20.言いたいことを全部のみこむタイプの男
朝、何も考えずにいつも通り、青いノースリーブシャツと花柄スカートに着替えて、センターの自動ドアをくぐり抜けたら、一斉に女性が見てきた。集まってる!? 職員だけじゃない、一般の人もいる。
どことなく通勤服には見えないし、多分そう。皆さん、完璧にヘアセットして、メイクして、高そうなワンピースやブラウスを着ていた。吹き抜けの玄関ホールにて、赤い絨毯敷きの大階段の前を陣取っている。私とは無関係の集まりだと思っていた。
(うわぁ~、迫力あるなぁ。イベントの日だっけ、今日。会議室使うような人達には見えないけど……)
大体、暇なお年寄りや赤ちゃんを連れたパパ、ママが来るのに。珍しいなぁ。ここで若い女性や主婦の方々が、大勢来るようなイベントをやるとは思えないんだけど。有名モデルが来て、撮影するとか?
利用料が安いから、たまーに来るんだよね。見慣れてきたけど、このセンター、一応歴史がある建物だし……。トートバッグの持ち手を握り締めつつ、通り過ぎようとしたら、みんな、一斉に手元の写真を見ていることに気付く。
(何の写真? あれって)
運動のために大階段使いたいんだけど、無理かな。諦めてエレベーターホールへ向かおうとしたら、一人の女性が駆け寄ってきた。茶髪と青い瞳を持つ、ごくごく普通の女性。だから、油断していた。
呑気にわぁ、花柄のワンピースだ、紺色のジャケットと合わせてるの珍しいな~と思って眺めていれば、急に、切羽詰まった表情で立ち止まる。心配になって声をかけようとした瞬間、がっと、両手で私の肩を掴んできた。
「ねえ! ちょっとこれ、あなたでしょ!? あなたの写真よね?」
「えっ!? お、落ち着いてください……。痛いです」
女性が青い瞳を見開いたまま、ポケットから写真を取り出し、私の鼻先に押しつけてきた。見えないって! 半ば強引に奪い取って見てみると、そこには、昨夜の私とアーノルド様が映っていた。全身からざっと血の気が引く。
(だっ、誰が撮ったの!? これ! デート中に見えるし、仲が良さそう)
黒いレースのワンピースを着た私とアーノルド様が、連れ立って夜道を歩いている。でも、これ、笑顔なのは先輩の話をしているからだし……。アーノルド様、笑ってるけど、目が死んじゃってる。
目をよく見ると死んでるから、夜に着飾って、二人で歩いていても、デートじゃないって、主張しても信じて貰えないよね……。気が付くと、女性達に囲まれていた。着飾った女性達が殺気立ち、私を睨みつけてくる。
(ああ、そっか。今日は、私を吊るし上げてリンチするイベントかぁ)
どうしよう。攻撃して逃げる? 身の危険を感じてしまうほど、険しい無数の眼差し。敵意が肌に突き刺さった。でも、奥様よりマシかな。私にとって、世界で一番怖い人の顔を思い浮かべる。みんな、怖くないよ。どんな出来事も霞む。思い浮かべると、冷静になれた。怯まず、相手の目を見つめ返して、淡々と語る。
「私はアーノルド様と付き合っていません。エディ君に頼まれて、ご飯を食べに行っただけです」
「エディ?」
「あの悪魔……」
「はい。皆さん、知っているでしょう? レイラちゃんに嫉妬して、嫌がらせした人がどうなったのか」
ごめんね、脅しに使わせて貰うね、エディ君。俺が人を殺したって根も葉もない噂が、アーノルド様ファンの間で流れてる、面倒臭いって言ってたのにごめん。私が噂を肯定するようなことを言ったらまずいって分かってるけど、言わせて。
逃げなきゃ、ここから早く。尋常じゃない。魅了のせいか、どんどん目つきが血走ってきた。正気じゃないんだ、全員。
「私はアーノルド様の妹である、レイラちゃんと仲良しなんです。私に何かあったら、エディ君が黙っていませんよ」
「っふざけんな!!」
「きゃあっ!?」
びっくりして、甲高い声が出る。小太りのおばさんに髪を引っ張られた。とっさに手首を掴み、振り払おうとしたけど、上手くいかない。どうする? 魔術を使ったら、私、未熟だから怪我させちゃう。部長に怒られるのも嫌だ。
いっそ、髪の毛を何十本かプレゼントする覚悟で逃げるしか……。おばさんの悲鳴が上がって、手が離れる。見てみると、ふっくらした手指が氷に覆われていた。これは、もしかして。自然と目が、正面の大階段に吸い寄せられる。予想通り、焦った表情の先輩が立っていた。顔を歪ませ、一気に階段を駆け下りる。
「フィオナ! 無事か!?」
「ふぅわあぁーっ! ストライプが似合うなんて聞いてませんよ、先輩! かっこいい!!」
髪の毛を引っ張られたことなんて、どうでもよくなった。先輩が白と紺色のストライプ柄ジャケットを羽織ってる。六分袖のジャケットだから、逞しい筋肉質の腕がチラ見えしていてたまらない。下は細身のベージュ色ズボン。かっこいい!!
