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魔術犯罪防止課のトラ男と面食い後輩ちゃんの推しごと  作者: 桐城シロウ
二章 先輩と距離を縮めたくないのに、どうしたって縮まっていくんですけど!
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28.すっかり忘れちゃってたけど、美術館デートの日

 





 すっかり忘れてたけど、今日は先輩と美術館に行く日! 昨日、「俺との約束忘れてないよな?」って言われて動揺しちゃった。とっさにごまかしたけど、あれ、絶対にばれてる。今朝も忘れかけて、「さ~、どこに出かけようかな」って言っちゃったのは内緒。


 私、楽しみにしてないのかな……。それか、先輩の顔が見飽きてきたとか? ありうる。美人は見続けると飽きるって話だし、そろそろ耐性がついてきたのかなぁ。だとしたら嬉しい。思う存分、ゆっくり顔を眺められるから。


(あれ~? 時間、勘違いしてた? 遅れると思ってたのに、けっこう時間余ってる)


 先輩に貰った腕時計を眺めてから、美術館を見上げる。地面にはキャラメル色と白いタイルが敷き詰められていた。半月状になっていて、不思議な模様を描いてる。パイ生地みたい。白とキャラメル色のミルフィーユタイルって感じ。人はまばらで、空いてそうだった。


 人気がある王侯貴族の絵が展示されてるんだけどな~、今。午前中だからかも、空いてるのは。陽の光を浴びて、銀色に輝いている石の大階段を上がって、重たい扉を押し開く。じ、自動ドアにしたらいいのに……。


(わっ、空気が変わった。ひんやりしてて心地良い)


 外は曇り空なのに、館内は明るかった。氷のつららのような巨大シャンデリアと、天井付近に浮かんでる帆船。もくもくと雲のような波が浮かんでいた。赤とグレーのマーブル模様が描かれた絨毯に、大理石で出来た受付カウンター、天井付近まである窓ガラスと流れ落ちてる水。


 あれって噴水? 石壁から、急に水が出ているようにしか見えないんだけど……。壁に欠陥があるみたい。ふかふかの絨毯が、パンプスを履いた足に優しくて気分が上がった。チケットはもう買ってあるって言ってたから、あとは先輩を待つだけだな……。トイレ確認しておこうっと。あ、すぐ見つかった。トイレマークが金色でおしゃれ。


(じゃあ、どうしようかな? 先にお土産売り場でも覗く? カフェがあるからそこで待ってても)


 奥にあるカフェとお土産売り場っぽいコーナーへ行こうとしたら、ふいにイケメンが現われた。先輩だった。つやっとした黒いズボンに、きっちり肘までたくしあげられた、グレーチェック柄ジャケットと真っ白なTシャツ。細い金のネックレスをしてた。二つ重なってるやつ。おしゃ、おしゃ、おしゃれ~!! 


 遠目からだからあんまり分かんないけど、髪もいつもと違うような!? うわっ、かっこいい~! 芸術的な美しさ。もう美術品と混じって立っていたら、観光客が「あれ? こっちも展示品かな」って勘違いするレベルでかっこいい。いつもとは違う、アートっぽい感じで好き! 全力でぶんぶん手を振りつつ、駆け寄ったら苦笑した。うわ、好き、かっこいい……!!


「おーいっ、先輩! 早いですね!? 着くの!」

「ここ、美術館だから静かにな……。フィオナ、おはよう」

「あっ、はい! おはようございます! きょっ、今日もかっこいいですね。こう、アートを意識した格好なんですかね!?」

「その言い方、アホっぽいからやめてくれ」

「はい……。って、先輩? 三十分も早く着いてたんですね。ひょっとして先輩も時間を勘違いしちゃってたとか?」

「まぁな。ほい、チケット」

「ありがとうございます。お代は……」


 スルーされた。ですよね!! いつも後輩だからって色々して貰って申し訳ないけど、でも、私、先輩のヒヨコちゃんだしなぁ。甘えてもいいって分かってるんだけど、落ち着かない。あとでお揃いのコップでも買って、プレゼントしようかな~。私が欲しいものあげても意味ないか、うん。あとで聞こうっと。無い。欲しいものがあれば自分で買うって言われそうだけど。


