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魔術犯罪防止課のトラ男と面食い後輩ちゃんの推しごと  作者: 桐城シロウ
一章 私が自分史上最高のイケメンを見つけて、転職した話
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5.これからずっとずっと、定年までよろしくお願いします

 

 実は試験当日、緊張して何があったかよく覚えていない。でも、やたらと控え室? 的なところが綺麗で、良い匂いだったことは覚えてる。アロマの香りが漂ってた。それに、試験官の人達がみんなにこにこしていて優しかった。これが昇級試験になると厳しいらしい。特に一等級になるための試験だったら、めちゃくちゃ厳しくて、試験官全員が嫌がらせしてくると聞いて泣きそうになった。


「よっしゃああああ!! 受かった、行こう! 就職しに行こうっ、さぁ!」


 思わず叫んで、ガッツポーズをしてしまった。周囲の人達が驚いてたけど気にしない。というか大体、魔術師試験の合否を紙に書いて、張り出すってなにごと? そこは魔術を使って教えて欲しいところなんだけど、手間や人件費を考えた結果、張り出すことにしたらしい。迷惑! お金持ってるくせに。早速、魔術犯罪防止課の部長、メルメルさんに会いに行くべく、動いたところ、お兄様に腕を掴まれた。今日も紺色のスーツを着ていた。


「待て、どこに行く? 合格したんだし、これから祝杯を挙げに……」

「えーっ!? いちいちまどろっこしいこと言わないでくださいよ! 私はこれから部長に会いに行くんです」

「待ちなさい、フィオナ。約束を取り付けているわけじゃないんだし、今から行ったら迷惑だろう。それに、目の下のクマがひどいぞ? 寝てないんだろ?」

「そうですね。心配で心配で……でも、会いに行きます! 徹夜明けの勢いじゃないと出来ないことってあるんです! それじゃっ!」

「あっ、フィオナ!?」


 お兄様の腕を振り払って、駆け出した。ああ、早く会いたい! 先輩に。恋してるわけじゃないんだけど、恋してるわけじゃない分、この感情は厄介だ。どうしたって制御が出来ない、あなたの顔が見たい! 季節はすっかり春になっていて、暖かかった。花の香りが漂う、首都リオルネを走って走って、魔術犯罪防止課のドアを開ける。中にいた全員がこっちを振り返って、驚いた。とはいっても、数人しかいない。先輩もいない! でも、良かった~。おしゃれしてるわけじゃないし。一応黄色い小花柄ブラウスとデニムを着てるけど、ほぼほぼすっぴんだし。


「すっ、すみません、メ、メルメル部長はいますか!?」

「二度とあたしをその名前で呼ぶんじゃない、この小娘が!!」

「うわああああっ!?」


 いきなりピカッと、目の前が白く光った。少し遅れて、耳がつんざくような稲妻の音が轟き渡る。後ろのドアが焦げて、燃えていた。呆然と床に座り込んでいれば、深紅の制服をまとった、かなり逞しい体つきのおばあさんがやって来た。お、大きい……!! おばあさんなんて言ったら怒られそうだけど、筋肉ムキムキのおばあさんだ! でも、六十代ぐらいの女性かも。鋭くて青い瞳に、存在感のある鷲鼻。ぱさついた金髪を一つ結びにしていた。しかも、手には酒瓶を持っている。


 言葉が出てこなくて見上げていると、片手をすっと上げ、燃えているドアに向かって水を噴射した。振り返ってみると、もう鎮火している。


「それで? なんだい、あんたは。どっかで見たような顔だね」

「あっ、わ、私、アンソニー・ジェ二ソンの妹です!」

「妹ぉ? 妹だって? あんな唐変木(とうへんぼく)にこんな可愛い妹がいたとはね」

「かっ、可愛いだなんて、そんな! あの、メルメル部長ですよね!?」

「あたしのことはアレクサンドラとお呼び、今度から。じゃなきゃ、雷を落として殺してやる」

「部長、それはさすがにちょっと……」

「黙りな! あたしがそんなせこい犯罪に手を染めるとでも1? ルーカス!」

「おっしゃる通りですね、不要な心配でした。どうかお許しを」


 ふんっと鼻を鳴らして、「調子が良いね、相変わらず」と呟き、酒瓶に口をつける。と、とんでもないところに就職しようとしてるのかも、私……。アンソニーさんが躊躇していた理由がようやく分かった。でも、こんなことで挫けてはいられない! そう、あの美しく整った顔立ちをもう一度見るために、全力を振り絞って食らいつく! 私がよろめきつつ、立ち上がると、器用に片眉だけ上げた。