爽やかでカジュアルな服装は似合わないと思っていたのに、すっごく似合ってる。邪魔なおばさん達を押しのけ、先輩へ駆け寄る。安堵と苦笑を滲ませ、両腕を広げてくれた。迷わず飛び込む。
「ジャケットオオオォッ!! ストライプ柄!」
「何の話だよ、一体……。元気そうで良かった」
「あとで写真撮らせてくださいね!? 先輩はクール系のかっちりとした服装しか似合わないと思っていたのに、カジュアルな服装も似合うなんてっ」
先輩が無言で強く、私のことを抱きしめる。あ、心配かけちゃったのかも。だよね。髪を引っ張られてるところ、階段の上から見ていたのかな……。先輩がすぐに離れ、まじまじと私の顔を見つめる。銀色の瞳が不安そうに揺らいでいて、少しだけ戸惑った。
「きょ、今日は平手打ちされていません! 大丈夫ですよ!?」
「……でも、髪の毛を引っ張られていたよな?」
「挑発的なことを言った私も悪いんです。もう行きましょうよ、大丈夫ですから」
ここで暴れてほしくない。すでにみんな、青ざめてじりじりと下がっている。大体、朝から押しかけて、私を取り囲んだのは魅了のせい。やりたくてやったわけじゃない。
部署へ行こうと思って、先輩の腕を引っ張ったものの、動かない。感情が抜け落ちた表情で睨みつけていた。女性達が怯え、後退ったのを見て、先輩が手をかざす。
「待って、お願い!!」
「大丈夫だ。怪我させなかったらいいんだろ?」
止めたのに、手を振り下ろした。ああ、間に合わなかった……。はっきりと恐怖の表情を浮かべた女性達が、氷漬けにされている。足元までカチンカチンに凍っていた。めまいと吐き気がして、先輩の腕にしがみつく。着飾っているからか、悲壮さが増している。女性のリアルな氷像が、何十体も目の前に並んでいる光景は異様で寒気がした。
「先輩! け、怪我は、この人達、息ができないんじゃ!?」
「心配いらない。大丈夫だ」
「何が!?」
「多少、痛い目に遭わないとまた繰り返すだろ? 半日ぐらい、ホールに氷像を飾っておけば見せしめになるし、二度とフィオナを傷付けない」
「今すぐ戻してくださいよ! 半日って……」
「冗談だ。無断で醜悪な氷像を飾ったら怒られる。見てみろ、もう溶けてきたぞ。残念だ」
じわじわと足元の氷が溶けていって、凍りついていた足先が動き出す。良かった! そうだよね、先輩は残酷なことなんてしないよね。声をかけようと思ったら、先輩が私の手を掴んで、階段を上がり始めた。
「待ってください! もしも何かあったら」
「大丈夫だ、何もない。三十秒間だけ凍る魔術を使った」
「え~……。謝らないと!」
「あいつらは死んでもフィオナに謝らないぞ。謝る必要なんてない」
「うっ、でも、あとから先輩が文句を言われるのだけは嫌です……」
「何だ、かばっているのかと思った」
「そんなわけない! 大声でざまあみろって言いたい気持ちでいっぱいですよ」
階段を上がっていた先輩が振り返って、にっと悪戯っぽく笑う。あー、もう何も言えないや。どうせ、謝ったところで許してくれないだろうし……。
部長に怒られたら、アーノルド様のファンに髪を引っ張られたって素直に話そう。それにしても先輩、紺色と白のストライプ柄ジャケットが似合いすぎてて大変。ときめきが抑えられないよ、たまらん! 今すぐ撮りたい。撮らなきゃ気が済まない。
「フィオナを怖がらせないように動きたいが、いつも上手くいかない」
「えっ? 階段を上りきったら写真撮らせてくださいね」
「話を聞く気がないだろ? 黙って聞いてくれ」
「はい。廊下の端で撮りましょうか……」
「フィオナ?」
「小声で言ったのに!」
「……時々、暴走しそうになる。俺が暴走したら殴るなり、蹴るなり、好きにしてくれ。フィオナが力ずくで止めたら、多分、暴走せずに済む」
「はい、分かりました。ところでそのジャケット、いつどこで買ったんですか? 新品ですよね?」