「フィオナ? 大丈夫か? またぼーっとして」

「は、はい。大丈夫です。申し訳ないなぁと思いまして」

「気にするな。そんなことよりも、いつもと違う雰囲気の服で……よく似合ってる」

「えっ? そうですか? へっへー、美術館だから、きちんと感を意識した格好にしました! 似合ってますかね? 普段、暗めな色の服着ないんですけど」


 黒髪はきちんと感がある、ほんのりゆるふわなシニヨンにした。グレーのフリルニットに、線画調の花柄が浮かぶ、グレイッシュピンクのスカート。ニットだけどノースリーブだし、暗めの色だけど、スカートにはチュールが重ねてあるし、今の季節でもおかしくはないと思ってたんだけど、冬向けの格好かなぁと思ってたから、褒めて貰えて嬉しい。くるんと一回転して、スカートのチュールを見せつける。


「ほらっ、これ、見てください! ふわんとなってて可愛いでしょ? 一目惚れしたんです」

「可愛い、可愛い。よく似合ってる。黙っていたら知的な美人に見えるな」

「だ、黙ってたら……」


 喋るとアホっぽいってこと? び、美人って褒めて貰えたからいいけど。先輩、さらっと褒めすぎじゃない? よく注意して聞かないと、聞き逃してしまいそう。あれこれ考えちゃったけど、すぐに吹っ飛んだ。白い壁に、大きくて綺麗な絵が飾られている。貴族の男性(多分)が立っていて、隣の椅子に可愛い女の子が腰かけていた。


 ゆるやかに巻かれた金髪に、青い瞳。にっこりと微笑みかけられているような気がした。ベージュ色のフリルとタフタのドレスを着てる。可愛い~! 隣に立った男性は床まで届く、豪華な黒い毛皮のコートを羽織っていた。肩に黒い羽根と宝石がついててすごい。


「わ~、綺麗! こういうのを見てると美術館に来たなって思います。じゃ、行きましょうか!」

「うん、だな」


 先輩、いつもより口数が少ない。でも、すっごく嬉しそう。嬉しそうに微笑みかけられ、心臓がぎゅわってなった。待って、先輩! いつもよりかっこいいというか、ううん、先輩はいつでも死ぬほどかっこいいんだけど、今日は気だるさ? 気だるさかな! 


 大人の余裕と気だるさがあって、いつもより色気が放出されてるから心臓に悪い~……。さりげなく距離が近いし。私の腰に手を添えて、歩き出した。平静、平静。そう、私は先輩の顔を拝みに来たんじゃなくて、美術品を見に来たんだから。目は素直で、先輩の嬉しそうな微笑みに釘付けになる。またおかしい顔をしちゃってたみたいで、くすりと笑った。うぉっう、うぉううぉう!


「どうした? フィオナ」

「先輩、なんで今日、そんなにかっこいいんですか~……!! 業務妨害で美術館の人に通報されちゃいそう! もう先輩の顔しか見れない。他の人も先輩に釘付けですよ、ふふふふ」

「また訳が分からんことを言いやがって。なら」

「なら?」

「……美術館に誘わなきゃ良かったな。他の場所でも」

「大丈夫ですよ! 先輩の顔面に敵うものなんて無いので!」

「張り切って言うことか?」

「視力検査に行っても一緒です。先輩が隣に立っていたら、ずぅーっと先輩の顔面を見続けます!!」

「迷惑だからやめろ。何のための検査だ」


 にこにこ笑いながら先輩を見上げると、少しだけ照れ臭そうな顔になる。あ、照れるの珍しい。何だろう、いつもと違う場所で、いつもと違う服装の先輩を見ているから? 落ち着かなくて変な感じ。エオストール王室の絵が飾られてるからか、さすがにちょっとだけ展示室が混んでいた。見て回っている間中、ずっと尻尾が足に当たる。


 えーっと、これは、特に深い意味は無いんだよね……? 構ってって言われてるような気がするんだけど、気のせいかな。時々、尻尾がくるんと腰に巻きついてくる。お、落ち着かない! ゆっくり見れない。豪華なウェディングドレスの絵なのに。


 ちらちらとこっちを見てくる人がいるから、もしかしてイチャついてると思われてる? 本には、好きな人にする仕草だって書いてあったけど。絵の前から離れて、先輩の手首を掴む。室内では青灰色に見える美しい瞳が、ゆっくりと見開かれた。綺麗~、見惚れちゃう~……じゃなくて!


