の顔に夢中になりすぎて、自分が今、カレーを頼んだことすら忘れちゃってたから……」


 なんて罪深いの、先輩の顔は! 私がしみじみとカレーをすくいあげ、味わって食べていれば、先輩が「もう嫌だ……」と消え入りそうな声で呟く。


「えっ!? 先輩、どうかしましたか!?」

「どうかしましたかじゃなくて、お前がやらかす未来しか見えなくてきついんだよ……。精神的に辛いんだよ! ルカ、俺とフィオナの三人で仕事しないか?」

「あっ、ごめん。無理。だってフィオナちゃん、手がかかりそうじゃん? 俺でさえ、ある程度攻撃魔術が使えるのにさ、なんにも使えないって。ただのお荷物じゃん! 面倒臭そう」

「ひっどい! まあ、私というお荷物は先輩にしか運べませんからね……。先輩が私の専属配達員ということで、どうぞよろしくお願いします」

「いちいち妙なこと言うのやめろ、気が滅入るから」

「はぁーいっ!」


 ああ、嬉しいなぁ。先輩とこれから毎日一緒に働ける。でも、私が仕事終わりに「先輩の個人情報を聞き出すのが楽しみだな~!」と言ったせいか、職員を紹介してくれるって言ってたのに、他の誰とも話さないようにべったり張り付かれた。


「やだ、先輩! 独占欲が強い彼氏みたい~。写真撮ってもいいですか!? 出来れば第二ボタン、いえ、第三ボタンまで外して鎖骨と胸筋のチラ見せをして頂きたいんですけど!!」

「この気が狂った男を見て、よくもまあ、そんなことが言えたな……。却下だ、断る」

「あっ、でも、下に汗取りインナー着てますよね? 着古した、いいえ、このさい贅沢なんて言いません! 捨てる予定の服があったら貰えませんか? 何ならブラシでもいいんですけど。トイレブラシでも歯磨きブラシでも、靴ブラシでも!!」

「……元気だな……。俺は散々、お前のフォローをして疲れたっていうのに」

「解けーっ!! このバリアを解くんだ、ヒュー! 解けっ! 新人がそこにいるのに、確かめられないとは!」


 先輩が張った透明なバリアの向こうで、一番の変人らしい、ラインハルトさんが気でも狂ったかのように、わあわあ騒いでいる。伸びきった茶髪に青い瞳。バリアに顔をひたっとつけているから、顔がよく分からないけど、黙ってたら温厚そうなイケメンに見えるかも。それと、深紅の制服じゃなくて、サイズが合っていない、ぶかっとした黒いコートを着てた。この部署で眼帯が流行っているのか、ラインハルトさんも眼帯をしている。でも、銀色のドラゴンとツタの刺繍がされていた。


「ああああああっ、ヒュー! 分かってるだろう!? 俺が新人の魔力測定をするのを何よりも楽しみにしてるって! ずるいぞ、一人で新人を独占する気か!? 分け合うべきだ、貴様は何も分かってない!!」

「うるさい、黙れ。新人はおもちゃじゃない。それに、こいつを甘く見てたら後悔するぞ? 疲れる変態発言ばっかするんだ」

「先輩! フォローですか!? それとも、けなしてるんですか!?」

「両方だ。行くぞ、フィオナ。自己紹介はまた明日出来るだろ」

「はーいっ! まあ、私は先輩の顔が見れたらそれでいいんで! あと、住所教えて貰えません? それから、好きな食べ物と嫌いな食べ物と、好きなファッションブランドと雑誌と~」


 バリアを解いて、すぐさま部署のドアを閉じた先輩が、困惑を滲ませて笑う。ああ、たまらない。この顔! 祈るポーズで見上げていれば、横を通り過ぎるさい、ぽんと私の肩を叩いてきた。


「顔が見れたらそれでいいんだろ? じゃ、お疲れ。ステラと一緒に着替えてこい」

「えーっ!? 好きな食べ物と嫌いな食べ物ぐらい、ちゃんと教えてくださいよ!」

「フィオナちゃ~ん、連絡先交換しない?」

「あっ、しよしよ! ステラちゃん、お疲れ~!」

「お疲れさま~! どうだった? 初仕事は」

「うふふ、先輩が苦労してた~!」

「え~、やるじゃん! おもしろ」

「聞こえてるからな!? お前ら! 好き放題言いやがって!」


 ま、いっか。明日も会えるから。ふと後ろを振り返って、笑顔で手を振ってみれば、苦笑して手を振り返してくれた。揺れる尻尾に目が釘付けになる。ああ、いつかいつか、先輩の尻尾に触れますように!


「フィオナちゃん、このアイコンってあいつなの? ウケる。なんで真顔ピース?」

「ステラちゃん……。私ね? 当面の目標は先輩の尻尾に触ることにする!」

「あっ、うん。そんな真剣な顔で言うこと?」

「それにはまず、お金を積むか、可愛い後輩になるかしかないんだけど……。やっぱり、一番現実的なのは可愛い後輩になることだよね? よし、頑張ろ!」

「頑張れ、ファイト~。面白そう~」

「ありがとー! 応援しててー!」

「するするぅ、へーいっ」

「へぇーいっ! ひゃっふう!」








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