「アレクサンドラ部長、本当に本当に申し訳ありませんでした!! でも、私を雇って貰えませんか!? 魔術師資格は持っています!」

「なんだい、藪から棒に……。今、雷をぶつけられたばかりの人間とは思えない台詞だねえ」

「どうでもいいです、雷なんて! 私、私、ここに務めるヒュー・アディントンさんの顔が忘れられなくって!」

「「顔!?」」


 部署にいる全員の声が揃った。見てみると、何故かデスクの下に避難していた。顔だけひょっこり出している。さっき、助け船を出してくれた? ルーカスさんと目が合った。茶髪で甘めな顔立ちのイケメンだった。でも、女癖悪そう。


「そうなんです。命を助けて貰ったんですけど、殺されかけたことがどうでも良くなるぐらい、顔と体が私好みでっ」

「おいおい、やべえ新人がきちまったぞ……。前科は? あるのか?」

「見たところ無さそうだけどなぁ」

「分からねぇよ。男を二人や三人、刺し殺してるかもしれねぇ」

「刺し殺してませんっ! むしろ、刺し殺されそうになりました!」

「刺そうとしたことは……? お嬢さん」

「ルーカスさんでしたっけ? 浮気された時にありますけど、ちゃんと思い留まりましたよ!」


 そう言ったのに渋い顔をして、隣の男性と何やらひそひそ話を始めた。ひどい! まったく信用されてないじゃん、私! 小刻みに震えていると、アレクサンドラ部長が笑って、私のことを見下ろしてくる。


「いいね、気に入った。雇ってやる」

「ほっ、ほ、ほほ本当にですか!? ありがとうございます、やったあああああ!!」

「明日から来な。ヒューのバディになりたいんだろ?」

「なっ、なりたいです! それはもう、よだれが出るくらいに!」

「じゃあ、今日はさっさと帰って寝な。ひどい顔してるよ、あんた」

「す、すみません。徹夜明けなもので……良かったぁ」


 胸元を押さえ、ほっと息を吐き出せば、まるで祖母のような優しい表情を浮かべ、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。……嬉しいな。いきなり出会い頭で雷をぶっ飛ばしてきたけど、実は優しい人なのかもしれない。深々と頭を下げて、お礼を言っておく。


「ありがとうございます! それじゃあ、今日は帰りますね! 明日からどうぞよろしくお願いします」

「ああ、ちゃんと寝るんだよ。おやすみ」

「はぁーいっ! お疲れ様でした! お先に失礼しま~す」

「もう働いてる気分かよ……」


 誰かの呆れたような呟きを耳にしても、傷付かなかった。ああ、疲れた。帰ってぐっすり眠ろう。眠って、先輩に会いに行くんだ。翌日、びっくりするぐらい爽快に目覚めた。散々悩んだ末に、地味な紺色のスーツに腕を通し、センターへ向かう。


(ああ、何が何だか分からないけど、ようやく先輩のバディになれるんだ……。私、あの顔が毎日見れるんだ)


 低くて渋い声に、どうでも良さそうに私を見てくる、銀が散った青灰色の瞳。筋肉質の逞しい腕と長いまつげ、綺麗に整った手に、揺らめく銀色の尻尾。早く会いたいな、早く会いたい。意外と優しいってこと、もう知ってるから怖くない。きっと、私が会いに行っても、苦笑して受け入れてくれるはず……。


 でも、現実はそう甘くなかった。にやにやと笑いながら、私達を囲んでいる職員が見ている中で、はっきりと眉間にシワを寄せた。それに、どことなく顔色が悪い。つい「先輩、どうしましたか? 寝不足なんですか? 私はぐっすり眠ったんですけどね~、ははは!」と言いそうになっちゃった。


 でも、どこからどう見てもそんなこと言えるような雰囲気じゃない。がっつり二の腕を組んじゃってるし。私は祈るように手を合わせ、その顔を拝むしかなかった。ああっ、相変わらず素敵! 半月前と会った時と比べて、体重が三百グラムぐらい減っているように見えるけど、気のせいかな? あと、銀髪がちょっと短くなってる。切り揃えたのかもしれない。うっとり見つめていれば、ようやく口を開いた。