「あの、すみません」

「どうした? 腹でも痛いのか」

「違います! 尻尾、言おうかどうしようか迷ったんですけど、尻尾が時々、その、腰に巻きついてきて、落ち着かない気持ちになるのでやめて貰えませんか?」

「あー……」


 静かにうめいて、額を覆った。ああ、言わなきゃ良かったかな? でも、ウェディングドレスの絵、じっくり鑑賞したい。キラキラ輝いてて綺麗だった。それに、他のお客さんからじろじろ見られるし。先輩が顔から手を離して、ぴこぴこっと、銀色の毛に覆われたトラ耳を動かした。可愛い、動揺しちゃってる。


「悪いな、俺の尻尾が迷惑かけて。今後気を付ける」

「はい。どういう気持ちで巻きつけてきてるんですか? これ」

「指差すなよ……」

「あっ、すみません」


 一瞬、戸惑った。私、なんて言ったっけ? どういう気持ちで、なんて聞くんじゃなかった。深刻そうな顔をした先輩が口を開きかけた瞬間、思わず手で制する。先輩にとって、私は可愛いヒヨコちゃんの後輩であって、それ以上でもそれ以下でもない。この前みたいに、期待したくないな~!! 誓ったじゃん、私。もう期待しないでおこうって。


 大体、付き合ったって破局するのが目に見えてる……。先輩とはささいな価値観の違いで破局しちゃいそう。私はズボラだし、変態だし、ドン引きされて振られて、大泣きしておしまいだよね。今、夢だった魔術師の仕事に就けてるんだし、転職したくない。気まずい思いをしたくない。ステラちゃんあたりがかばってくれそうだけど、先輩とぎくしゃくしても。


「べっ、別行動しましょうよ! 先輩もゆっくり落ち着いて見たいですよね!?」

「じゃあ、さっき見ていたウェディングドレスの絵を見てから、おのおの好きなところ見て回るか」

「あっ、はい」


 あれ、すぐに離れたいと思ってたんだけどなぁ……。しぶしぶ、さっきの絵を見に戻る。小さめサイズの絵なんだけど、迫力があった。これは王太子様と他国のお姫様が結婚した時の絵で、ウェディングドレスを着たお姫様が一人だけ描かれていた。隣にはちゃんと、二人が並び立った絵が飾られている。


 お姫様が着ている白いウェディングドレスが、ライトの光を浴びて、なめらかな光沢を放っていた。妖精が作ってる超高級品の絵の具を使って、描かれたものらしく、お姫様の足元にある赤い絨毯も、立派なカーテンのタッセルも、やけにリアルで、布地が張り付けてあるみたい。肝心のドレスは露出が少なくて、折れそうなほど華奢な首や手を、繊細なレースで覆ってある。


 綺麗、美人。波打った黒髪の上には、青い宝石がはまったティアラが飾られてる。ふぅわ~。吸い込まれそうな青い瞳。まだ生きて、こっちをじーっと見つめてるみたい。凛としているんだけど、儚げにも見えるお姫様。


「あ~、綺麗! ねえ、美人だと思いませんか? 先輩」

「だな。そんなこと聞かれても困るが」

「えっ、どうして!? 今はもう死んじゃってるけど、美人見たらテンション上がりませんか!?」

「お前みたいに、美男美女を見るために来てるわけじゃない。絵を見に来てるんだ、俺は」

「ああ、そういう……? でも、テンション上がるでしょ!? 美人を見たら!」

「特には。面食いじゃねぇし、フィオナが見れたら満足」


 今、なんて? 幻聴? 聞き返す前に、平然とした表情で「じゃあ、俺はあっちの王冠を見てくるから」と言い残し、ゆうゆうと去っていった。えっ、ええええ……? 気のせいだったかも。私を見ていれば満足って、なんで? 


