25.ずっと喋ってて、暴走しがちで、デリカシーが無い男
先輩の様子がちょっとおかしい。先輩がおかしいのは今になって始まった話じゃないけど、でも、今日はいつもよりおかしい。やっぱあれかなー、顔を溶かされかけたの気にしてるのかなぁ。心配いらないのに、無事だったから。一緒にお昼ご飯食べる気満々で、センターの廊下を歩く先輩を振り返ってみると、静かに見下ろされた。私が見る前に見ていた感じ。
「あの、先輩? 今日はお昼ご飯、一人で食べてきますね……」
「分かった。一人でか? 珍しいな」
「た、たまには静かに食べたい日だってありますよ!」
「へーえ?」
「ぜんっぜん信じてないでしょ!? じゃ、じゃあ、行ってきます」
「おう、気をつけて」
「はい」
気をつけてって、何に? ここはセンターだし、昼間だし、何も無いと思うんだけど……。言ってたらきりがないから逃げる。たまには自分で作ったお弁当を食べないと、金欠になっちゃうんだよー! 先輩のことだから、言ったら奢ってくれそうなんだけど、やめよう、やめよう。たかりたくはない。
大体、私がもうちょっと物欲をコントロール出来たら、お昼ご飯くらい、毎日みんなと一緒に食べられるんだけどね。はははは、買っちゃった。バッグと服。自分へのご褒美にって買ってたら、きりがないのは分かってるんだけど、やめられない。ロッカールームに戻って、小さなトートバッグを取り出す。
透明な光が射し込むセンターの廊下は、閑散としていた。お昼時と夕方は誰もいなくなる。まあ、普段でもあんまり人がいないんだけど。広すぎじゃない? このセンター。縦長のクラシカルな窓を覗きこめば、ちょうど良さそうな木陰とベンチが見えた。
(よし、あそこにしよう。木の近くは人気ありそうなんだけど、誰もいないな~。あ、みんなお金持ってるからか。わざわざお弁当作って、庭で食べようって考える人いなさそう)
お嬢様とボンボンの集まりだもんね。ちょっとだけやさぐれた気持ちで歩き、階段を降りて中庭へ向かう。誰も入ってこれない特別な庭に行ってもいいんだけど、今日は人の気配を感じながら食べたい気分。ふっふっふ、アンドリュー君に貰ったブルーベリージャムのサンドイッチ、楽しみ!
ありがとう、アンドリュー君。服を買いすぎて、金欠になっちゃった私の心を潤してくれるジャムだよ……。神に供物を捧げるがごとく、トートバッグを両手に載せて歩いていれば、私の美女センサーが反応した。芝生の上で足を止める。気持ち悪いって思われるかもしれないから、誰にも言ってないんだけど、私には美女センサーも搭載されている。
(……今日は陽射しが強くて、それなりに暑い。美女は陽射しを避けるから、ええっと)
このまま芝生を進んでいったら会えるのかもしれないけど、出来たら木陰から覗きたい。ありがとう、神様。面食いの私にこんな素晴らしい祝福を授けてくださって……。忍び足で、そろそろと芝生の上を進む。三階の窓から見た時、ベンチには誰もいなかった。窓からよく見えるところだし、美女は人目を避けたいのかもしれない。
つまり? そう、奥の木陰にいるのかも! ここの中庭、広くて探検しきれてないんだよね~。上から見た時、大きな木と噴水、植え込みとベンチだけあるように見えるんだけど、何だっけ? 先輩が植え込みの奥にベンチがあるって言っていたような気が。
ふと、木々の間にある小道に目が吸い寄せられた。うん、こっちから美女の気配がするかも!! 自分でもなんで分かるのか分からない。でも、いつも歩いていった先には、美女が待ち構えている。小道に足を踏み入れてみると、涼しい風が吹き渡った。木陰が揺れ動き、葉の隙間から陽射しがこぼれ落ちる。あー、気持ちが良い。過ごしやすい良い天気。
小道には大きさが違う、グレーとベージュの石が敷き詰められていた。なんか、植物園? 散策路? に足を踏み入れた気分。歩けば、植え込みから蝶が飛び出してくる。グリーンの蝶がひらひらと舞って、私の肩に止まったあと、すぐに離れていった。視線で蝶を辿っていると、道の先が明るくなっていた。
(あれ? もう道が終わっちゃうの? じゃあ、もしかしてこの先には)
明るい道の先を覗き込んでみれば、青々とした芝生が広がっていた。よく手入れされた花壇と低木のそばに、ベンチが置いてある。予想通り、美女が木陰の下でサンドイッチを食べてた。白くてきめ細やかな肌に、大きな紫色の瞳。ゆるやかに波打った黒髪は艶がみなぎっていて、光り輝いている。うわっ、うわわわわ~、綺麗……。深い青色の制服がよく似合ってて上品!