「……なんで、お前がここにいるんだ?」

「それはさっきも言いましたけど、新入社員だからです! ようやく会えましたね、先輩!」

「先輩って……どうして、そう言っているのかと思えば」

「えっ? 予告ですよ? もうすぐであなたの後輩になりますよという意味を込めて、偶然会った時に先輩と呼んでいました」

「怖っ!! そんな怖い予告、分かるわけねぇだろうが! 今すぐ帰れ!」

「嫌です! だって私、先輩の顔を拝むためだけに魔術師資格を取ったんですから!」

「えっ……」

「おい、聞いたか? 今の。やっべえぞ、この女。ぶっ飛んでやがる」

「だな」


 周りの男どもがひそひそと話し出した。でも、さっきから興味深そうな顔で見てくる、美少女感漂う可愛い女の子は、ぷるぷると震えながら、笑いをこらえていた。手、ほっそ! 色が白くて華奢で、耳の下で切り揃えられた薄い金髪に、きゅるんとした青い瞳。成人済みなんだろうけど、背が低くて華奢だからか、めちゃくちゃ美少女感が漂っていて可愛い……!! 見惚れていると、先輩が額を押さえ、低くうめいた。


「まさか、まさかとは思うが、本当に俺と会うためだけに……?」

「はいっ! これからずっとずっと、定年までよろしくお願いします! そうだ、年齢聞いてないんですけど、おいくつですか!? あと何年、先輩と一緒にいられますかね!?」

「もう定年の話をするなよ、うんざりだ!!」

「そっ、そう言わずに! 何歳ですか!?」


 私が飛びつけば、トラのようになった瞳を細める。ああ、綺麗。銀がゆるやかに混じっている、深い青灰色の瞳。心臓がばくばくと鳴り出した。周りが口笛を吹いて、冷やかしてくるけど、何も気にならない。先輩の蠱惑的で薄いくちびるしか目に入ってこない。深紅色の制服を握り締めている私の手を、意外や意外、かなり優しく押さえてきた。


「……二十九歳。それで? そっちは?」

「二十四歳です!」

「よし、帰れ。お前みたいなのが職場にいると安らげない。まあ、この職場で安らげたことなんて、ただの一度も無いんだが……」

「いいじゃん、いいじゃん! その子と一緒に仕事しなよ~! ヒューは堅物でクソつまんない真面目獣人なんだから、その子と一緒に仕事した方が断然いいって!」

「うるさい! 黙れ、ステラ」

「あの可愛い女の子、ステラちゃんっていうんですか……!? ぴったりのお名前! 可愛い~! ぜひお喋りしたいぃ~!!」

「ぜひしてこい。気が済んだら帰れ!」

「いや、帰りませんけど? なんなら、過労死寸前まで先輩と残業する覚悟で来たんですけど……?」

「怖いからやめろ、その目! あと、ここはそんなにブラックじゃない。どちらかというとホワイトだ」

「へ~、ならいいんですけど! こっ、こんにちは~!」

「どちらかというと、おはようだけどね~。おはよう! フィオナちゃんだっけ?」


 きゅるんとした表情を浮かべ、首を傾げた。かっ、可愛い~! 私好みの華奢で小柄で貧乳の美少女! 肌が白くてきめ細かくて、ついつい見惚れてしまう。まつげも長い~! 私がふらふらと亡霊のように歩み寄れば、にっこりと微笑んで、両手を出してきた。次の瞬間、がっちりと手を組む。


「フィオナ・ハートリーです! 分からないことがあったら教えてくれる!?」

「もっちろん! それで? 本当なの? あいつみたさに魔術師資格を取ったって!」

「本当、本当~! 元彼に刺されかけたところを助けて貰ってさ~! だってあの顔だよ!? もう一目惚れ不可避じゃん! あ、とはいっても好きじゃないんだけどね!? 恋愛的な意味で好きってわけじゃないの、中身はどうだっていいの、先輩の顔だけが好きなの~! 私!」