 絵を見たら、そこには美人のお姫様がたたずんでいた。さっきと変わらない、凛とした青い眼差しで見つめ返してくる。ふんわりと広がったシルエットのウェディングドレスを身に包んだお姫様は、思わず足を止めるほど綺麗で、美しくて────……。


(なのに、喜んでなかった。こんな綺麗なお姫様と私が)


 だめだ、混乱してきた。聞き間違いなんだろうけど、多分。でも、もしも本当に、先輩が本当にそう言ってたとしたら? 耳がじわーっと熱くなっていくような気がした。めちゃくちゃたまにだけど、先輩って甘いこと言う!! 


 全部、私の聞き間違いかもしれないけど。宝飾品のキラキラで熱を冷まそうと思って、ネックレスやレプリカのティアラ、ブローチとブレスレットをぐるぐる見て回ったけど、熱がぜんっぜん冷めない。先輩の、絵を見つめている時の横顔や、平然とした表情ばっかり、頭に浮かんでくる。


(うーっ、だめだ! 一緒に回ろう。先輩のかっこよさでかっこよさを上書きしよう。それに、聞き間違いかどうか、聞けるかもしれないし……)


 聞けるかなぁ。いぶかしげな表情で「俺、そんなこと言ってないけど? 頭大丈夫か?」って言われたら恥ずかしくて死ぬ。でもさ、べったり甘いセリフを吐いたあと、私に会ったら絶対動揺するよね!? 多少なりともほら、こう、動揺しちゃったり、目が泳いだり……。期待しつつ探したけど、いない。


 人が増えてきた。すみません、すみませんって、言って通るのもあれだし。でも、合流出来ないと困る! このあと、お昼ご飯一緒に食べる約束してるのになぁ。スーツや綺麗なワンピースを着た人達を掻き分けて、空いている場所へ行く。でっぷり肥えた王様の絵が飾ってあった。一息ついてから見回してみたけど、いない。見当たらない……。


(そうだ、先輩って耳が良いんだよね? 小声で呼びかけたら何とかなるかも)


 だめだったら、電話をかけてみよう。ここでお喋りするのは気が引けるし、最終手段で。すうと息を吸い込み、ちょっと大きめな声で「先輩~」って呼びかけてみる。恥ずかしいから、でっぷり肥えた王様の絵に向かって話しかけてみた。……来ないな~、小さすぎたかも。そうだ、ちゃんと言おう。


「もしもーし、先輩? はぐれちゃいました、迎えに来てください!」


 あっ、大きすぎたかも、声。慌てて見回してみたけど、誰も気付いてない。良かった。でも、この中に獣人の方がいたら恥ずかしい。ばっちり聞こえちゃってるよね……。


 何となくぼんやりと、絵を見て楽しそうに話し合う人々を眺めていたら、「すみません、通してください」って聞こえてきた。先輩だ! 本当に来た、すごい! わくわしくしながら待ってると、老夫婦の間からひょっこり、超絶イケメンが現われた。あー、かっこいい。普段よりもかっこよく見える。


 セットされた銀髪に焦った表情、揺れてきらめく金のチェーンネックレス。白いTシャツとグレーチェック柄のジャケット。私、今日の先輩の服装がめちゃくちゃ好きなんだ……!! 今気付いた。えっ、これは、あとで、あとで写真を撮りまくるしかないやつ! 感動しながら眺めていると、ほっとした表情で「フィオナ」って呼んでくれた。


「ここにいたのか。悪いな、はぐれていたことに気付けなくて」

「いえ、大丈夫です! 先輩、今日の服装めちゃくちゃかっこいいですね!!」

「さっきも聞いたぞ、それ。どうした?」

「ふふふふ、アートっぽい服装が好きなことに気が付きました。こう、銀髪が微妙にべちゃってしてるところもかっこいいです!」 

「褒めてるか? 褒められてる気がまったくしない」

「褒めてますよ!!」

「……髪はバーム使って整えてる。べちゃって言うな、べちゃって」

「あーっ、もしかしてさっきの小声だけで聞こえたんですか!? すごい!」

「少しは落ち着け。どうどう。思ったこと何でも口にするなよ」

「すみません……」


 ということはあれ? 普段、アホな変態話ばっかりしてるんだけど、聞こえてるってこと? 以前、集中しないと聞こえない的なこと言ってたけど、もしかして、私への気配りなんじゃ……? 嘘なんじゃ!? 青ざめた私を見て、先輩が呆れた表情を浮かべ、「せわしないやつだな」と呟く。


