13.火炎の悪魔とトラ男の昼食
一度見たら、忘れられないような男だった。女殺しと呼ばれる理由が分かる。同じ銀髪なのに、まるで違う。銀を溶かして紡いだような銀髪、陶器製と言われたら納得してしまうほど、なめらかで美しい褐色の肌。
形が整った銀灰色の瞳は猛禽類を連想させ、よく見てみると、複雑な色を孕んでいた。角度によっては青が散りばめられ、白銀に変わる。一筋の月光が青みを帯びているように見えるのと一緒だ。銀色だが、様々な色を有している。
相手は凝視されることに慣れきった様子で佇み、静かに見つめ返してきた。間近で見ると半端じゃない。本当に人間なのか? 人外者だろう。とてつもない美貌に圧倒された。呆然としていたら、フィオナが焦り、俺の腕を引っ張ってくる。
「先輩、大丈夫ですよね!? 惚れちゃってませんよね!?」
「……ああ、大丈夫だ。間近で見たのは初めてだったから、少し驚いただけだ」
人間離れしている。釘を刺してやろうと思っていたが、一瞬でその気が失せた。────悔しい、何が何でも追い払ってやりたい。怒りと嫉妬で目が眩みそうだ。ガキじゃあるまいし……。いつぶりだ? こんな気持ちになったのは。自分が無力な存在に見える。しかし、フィオナは他部署の部長である女殺しを前にして、明るく笑いながら、平然とこきおろした。
「ねっ、先輩かっこいいでしょう!? 自意識過剰なんですよ、アーノルド様は! ここに至宝とも言える超絶イケメンがいるから、私は大丈夫です。絶対好きになったりしませんから!」
「フィオナ!? おい、やめろって! 失礼だから。自覚してないだろ」
「へっ? 自覚?」
何も分かってなかった。すぐキレそうな見た目をしているくせに、女殺しことアーノルドは苦笑して終わらせ、なれなれしくフィオナに話しかけていた。激しい焦燥感に襲われる。もしも、フィオナがこいつのことを好きになったら?
終わりだ、勝てる気がしない。喧嘩を売られたわけじゃないし、フィオナが嬉しそうに話しかけているわけじゃない。それなのに、敗北感が拭えない。もう負けだって、頭の中の自分が鬱陶しく嘆いている。冷や汗が止まらない。
(何もかも全部、あいつのせいだ……。おかしいだろ、見ただけでこれか)
人間離れした美貌が目に焼きついている。おまけに一等級国家魔術師だ、金を持ってる。フィオナは物欲にまみれているからな……。金に目が眩んでもおかしくない。ようやくアンドリューを追い払えたのに、次はこれか。
でも、目障りなのがもう一人いる。分かりやすく俺に敵意を向けてきた、フィオナの男友達。次から次へと現われて鬱陶しい! 激情を抑え、ソファー席に腰かける。メニュー表を見ていたら、おそるおそる、向かいの席に座ったエディが話しかけてきた。
「なあ、良かったの? マジで。俺ならレイラちゃんが他の男と飯食いに行く、なーんて言ったら、全力で止めるけどなぁ」
「行ってるだろうが」
「一応ね! アーノルドは俺の義兄さんだから。男にカウントしてない。フィオナさんいるし、別にいいかなって」
「俺も同じ気持ちだ」
「え~、でもさ、俺はさ、レイラちゃんと両想いなんだよね! だから余裕があるけど、そっちはないだろ?」
彼氏でもないのに、他の男と飯食いに行くなって言えねーよ。倍になって返ってきそうだから、無視しておく。無視しておいた方が静かになりそうだ。昼時の店内は混雑しており、そのせいで色んな音が耳に入ってきて落ち着かない。頭上のトラ耳が勝手に動き出した。エディが物珍しそうな表情で動く耳を眺めながら、冷たい水を飲む。
「告白した方がいいって、さっさと。見かけによらず、慎重派だなぁ」
「……女殺しを焚きつけたのはお前だろ?」
「うわっ、めちゃくちゃ怖い!! もしかして怒ってる?」