無視された。必死ですがって、頼み込んでみると、ようやく頷いてくれた。先輩がしぶしぶ廊下の壁へもたれ、むすっとした表情で腕を組む。うーん、おかしい。私のことが好きだったら、ノリノリでポーズを取ってくれるはず。慰めてもくれないし。やっぱり、好かれてないんだろうなー。特に何も感じなくて、ほっとした。心置きなく、カメラを構えて撮る。
「いいですね、その表情! 先輩、疲れて鬱陶しそうな表情が出来なくなってきたんでしょ!? 物悲しそうな表情が最高~、フゥ!」
「同じポーズの写真ばっか撮って、虚しくならないのか?」
「なりませんよ!! 疲れて口角が下がってきた表情やまばたきする瞬間、よりいっそう眉間のシワが深くなった瞬間を収めるのが私の仕事なんです」
「違う。時間だ、行くぞ」
「うわあああんっ、ジャケット撮り忘れた!」
「はあ!? 今まで何を撮ってたんだ?」
「先輩の顔です」
何のためらいもなく、顔だけ重点的に撮っていた自分が憎い……!! 震えながら廊下を歩いていると、気の毒そうな表情で提案してくれた。
「夜、一緒に飯でも食いに行くか? 個室の店があるから、そこで撮ればいい」
「いいんですか!? ありがとうございます!!」
「……で、どうだった? 女殺しと会ったんだろ? 昨日」
「うーん、微妙でした。顔が良いから耐えられたものの、良くなかったら速攻帰ってます。向こうが誘ってきたのに、あれは無いでしょ!」
「意外だ。女慣れしてそうなのに」
「あー、自尊心とケチの塊が服を着て喋ってるような感じです。モテるからでしょうね。不遜な態度でした」
「不遜ね」
口の端を持ち上げて笑った。今日も安定のかっこよさ。眺めているだけで心の傷が癒される。通りすがりにチラチラ見てくる人がいても気にせず、尻尾を揺らして歩いていた。
「今日から俺と一緒に帰って、朝、出勤しよう。家の前まで送る」
「はいっ!? そ、そこまでしなくても……」
「絶対また同じことが起きるぞ。最悪の気分をもう味わいたくない」
「最悪の気分って。ごめんなさい、心配かけてしまって」
「大丈夫。明日から俺が家まで送れば済む話だ」
「えー、大変でしょ?」
冗談だと思っていた。でも、私が軽く笑い飛ばして背中を叩いても、真面目な表情を崩さない。本気なんだ。
「先輩の負担になっちゃうから、甘えるつもりはないんですけど」
「俺の家とフィオナの家は近い。負担じゃ、」
「どこですか!? 住所教えてください!!」
「……さっき、髪の毛を引っ張られていたよな? 大丈夫か?」
「もーっ、曖昧な微笑みで誤魔かそうとしないでくださいよ!」
「違う、本当に心配なんだ。これ、結び直した方がいいんじゃないか?」
先輩が私の髪に触れる。おおぅっ、ひ、酷いのかも! 気がついてなかったけど、私って今、髪の毛がボサボサなんじゃ……。速やかに近くのトイレへ入ろうとしたら、肩を掴んで止められた。
「待て、トイレは危険だ。女が潜んでいるかもしれない」
「女子トイレですから……。男がいたら大問題です」
「ブラシ持っているか?」
「持っていますよ?」
「出してくれ、俺が整える」
「よろしくお願いします!!」
「速いな……。思ったより元気でほっとした」
状況をぜんぜん理解出来ていないけど、腹の底から大きな声が出た。返事するのと同時に折りたたみブラシを出せば、先輩が呆れた表情になる。
「髪の毛を梳かしてくれるんですか!?」
「ああ。後ろ向け、後ろ」
「でも、かっ、顔が見えなくなっちゃう……!!」
「そりゃあな。いつか後頭部に目が生えるといいな」
「怖い!」
「いいから後ろ向けって、早く」
先輩が笑いながら、私の体をくるんと回す。見えなくなっちゃった、顔が。美しく整った顔立ちを見るために出勤してるのに。先輩の手がゆっくりと優しく、髪ゴムを引き抜いた。おおっ、美容師さんみたいな手つき。丁寧だ。ブラシを頭皮に当てて、梳かしてゆく。絡まった部分があれば、髪の根元を押さえ、何度も優しく梳かしてくれた。