「安心しろ、聞こえてないから。ちょうど今、フィオナを探している最中だったんだ」

「先輩って、もしかしてエスパーなんですか!?」

「違う。フィオナが分かりやすいだけだ。考えてること、全部顔に出てるぞ。いつものことだけど」

「うー、よく言われます。じゃあ、はぐれないように一緒に見て回りましょうか! あ、あと、さっき、違った、本当に普段、聞こえてないんですよね……?」


 聞こえていたとしたら恥ずかしい。用心しなきゃ。だって、こんなに人がいる中でちょっと大きい声出したぐらいで、耳に届くって! 獣人の聴力すごい。気を付けないと。おそるおそる見上げれば、ふっと嬉しそうに笑った。優しく、ぽんと頭に手を置いてくる。


「大丈夫、大丈夫。匂いを辿って来たから」

「……えっ? 匂い」

「おう。最初、フィオナの声が聞こえたんだ。何を話してるかまでは分からなかった。そこから匂いを辿って来たから。フィオナ? どうした?」

「な、夏場は私に近寄らないでください……!! 汗、けっこう掻く方なのに!」

「そこか。そこが気になるのか? 大丈夫だって、男の方が匂い強烈なんだから」

「ふっ、普段はどうですか!? まだ汗対策してないんですけど! 私って普段どんな匂いしますか!?」


 明日から制汗剤買ってきて使う! 絶対に使う!! もう消臭スプレーを全身に吹きかけてから出勤したい。汗の匂いが花の香りに変わる、エチケット香水買おうかなぁ。高いんだけど……。必死でしがみついていたら、先輩が視線を彷徨わせ、困った表情になる。


「普段、どんな匂いって……。言わなきゃだめか?」

「はい! もう想像がつかないので。すみません、汗臭いのに対策取ってなくて。すみません……」

「臭いって言ってないだろ? 別に。落ち着け。そうだなぁ、普段は甘い匂いがする」

「甘い匂いって? 菓子パンみたいな?」

「んー、もう少しまろやかな匂いだ。パンみたいな匂いじゃなくて、けど、花でもないな……」

「えー。じゃあ、どういう匂いなんですか? 教えてくださいよ」


 顎に手を当てて、黙り込んじゃった。複雑そうな顔をしながらもう一度、見下ろしてくる。周りの喧騒が気にならなくて、先輩の顔しか見えなかった。かっ、かっこいい。睫が長い、青灰色の瞳が綺麗……。


「カクテルとフルーツが混じったような匂いがする。ベリー系の」

「へえ、ベリー系! そうだ、私、リップクリームがベリー系なんですよ。だからですかね?」

「……かもな。じゃあ、行こう。店予約してあるし、遅れたらまずいだろ」

「それもそうですね。臭くなくて安心しました! でも、日によって臭うとか……」

「無い! フィオナはいつも甘い匂いがする」

「良かったあぁ~……。すみません、ついあれこれ聞いちゃって」

「本当にな」


 質問責めにされるの嫌だったのかも。ごめんなさい、先輩。気を取り直して、二人で見て回る。先輩が赤と金色の宝石があしらわれた王冠を見て、若干はしゃぎながら「すごいだろ? これ。ギラギラで」と言ってきたのが可愛くて眼福だった。珍しい、はしゃいでるの。


 さっき一人で見た絵や宝飾品を、丁寧に説明してくれるのも意外だった。先輩の感想を聞きつつ、色気が放出されてる綺麗な顔立ちを見て、美術品を眺める。先輩の顔と美術品を交互に見つめながら、堪能する休日って最高!! 見てると、魂がレベルアップするような気がしてきた……。心が洗われる。