「えっ、そうなの!? どういうこと? もっと分かるように説明してよ、フィオナちゃん」

「えーっ? だってさ、先輩は女遊びしてそうな顔してるじゃん!? 分かってるんだけど、見た目通りの性格じゃないって」

「そうだよ。だってあいつ、酒飲めないもん。下戸だもん」

「えっ!?」

「何だよ? 文句あんのか」


 こっ、この見た目で下戸とか、美味しい要素でしかない!! え~、先輩、意外と純情なの? お酒飲めないだけで純情って決め付けるのはちゃんちゃらおかしいんだけど、本当に本当に!? やだ、期待してしまう。思っていたよりも一途で真面目で、堅物だったりして! ステラちゃんとがっちり、手ぇ握り締めたまま、振り返ってみると、すごく嫌そうな顔をしてたじろいだ。


「先輩って、今まで何人と付き合ってきたんですか!? まさかとは思いますが、童貞なんですか!?」

「嬉しそうな顔で言うことか!! 堂々とセクハラ発言すんな!」

「いだっ!?」


 ポケットに入っていたらしいボールペンを投げ付けられた。額にクリーンヒットした。私が額を押さえ、「痛いよ~」と呟いていれば、ステラちゃんが怒ってぷうっと頬を膨らませる。


「もーっ、最低! やめてあげなよ~」

「初対面のくせに、妙に意気投合しやがって……」

「フィオナちゃん? あいつのことで知りたいことがあれば、何でも教えてあげる! とは言っても、知ってる範囲でだけどね~」

「ス、ステラちゃん! ありがとううう!! 嬉しいっ!」


 感極まって抱き付くと、笑って抱き締め返してくれた。はーっ、甘い百合みたいな香りがする! ステラちゃん、可愛いし優しいし、ノリが良くて私にドン引きしなくて最高!


「ちなみに、あいつが今まで付き合ってきた人数は三人だよ~。意外と少ないよね? 見た目によらず! ぷぷぷぷ」

「やめろ。教えるんじゃない、不愉快だ」

「はぁ? これぐらいでけちけち言わないでよ。だから、振られたんでしょ? 自分でも酔って、そう言ってたくせにな~」

「……お前に話すんじゃなかった」

「せ、先輩! ぜひ失恋エピソード教えてください! 暗記しますっ!」

「暗記してどうするんだ、お前は」

「それが楽しいんですよ~! これからは先輩のバディとして、毎日推し活を楽しみます。写真もバシャバシャいっぱい撮りまくります!!」

「迷惑だからやめろ、帰れ。それに、バディならもうすでにいる。なぁ、ルカ?」


 先輩が面倒くさそうな顔をして、後ろを振り返った。しかし、ルカと呼ばれた眼帯をしている男性が笑いながら、同じく、面白そうに笑っている男性の肩に腕を回す。


「いやいや、俺は今日からここのコンビと一緒に仕事するよ! ヒューはそのやっべえ新人の女の子と付き合えばいい。その方が楽しそうだろ? ん?」

「おい、早速裏切りやがって!」

「先輩……」

「げっ」


 によによ笑ってるステラちゃんから離れ、先輩の下へ行く。周囲の興奮はピークに達していて、騒がしかった。やんややんやと、はやし立ててくる。でも、気にならなかった。耳に入ってこない。先輩の嫌そうな、でも、ちょっとだけ怯えている顔がたまらなく良すぎて!! 目の前で立ち止まると、息を呑み込み、軽く顎を引いた。この顔を、網膜に焼き付けて生きていく。もうずっとずっと、一生そうしていたい!! あまりにも理想的な顔立ちすぎて、付き合うとか考えられない。手の届かない男性でいて欲しい。リアルさにまみれて欲しくない。付き合って嫌なところを見るぐらいなら、一番近い場所で、良いところだけを見て無責任に騒いでいたい!


「ねえ、ヒュー先輩! 今日から私のバディになって、一緒に定年まで働きませんか!?」

「断る! 今すぐやめてくれないか? 頼む……。正直言って、めちゃくちゃ怖いんだよ。お前、魔術師じゃなかったんだろ? それなのに資格を取るとか、」

「今すぐバディになるのを受け入れますか? はーいっ!」

「なっ!? おい!」


 私がふざけて手を掴み、思いっきりぶんっと持ち上げてみると、耐え切れずに笑った。そのままの勢いで、ハイタッチしてみる。あの日と同じように、小気味良くぱんっと、音が響き渡った。


「しょうがねぇな。じゃあ、いびって追い出してやる!」

「ふふふ、そうはいきませんよ! これから定年までよろしくお願いします、先輩!」

「いちいち定年までって言うのやめろ、怖いから」

「え? 転職してもついて行きますよって言えばいいですか?」

「逃げ場がねえな、これ……」






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