「い、痛くない! 天才ですか? 気配りの塊」
「大げさ。まあ、でも、役に立って良かった。昔の俺に言いたいぜ。姉貴の世話をした経験が生かされるって」
「お気の毒に! あ、もう大丈夫ですよ。自分で結べますから」
「……知ってるか? 姉貴のデート前、俺がヘアセットしていたんだ。練習させられた」
「わあ」
「練習の成果を試す時だ。じっとしてろ」
「はい! いくら払えばいいですか!?」
「金を取ろうと思ってやってるわけじゃねぇよ。いいから動くな」
「この素晴らしい体験にお金を払いたいっ……!!」
無言で手を動かしていた。ど、どういう髪型にされるんだろう、私。エキセントリックな髪型にするお茶目さはないはずだから、心配いらないよね? ちょっと不安になってきた。私の不安をよそに、先輩が真剣な様子で髪をいじっている。
「よし、出来た。あとはここにリボンをつけたら完璧だな……」
「リボン!? 動くし、可愛い髪型にしなくても」
「じっとしてろ。楽しくなってきたんだ」
「は、はい。というかもう、遅刻確定ですよね……?」
「フィオナと俺ぐらいだぞ、毎日遅刻しないのは」
「そういえば、ステラちゃんに会わない日があります!」
「部長は堂々と酒を飲み、部下は遅刻とカードゲームをする。これが魔術犯罪防止課だ」
「えぇ~……」
仕方ないか、元犯罪者の集まりだもんね。私は違うけど。先輩がポケットからリボンを出して、魔術をかけた。ほんのり冷たい風が首筋を撫でる。あー、思い出しちゃった。悩むだけ時間の無駄なんだけど。アーノルド様も人柄が魔力に現われてるわけじゃない、判断材料の一つにすべきじゃないって言ってたんだから、もう忘れたいなぁ。先輩と付き合うわけじゃないし、考えるだけ時間の無駄だよね。
「それなりに上手くいったぞ」
「ちょ、鏡! 鏡があるところへっ」
「落ち着け。ロッカールームにも鏡があるだろ?」
「はい……。心配性ですね」
「今日、囲まれていたのはどこのどいつだ? 頼むから、もう少し警戒してくれ」
「はぁーい」
気になって頭を触ってみる。ぼこぼこしていた。首の裏が涼しいから、えーっと、おろさずに後ろでまとめた感じ? 先輩が私の手を掴み、止める。
「崩れるぞ、すぐに」
「嫌だ!! 触らないようにします……」
「それと、今日、魔術手帳忘れたのか?」
「いえ、忘れていませんが。持って来てますよ、ちゃんと。ほら」
「マナーモードを解除しておいた方がいい」
「……もしかして、私に何かメッセージを!? 今すぐ確認します!」
「しなくていいから。戻せ、行くぞ」
「あ~、残念!」
あとで確認しよう。先輩と一旦別れ、ロッカールームの前に立つ。開けようと思ったら、突然、ドアが開いてステラちゃんが出てきた。私を見て驚いたあと、にっこり笑う。
「おはよう、フィオナちゃん!」
「おはよ~、ステラちゃん。今日も可愛いね! 中から美人が突然出てきてびっくりしちゃった、へへへっ」
「デート相手よりも褒めてくれるのウケる。ありがと~」
「デート!? 幼馴染の彼は!?」
「あれ? 今日、いつもと髪型違うね。暑くなってきたから?」
「あっ、えっと、変な髪型にされちゃってるかも……」
「どういう意味? 自分でやったわけじゃないの?」
「まずは確認させてー、ごめんっ!」
急いでロッカールームへ入り、洗面台の鏡で確認する。分かんない! 前しか見えない。だめだ、せめて横を向かないと。横を向いたら、綺麗な編みこみが見えた。意外とクオリティー高いな……!! どうなってるんだろう、これ。サイドに編みこみを作って、後ろでまとめてある? 必死で体の向きを変えていたら、ステラちゃんが後ろに回って見てくれた。