(ふぉうおわおぅ~……ん? もしかしてあの美人さん、この間トイレで見かけた人かな)
あっ、そうだそうだ。なんか見たことがあると思ったら! 私の理想の美人さん。胸があって、色気があるのに品が良い~。えええええ、どうしよう。もうこれは、もうこれは声をかけるしかないんじゃない!? ナンパするしかないよね。
えー、でも、どうしよう、緊張する。はああああ、それにしても可愛い。永遠に見てられる、すごい。伏せられた睫の美しさ、憂いを帯びた表情、ぷっくりとしたさくらんぼ色のくちびる。手首と腰の細さが素晴らしい。
(同じデザインの制服を着てるのに、この差……!! 華奢で小柄なところが推せる、どうしよ~。イケメンになら躊躇なく声をかけられるのになぁ。美女に話しかける時、いっつも緊張しちゃう!!)
イケメンを逆ナンするのは簡単でも、美女をナンパするのは難しい。連絡先交換したいな~、一緒にお昼ご飯食べたいな~。も、もう、このまま何食わぬ顔をして、歩いていって「隣に座ってもいいですか?」って聞きたい。もう無理やり隣に座ってしまいたい。話しかけたい、いっぱい喋りたい!! しぶしぶ、木陰から覗くだけにする。待って、気配を悟られたら嫌だ。ス、ステルス、ステルス機能が搭載できる魔術があったよね? 確か。
(こういう時だけ、さっと術語が思い浮かぶのが私~! えいっ!)
完璧に成功した、多分。ああ、可愛い。どうしよっかな~、声かけちゃおうかな。誰もいないからか、けっこうサンドイッチ頬張ってる。頬が膨らんでて可愛い~、森の子リスちゃんみたい。でも、お上品。私だったら股を広げて、べーんってくつろぎながら食べちゃうよ。
膝と膝の間に隙間がなくて、ぴったり閉じてる。背筋も伸びていて綺麗。うわ~、どうしよう。声かけちゃう? どうしよう……。ふいに後ろから肩を叩かれた。びっくりしすぎて、体が飛び跳ねる。
「うわあああっ!? だっ、れ、えっ!?」
「怪しい。一体何してるんだよ、ここで」
「あ、え……」
背が高い。見上げると、首が痛くなりそうだった。冷ややかに睨みつけてくる薄茶色の瞳に、肩口まである赤髪。ざっくり後ろでまとめてるみたいで、ぼさっとしていた。美人さんと同じ青い制服を着てる。かなりのイケメンなんだけど、殺気がすごい。ま、まあ、私が不審者っぽい動きをしてたのが悪いんだけど! じりじりと後ろへ下がれば、強く睨みつけてきて、取った距離の分だけ詰め寄ってくる。意味ない!!
「さては、アーノルドのファンだろ? 残念だったな、俺がいて」
「えっ、だ、れの、アーノルド様の? ち、違う違う! 会ったこと、見たこともないのに?」
「はあ!? アーノルド様って呼んでおいて、よくもまあ、そんな嘘が吐けたな」
「あっ、あだ名みたいなもんじゃん!? だっ、大体、美女を覗き見してただけで、こんな風に詰め寄られるのはちょっと、おかしいんじゃないかって……」
怖い。鳥肌が立つほどの殺気を感じる。なんで? いくらステルス機能が搭載できる魔術を使ってたからって、こんな……。急に相手が訝しげな表情を浮かべる。あ、ちょっとは落ち着いてくれた? せ、説明しなくちゃ、不審者じゃないって。後ろへ下がれば、うっかり小枝を踏んじゃって、バキッと音が鳴り響いた。
「ど、どなたですか? 私はただ単に、理想の美女を見つけたから観察してただけです!」
「怪しすぎるだろ! 本当か!? 確かにレイラちゃんは息が止まるほどの美人だけど」
「分かる。見た瞬間、息が止まった」
「だろ? ……さてはお前、嘘を吐いて逃げようとしてるんだな?」
「に、逃げようとなんか」
怖い怖い。でも、確かに私、怪しいよね!? えーっと、何をどう言えば、信じて貰えるんだろう……。焦って後ろを振り返った瞬間、肩を掴まれた。痛い、力が強い。視線を前に戻せば、怒りに満ちた表情で睨みつけられる。こ、怖い怖い、先輩……。