「おい。喜んでるように見えるか? お前のせいで今、こうなっているんだろうが!!」
「悪かった、ごめんごめん! 目がトラになっちゃってるから戻して落ち着けよ、なっ、なっ?」
人の神経を逆撫でしてくる。大体、エディが女殺しとフィオナに連絡先交換を勧めていなかったら、こうなってはいない。久しぶりに頭から湯気が出そうだ。落ち着け。恋愛になると、猛獣系の獣人はあっという間に冷静さを欠く。
落ち着け、大丈夫だ。俺は他のやつらとは違う、コントロールできる。しばらくの間、目を閉じて深呼吸を繰り返す。よし、これで人の目に戻っただろう。目を開けたら、エディがほっとした表情を浮かべる。戻ったらしい。
「あー、めっちゃ怖かった。俺、猛獣系の獣人と友達になったことがないんだよね」
「怖い? 戦争の英雄が何を言ってるんだか」
「戦場離れてかなり経つし……。野営地でもうぐっすり眠れないよ。テントでなら爆睡できそうだけど」
「似たようなもんだろ。エディならどこへ行っても爆睡できそうだけどな」
「はは、よく言われる~。なあなあ、決まった? 決まってないのなら、俺にもメニューちょうだい! 見せて」
「ん」
「ありがと!」
メニュー表を差し出したら、笑顔で受け取って眺めた。エディとフィオナの姿が重なる。どうしてだろうな、顔立ちは似てないのに。雰囲気と仕草が似ているからか。こいつに対するイライラが持続しないのは、フィオナとよく似ているからだろう。フィオナが聞いたら怒りそうだ。
笑いながら、窓の景色を眺める。今日もよく晴れていた。熱気が立ち昇っているビジネス街は人で賑わっていて、時折、誰かと目が合いそうになる。さっさと肉を食って出るか。フィオナを早く迎えに行きたい。
「よし、決まった! 先輩は何にする?」
「……お前は俺の後輩じゃないだろ?」
「いや、だって、フィオナさんが惚気みたいな話を延々とするから、移っちゃうんだよね。どうしても」
「ハートリーさんと呼べ」
「あ、もしかして気になってた!?」
エディが閉じたメニュー表を開き、何を注文するか決める。しつこく話しかけてきたが、無視していると、ようやく溜め息を吐いて諦めた。
「俺さぁ、我慢強い性格じゃないんだよね」
「知ってる。だろうな」
「分かんなくて、全然。諦めきれる? このままじゃ絶対、フィオ、ハートリーさん、他の男と付き合っちゃうだろ」
「……元はと言えば、」
「ごめんって! 待って、違うから!! 俺が言いたいのはそうじゃなくて、大体、俺が紹介しなくてもすぐ他の男が寄ってくるだろ!?」
言っていることが合っていて腹立つ。確かにそうだ。エディがアーノルドを紹介しなくても、すぐ他の男と連絡先交換する。寄ってくるんだ、無限に。仕事中も粉をかけてくる男がいるし、俺が知らないだけでかなり言い寄られているかもしれない。
部署内でも、フィオナにちょっかいをかけるやつが複数いる。全員釘を刺してはいるものの……。エディが安心しきった様子で頬杖を突いて、えらそうに語り出した。
「なっ? だから、早く告白した方がいいって! ハートリーさんはモテるし、後悔しないためにも、とりあえず告白した方がいいと思う。恋愛は早いもの勝ちだぞ」
「どうして、女殺しとの連絡先交換を勧めたんだ?」
「えーっ、こだわるなぁ! 確か、うーん、ごめん、レイラちゃんのことになると格段に記憶力がアップするんだけど、他の人については記憶が曖昧で……」
「きっちり覚えているよりマシだ」
「分かる~!! 俺もそう」
フィオナの言葉をよく覚えていたら腹が立つ。エディが必死で思い出そうとしている最中、何を頼むか聞き出して注文しておく。ステーキ大盛りって大丈夫か? 時間内に食べきる自信があるのか、何も考えていないのかのどっちかだな。
「ええっと、寂しい、だっけ? なんか色々あって、先輩と距離ができちゃってどうしよう~って言ってたから、連絡先交換を勧めて」