「可愛い! 大丈夫だよ~、完璧」
「あ、ありがとう……。ほっとした」
「で? 誰にして貰ったの? 教えて」
「先輩に。学生の頃、お姉さんのヘアセットをしてたんだって」
「へぇ~……。ヒューの家に泊まったんだ?」
「ちっ、違う違う違う!! 違うからね!? 髪型が崩れちゃってさ。女子トイレで直そうと思ったんだけど、女子が潜んでいるかもしれないから……!!」
「どういう意味?」
アーノルド様ファンに囲まれたことを伏せつつ、最初から説明した。すぐに納得して、猫が獲物を狙っているような笑みを浮かべる。あ~、先輩、ごめんなさい。必死で朝から、可愛くて凝った髪型にしたんだって言えば良かったかも。
「へえぇ、あのヒューがねえ。フィオナちゃんのために? わざわざ髪を梳かして、編みこんで、リボンバレッタまでつけたの?」
「えっ? バレッタ?」
「うん、リボンバレッタ。銀色の」
「よく見てなかった……。ひょっとして私へのプレゼントなのかな!?」
気が付かなかった。もう一度確認してみると、銀色の細長いリボンが揺れていた。可愛い! リボンだけど、大人っぽい。
「回りくどくて、鬱陶しいプレゼント……」
「目が死んでるよ、ステラちゃん!! てっきり、お菓子についていたリボンかと」
「持ち歩いてたわけ? あいつ。気色悪い」
「魔術を使ってたから、多分、リボンをバレッタにしたのかな……? 聞いてみよう、あとで。そうだ!」
「まだ何かあるの?」
思い出した、魔術手帳を確認しなきゃ。トートバッグから出して開き、ステラちゃんと一緒に覗き込む。着信が四件、メッセージが六件。慌ててページをめくり、確認してみると、先輩にしては珍しく筆跡が乱れていた。
“おはよう、フィオナ。今、どこにいる? アーノルドの信者どもがたむろっているんだ。迎えに行くから、どこにいるのか教えてくれ”
“写真が出回っているみたいだ。殺気立ってる”
“もし、絡まれていたら電話してくれ。隠すなよ。約束覚えているよな?”
“センターに入らない方がいい。近くで待機してくれたら迎えに行く”
“センターの中か? 正面玄関で待ってる”
“今から部署へ探しに行く。ついでにトイレも見回るから、俺がいなくても正面玄関で待機。すぐに戻る”
ステラちゃんが爆笑し始めた。うわあぁお、恥ずかしい~……!! 読むのがつらい。どれも大したことないメッセージで、心配されてるだけなのに。魔術手帳を閉じて、乱暴にバッグの中へ放り込む。ふと、目にした鏡に映る自分の顔が赤い。それを見て、さらに赤くなった。
「うわあぁーっ!! めちゃくちゃ心配されてた、申し訳ないっ!」
「フィオナちゃんの騎士気取りで面白いな~。良かったねえ、フィオナちゃん。大事にされてて」
「恥ずかしいから、もう、言わないで……。お願い」
「分かった、分かった。ごめんね?」
ステラちゃんがすごくいい笑顔を浮かべる。どうしよう、これから仕事なのに。一体、どんな顔をして会えばいいの……。
「たむろしてるって書いてあったけど。大丈夫だった?」
「あっ、うん。大丈夫だったよ。私、どんな顔して会えばいいのかな!?」
「照れるようなメッセージじゃないでしょ? 好きになってきた?」
「違うけどおおぉ!! うおぉんっ!」
「まあまあ、落ち着いて。気持ちは分かるけどね~。気になってるイケメンにここまで心配されたら、」
「言わないでーっ! き、気になってるわけじゃないから……!!」
「足掻くねえ、フィオナちゃん。また今度話聞かせて! じゃあね」
ウインクして立ち去った。照れるようなメッセージじゃないって言うけどさ、気のせいかな? 甘く感じる。雰囲気がとにかく甘い。でも、読み直したら、ただ心配しているように見えた。珍しく、焦って書き殴ったような文字を指でなぞる。胸の奥が締め付けられた。これ以上、心配かけたくないなぁ……。