「だっ、あや、怪しいのは分かります! でも、本当に本当に、私好みの美女を観察していただけなんです!! 物陰からこっそりと」
「怪しすぎる! もうちょいマシな嘘を吐けよ。どうせアーノルドのファンなんだろ? 残念だったな、俺に阻止されて」
「そ、阻止?」
「うん。どうせレイラちゃんの顔を傷付けたり、呪おうとしてたんだろ?」
「はっ、はあ!? あんな美女の顔を私が傷付ける!? なっ、なんっにも分かってない!! するわけないじゃないですか、筋金入りの面食いであるこの私が!」
「面食い……?」
殺気を消して、急に戸惑った表情になる。あ、幼い。この人、悪気は無いのかも? 思い込みで行動しがちなだけで、話せば分かってくれる人なのかもしれない。一歩足を踏み出せば、怯んで下がった。なんで? さっきまでの勢いはどこにいったの? 思わず胸ぐらを掴み、揺さぶる。
「いいですか!? 私は魔術を使ってあの美女を覗き見していただけです! かっ、顔を傷付けようだなんて微塵も思ってませんからね!? 美人とイケメンは私にとって宝石なんです! 分かりますか!?」
「えっ、ごめん。ぜんぜん分かんない。俺にとって、生けし輝く宝石はレイラちゃんだけだから」
「わ、分かる~……!! そう言っちゃうのも。とっ、とにかく、私は違いますからね!? きゅ、急に詰め寄ってきて、私のことを脅したりして!」
「脅してはいないだろ!? むしろ俺が脅されてる方だよ! 胸ぐら掴まれてるし」
渋い表情で私の手を掴んできた。ぜんっぜん分かってない、こいつ!! 大抵のイケメンは優しくて、ちゃんとしてるのに、まるで分かってない。
「だって、怖かったんだもん! 分かってないでしょ、絶対! ああいう風に詰め寄られたら怖いんだって! 初対面でああいうことするの、おかしいと思う」
「じゃあ、手を離せよ! そっちの方がおかしいって。俺は胸ぐらなんて掴んでないけど、あんたは掴んでるじゃん。俺は何も悪くないし、ただ質問しただけだし」
「はあ!?」
キレそうになった瞬間、涼やかな甘い声が響いた。私を制するようにとんとんと、優しく肩を叩いてくる。
「あの、どうなさったんですか? もしかして、私の夫が何かご迷惑を?」
「夫!? これが!?」
「いいから離せって。あと、これ扱いするなよ……。魔術を使ってまで、覗き見してたのどうかと思う。おかしいと思う。街中だったら職質されるレベルだからね」
「えっ」
マジで? 職質されちゃうの? 焦って手を離したら、ふーっと溜め息を吐きながら、自分の襟元に指を突っ込む。やめてくれない? そのいかにも厄介な女に絡まれて困ってます、って表情は! そっちじゃん、先に喧嘩売ってきたのは。デリカシーが無くて嫌なやつ~……。私と男が睨み合っていれば、困惑して、美女が割って入ってきた。甘くて良い香りがふんわり漂う。わああ、美人。困った表情が綺麗。吸い込まれそうな、紫色の大きな瞳。
「エディさんに聞いても無駄でしょうから、あなたに聞きますね。何があったんですか?」
「えっ、レイラちゃん? 俺に聞いてくれた方が確実、」
「私が魔術を使って、物陰から理想の美人さんであるあなたを覗き見してたら、怪しいやつだって言って、急に詰め寄ってきたんですよ! 酷くないですか!?」
「うーん……。その話だけ聞いていたら、どっちもどっちですね。ちょっと待ってください。理想の、美人さん?」
「こいつがわる、」
「はい!! あなたの外見が本当に本当にタイプで! あっ、変な意味じゃないですからね!? 同性愛者じゃないので。ただ、美人とイケメンが好きな面食いなだけです。分かって貰えますか!?」
「は、はい……。あの、手が」
ついうっかり握っちゃった。す、すべすべ、すべすべ! 手触りがあまりにも良くて撫でていると、エディさんと呼ばれていた男が私の手を叩き落とす。いった! もうちょい手加減して欲しいのに。初対面だよ? 分かってる?