「なんで勧めたんだよ!?」
「ごめん、待って! 違う、本当に違うから……!! ああ、俺、先輩を嫉妬させようと思ってさ。焦るだろ? ハートリーさんとアーノルドが連絡先交換したら」
「そうか、なるほど」
「人生で一番怖いなるほどだ。怖い単語じゃないのに、震えるほど怖いね!」
怖いと言ってるくせに、笑いながら水をあおった。腹が立ったから、飲んでる水を凍らせてやった。舌先まで凍りつき、エディが口を開けたまま、慌ててコップを両手で持つ。
「ふぁんらほれ!? やめへくれよー!」
「魔術師だろ、自分でどうにかしろ」
「あっ、ほぉれ、ふらさへられる! みへみへ、ほらっ」
「遊ぶなよ……」
舌先とコップの中にある水が凍りついているせいで、コップから手を離しても落ちない。舌と氷が繫がってる。エディが口を開けたまま、舌先にぶら下がったコップを揺らして遊び出した。黙って見守っていたら、おもむろにコップが外れて落ちる。まあ、そうなるだろうと思ってた。痛かったようで、口元を押さえ、悶絶している。
「い、今、絶対、舌の皮膚が持っていかれた……。削れた!」
「舌の皮膚ってなんだよ」
「うわ~、ひんやりしてて痛い。俺に一体何の恨みが!?」
「……」
「俺が悪かったからやめて? ちぇっ、他の人なら反応してくれるのにな~。笑ってくれるのになぁ」
こいつ……。母親の生まれ故郷を焼き払い、裏切り者と呼ばれ、元国王夫妻である叔父と叔母を処刑した“火炎の悪魔”には到底見えやしない。でも、舌先を出して、焦った表情を浮かべているエディは、新聞の一面を飾っていた男とそっくりだ。瓜二つの偽物だと言われたら信じる。
(どうして、フィオナは気にならないんだろうな)
アンドリューの過去を知っても動じなかった。心が広すぎるだろ。いっそのこと……。エディがいきなり指先から炎を噴射させ、器用にコップの中にある氷だけ溶かした。渋い表情で水を飲み干し、口元を拭う。
「で? 今日、俺を誘った理由は何なんだ? 俺と楽しく喋りたいから、呼んだわけじゃなさそうだし」
「当然だ」
「えーっ!? 俺と喋りたいわけじゃなかったのか……」
「……」
「何だよ~、愛想が良くて優しいのはハートリーさんの前だけかぁ」
そりゃそうだろ。俺を見ていれば、喋るのが好きじゃないって分かるだろうに。黙って水を飲んでいたら、不貞腐れ、くちびるを尖らせた。おそらく、大抵の人間は諦めてこいつの軽口に付き合ってる。
「お前だってそうだろ? 今日呼び出した理由は、」
「んんん、まあ、そうだけど! つまんねぇなぁ。最近、人から冷たくされることがないから、ダメージ食らった」
「冷たくしてるわけじゃない。ただ、フィオナと喋るのが楽しいだけだ」
「さりげなく、俺と話してて楽しくないって言った!!」
「……もういいか? 本題に入りたい」
「えー、俺、全然喋れてないんだけど」
「これでか?」
嘘だろ。こいつ、自由すぎやしないか? まあ、フィオナだと思えば、ぎりぎり許せるか……。本題に入ろうとしたものの、食事が運ばれてきた。仕切り直した方がいいな。ジュージューと、鉄板の上にある肉が音を立てているのを見て、エディが分かりやすく目を輝かせた。カトラリー入れを差し出したら、大人しく受け取って食べ始めた。
「大盛りにして良かった!! あちぢっ!?」
「おい、ゆっくり食え。出てきたばかりなんだから……」
「でさー、本題って何? 聞かせて」
「このタイミングで聞くのか」
「昼休憩終わっちゃうし。あつっ」
分厚いステーキを三枚重ね、豪快に切り分けて口へ運ぶ。思いのほか熱かったらしく、水をがぶ飲みしながら食べ、今度は真剣な顔でステーキに息を吹きかけていた。しかし、ろくに噛まないで飲み込む。