「フィオナはこういう絵、好きそうだな」

「あっ、好きです! 大好き! 可愛いですよね~、ウサギちゃんのお妃様。確か初めてですよね? この時代、獣人が王室に入るのって」

「うん。思い切った試みだよな」


 ベージュ色のふわふわな毛並みが、ウサギちゃん用ドレスからはみ出ていて可愛い~。キラキラと光り輝く、澄んだグリーンのつぶらな瞳。緻密なレースとフリルがたっぷりついた花柄のドレス。耳は垂れていて、柔らかそうな毛に覆われていた。


 居室のソファーで寝そべっている時の絵で、可愛らしいんだけど、品の良さがあって素敵。この時代、獣人への差別が酷かったのに。きっと可愛いけど、芯の強い女性だったんだろうな。貴族のお姫様らしい、優雅さが漂ってる。


「可愛い~! この絵を旦那さんが描いているのもポイント高いです。もふもふしながらイチャつけるから、獣人って最高ですよね! いいなぁ、私も獣人と付き合ってみたーい」

「へー」

「本当にいないんですか? おすすめの男友達」

「いない。全員フィオナに合わなさそうだし、女ぐせが悪いからやめておけ」

「……類は友を呼ぶって言うじゃないですか。もしかして先輩も女ぐせが、」

「楽しいか? 俺を女好きにして。違うって言ってるだろうが! 周りがちゃらんぽらんだから、それに嫌気が差してるんだよ」

「あっ、はい。すみませんでした」


 急に機嫌が悪くなっちゃった。反省、反省。ウサギちゃんのお妃様こと、シャーロット妃の絵を二人で見て回る。可愛くて眼福だった。城の庭園にて、キリッとした顔つきで立っている絵や、可愛くはむはむと、夫のアルフレッド王弟殿下から、貰った野菜を食べている絵。侍女にブラッシングされて、心地良さそうにしている絵などが飾られていた。


 はー、可愛い。絵を通して、愛情が伝わってくる。どれもこれも、シャーロット妃の毛艶の良さを際立たせるために、頑張って描いてる感じ。暖色系の色が使われているからか、穏やかで、優しくて、見ているとほっこりする。


「……いいなぁ、愛されていて。いつか見つけられますかね!? 私も優しくて真面目で一途な男性を!」

「さあ、どうだろうなぁ。フィオナのことだから、地味な男と結婚しても上手くいかないんじゃないか?」

「先輩のいじわる~……。そこは嘘でもいいから、きっと見つかるぞって言うべきですよ!」

「は? なんで俺がそんなことを言わなくちゃいけないんだよ。嫌だ」

「えー、ノリが悪い!」

「……行くぞ。そろそろ出よう」

「はーい」


 先輩が私の手を掴んで、歩き出した。おわび!? 暴言のおわび? これって。まあ、いっか。ゆっくり休んで、友達に「誰か良い人いない?」って聞きまくって、紹介して貰って、とことん探してから結婚しよう。男を見る目が無いから、先輩にもアドバイスして貰おうかな……。すたすたと、振り返りもせずに歩いている。寂しい、顔が見れなくて寂しい! さっきとは大違い。はしゃいでて、嬉しそうだったのに。


「先輩! 寂しいからこっち向いてくださいよ、もー」

「……」

「何ですか、その微妙な表情は。あっ、来年か再来年には、結婚を前提に付き合える男性を探す予定なので、よろしくお願いします! アドバイスください、アドバイス」

「アドバイスか……」


 先輩が私の手を握り締めたまま、立ち止まる。展示室を出てすぐの廊下は、人がまばらで過ごしやすかった。暑いとか特に思ってなかったんだけど、こうして離れてみると、暑かったんだなぁって分かる。人の熱気って意外と重たい。中にいる時は気が付かないんだけどね。先輩が私の手を持ち上げて、見下ろした。不思議に思って首を傾げていると、無表情で言い放つ。


「真面目な男と付き合っても上手くいかないし、イケメンと付き合ったら浮気されるだろうな。以上」

「よっ、予言じゃなくてアドバイスを! 先輩、アドバイスをくださいよ、アドバイスを!!」

「無い。フィオナは誰と付き合っても、絶対に上手くいかない。ぽっと出の男に邪魔されるから」

「の、呪い……!?」










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