喉詰まらせるだろうな、絶対。水を足しておいてやるか。目の前に置いてあるハンバーグを魔術で冷ましながら、ピッチャーを傾け、エディのコップに水を注いでおく。まだ喉に詰まらせてはいないが、舌を火傷していた。
「あっちち! ごめん、ありがとう……。お世話してくれるんだね、冷たいのに」
「冷たくしてない。アーノルド、なんて言っていた?」
「呼び捨て? まあ、気持ちは分かるけど」
「フィオナについて、なんて言っていた?」
「ああ、うん。ええっと、お前そっくりのデリカシーがない美人だなって言ってた」
「ふーん。なら、大丈夫か。エディの方がデリカシーないだろ」
「えっ、俺!? 急に攻撃された……」
分かってないな。フィオナは優しいから、相手を安心させるために否定したんだ。エディとは違う。程よく冷めたハンバーグを切り分けていると、エディがぶつくさ文句を言いつつ、ステーキを口へ放り込んだ。不満そうな表情でよく噛み締めている。
「それを聞くために、昼飯一緒に食おうって誘ったんだ?」
「ああ。他に何がある?」
「酷いな~。俺と二人きりで喋りたいのかと思ってた」
「……ポジティブ思考だな。嬉しいか? 俺がお前と二人で喋りたくて誘ったら」
「うん、嬉しい! よく人に好かれるからさ、みんなそうだと思ってたんだけど」
「大した自信だ。真似できそうにない」
「先輩って意外と気弱? だから告白しないのか」
こいつ……。誘ったのは間違いだった。今のでよく分かった。俺が気弱だって? 違う、告白しないのは、フィオナが誰とも付き合わないと宣言しているからだ。脈がない。あの日、俺が親戚の女性と並んでいるのを見て、まったく嫉妬していなかった。
それどころか、目を輝かせていた。詮索好きのおばさんと似た顔をしやがって! 思い出したら腹が立ってきた。誤解を解くために話しかけたら、目障りなハエの匂いがした。あれは密着しないと漂わない、濃厚な匂いだった。パンを半分に切り裂けば、エディが怯える。
「ご、ごめんって……。フィオ、ハートリーさん、怖くないのかなぁ」
「あ? フィオナに苛立ちをぶつけたりしねぇよ。大体、何も言ってないだろうが。勝手に怖がるな」
「えー? 無茶だろ、それは。ごめんごめん! 気弱って言っちゃって」
「告白しないのは脈がないからだ。驚きだろ? フィオナ、あいつ、女殺しの前で俺が史上最高のイケメンだとか何とか言うくせに、付き合うつもりがないんだぞ……!!」
「わーお、可哀相。もてあそばれちゃってるんだね。ついでに言うと、パンも可哀相だから食べてあげて」
「……引き裂いたあと、放置するつもりはない」
さっさと食ってフィオナに会いに行く。女殺しが余計なことをしてなきゃいいが。ハンバーグを食べ終えたら、エディが焦って「もうそんなに食ったの!? いつの間に!」と言う。腹が減った、物足りない。晩飯で補うしかない。ゆっくり水を飲んでいれば、案の定、エディが喉に詰まらせた。必死の形相でどんどん、胸元を叩いている。
「ほら、水! 考えて食えよ……。ガキか」
「ありがとう、助かった。俺、片想い期間が長かったから分かるんだ」
「急にどうした?」
「応援するから! 見かけほど悪い人じゃないみたいだし、先輩」
「しなくていい。そんなことよりも、女殺しを何とかしてくれ。目障りだ」
「えっ? あれはほら、先輩を焦らせるために投入したからさ……。なっ?」
「は?」
昼飯に誘ったのが間違いだった。釘を刺そうと思ったのに上手くいかないし、ストレスが溜まる一方だ。レイラ嬢はこいつのどこがよくて結婚したんだ? 顔か? それとも金か。口止め料として奢り、店を出る。フィオナに電話をかけて合流したら、アーノルドとがっちり手を繋いでいた。思考がフリーズした。どうして、こいつと手を繋いで歩いてるんだ?
「先輩、ここですよー! どうしたんですか? 心配性ですね」
「……そいつと手を繋いで、歩いてる理由は?」
「理由? ああ、試しに手を繋いでみたいって言われたんですよ。ごくまれに一目惚れしない女性はいるけど、容姿を貶されたのは初めてみたいで……あっ、貶してはいないんですよ!? でも、アーノルド様が意外と繊細で気にしちゃってて」
「繊細じゃない!」
「へへっ、すみません。……先輩? どうかしました?」
口車に乗せられていることに気付いてないのか。不愉快だ。今日、これからずっと、他の男の匂いをぷんぷん漂わせたフィオナと仕事しなくちゃいけないのか。アーノルドを睨めば、さすがにたじろいだ。
一言でも発したら、自分の中で何かが切れそうだ。分かっているのにやめられない、コントロールが効かない。黙ってフィオナの手を奪い取り、早足で歩く。エディが俺の代わりに、あれこれ弁解している声が聞こえてきた。
「先輩、ちょっ、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
頭に血が上っておさまらない。強烈な独占欲に翻弄される。心臓が速く脈打っているのが分かった。フィオナが怖がる。同じことの繰り返しだ。俺は、過去の経験から何も学んでいないのか。急に以前、怖がっていたフィオナの顔を思い出す。震えていた、俺のせいだ。手を放さなくては、立ち止まらないと。
「……ごめん、悪かった」
またやってしまった。三人に挨拶もせず、強引にフィオナを連れ出した。動悸が止まらない。くそ! こういう時、人間なら冷静さを欠かずにいられる。恨んだってしょうがない。根気よく向き合い続けて、自分の激情をコントロールしていくしかない。体が呼吸の仕方を忘れていた。歩きながら、深く息を吸って、吐いてと繰り返す。
「いや、私は大丈夫なんですけど……。すごい汗。回収してもいいですか!?」
「回収?」
「はい! 私のハンカチに先輩の汗を吸わせて嗅ぎたいんですよ、公園あるから寄りましょう!」
「おい、フィオナ? 待てって、一旦放せ!」
ようやく落ち着いてきたっていうのに。俺の気も知らないで、フィオナが手を引っ張って歩き、全力で笑いかけてくる。綺麗だった。公園の前に植えられた街路樹の枝葉が、フィオナの頭に影を作っている。風の匂いがやっと分かった。嬉しそうに細められたグリーンの瞳は輝いていて、何よりも綺麗に見えた。いっそ、玉砕覚悟で告白してみるか?
「へっへっへ~、先輩の汗! 先輩のあーせっ! えへっ、えへへへ」
「……お前のこと、残念な美人だって言っていたみたいだぞ。女殺しが」
「あははっ、それ、言われました! 直接。いいんです、私はこうして先輩の汗が拭けたら幸せなんです。もうちょっと屈んでくださいよ」
公園の木の下で、フィオナが嬉しそうにハンカチで俺の汗を拭っていた。可愛いのに、変態的な笑顔ですべて台無しだ。告白するのはやめておいた方がいいか。笑いつつ屈めば、首の後ろを丹念に拭き始める。
「ハンカチ、五枚ぐらい持ち歩かなきゃだめですよね……!!」
「前に渡したハンカチは? 使ってないのか」
「額縁に入れて飾ってあります!」
「おい、使えよ」
「無理です。コレクションなので……」
空を飛んでくれと言われたような表情で、首を横に振った。まあ、今は別にこれでいいか。気弱になっているわけじゃない、タイミングを窺っているだけだ。今はまだこれでいいと思う。礼にと言って、フィオナの汗を拭くそぶりを見せたら、照れて、後ろへジャンプしていた。可愛い。
(……もしも付き合えたら、たっぷり可愛がってやる。今までの恨みをこめて)