「よーし、この変態女は警察に突き出そう。俺のレイラちゃんの手を勝手に撫でたあげく、覗き見までしやがって! 許せない」
「はっ!?」
「しませんよ、そんなこと。安心してくださいね。エディさんには過激なところがあって、スルーして頂けると嬉しいのですが……。んー、でも、知ってますよね?」
「な、何を?」
「あれ、もしかして俺のこと知らない? へー、そんな人もいるんだ」
「ん?」
有名人なんだ? 来たばかりだからまったく知らない。というか、ほぼほぼ街中にいるし、センターがどういう構造なのかもいまいち分かってないんだよね。戸惑っていれば、二人が顔を見合わせる。確かにカップルにしては浮ついたところがないし、夫婦っぽい。首を傾げていれば、レイラちゃんと呼ばれている美人がこっちを見た。可愛い~、凛としてる。澄んだ紫色の瞳が印象的。
「とにかくも、すみませんでした。アーノルド様の過激なファンに狙われることが多くって、それでエディさんがいちいちバカみたいに反応しちゃうんです」
「レイラちゃん、バカって……」
「事実でしょうが」
「いてっ!?」
肩に回された手を、レイラちゃんが思いっきり叩き落とす。あれ、けっこう気が強い……? でも、そんなところも好き! は~、いいなぁ。連絡先交換したいなぁ。一緒にお昼ご飯食べたい。しょぼくれて、ごめんなさいと謝ってるエディを冷たく睨みつけていた。勇気を出してトートバッグを見せつければ、レイラちゃんがこっちを向く。
「あっ、あの、一緒にお昼ご飯食べませんか!? あと、連絡先交換して貰えませんか!?」
「絶対反対、だめ!!」
「なんで!? 心狭すぎじゃない!?」
「どこの馬の骨かも分からないような女をレイラちゃんに近付けたくない!! あと、俺だけだから! レイラちゃんと一緒にお昼ご飯を食べていいのは俺だけだから!」
「えーっ、いいじゃん、別に! 毎日毎日イチャイチャしてるんでしょ? 少しぐらい、私に譲ってくれたって」
「絶対にやだ!! そりゃ確かに毎日イチャイチャしてるけどさ、レイラちゃんに鬱陶しいって言われて拒絶される時だってあるし、最近は休みの日に誰かと出かけちゃうし、ずーっと一緒ってわけじゃないから、レイラちゃんと一緒にいられる貴重な甘い時間を少しでも削りたくない、嫌だ!」
「そこを何とか!」
「うるせえ、黙れ! 図々しいクソ女!」
「ええっ!?」
なにこの人、信じられない! ちょっとぐらい、譲ってくれたっていいのに。私がエディとかいう幼稚な男と睨み合っていれば、レイラちゃんが溜め息を吐いた。頭が痛いのか、額を押さえている。
「二人とも、落ち着いてください……。面倒臭くなってきたので、三人で食べましょうか」
「そんな! 俺と二人で食べよう!? その約束だったよね!?」
「じゃあ、えーっと、あれ? そういえば、まだお名前伺ってませんよね。なんてお名前ですか? 私はレイラ・ハルフォードと申します」
じょ、じょじょ上品!! すごい、綺麗。よだれが出そうになった。胸元に手を当てて、にっこり微笑んでいる。お嬢様だ~、すごい。私が満面の笑みを浮かべたら、ふっと頬を緩め、はにかんだ。可愛い、天使!
「可愛いいい~……!! ご丁寧にありがとうございます。私はフィオナ・ハートリーっていいます!」
「ハートリー? なんか、聞いたことがあるような」
「き、気のせいじゃないですかね!? ふふふっ、ふっ、普通の家ですし!!」
「どもりすぎ。ん~? 怪しいなぁ」
「怪しいって……」
あー、しまった。良いところのお嬢様なのかも。ステラちゃんはかろうじて知らないみたいなんだけど、レイラちゃんは知ってるのかな。まあ、知られたところでどうってことは無いけど。んんん、でも、お父さんに今の職場、知られるのは嫌だなぁ。お兄ちゃん二人が知らせてる可能性はあるけど、仲が冷え切っているし、というかドライ? ドライな関係性だから、大丈夫だとは思うんだけど。最悪、センターの正面玄関にお父さんが出没する事態に……。
(関わらない方がいいのかな。このまま、仲良くならずに立ち去る方が)
しまった、油断してた。名家のお嬢様やボンボンが就職するような場所だって、知ってたのに。ぶっちゃけそこまで顔広くないでしょと思ってたんだけど、やっぱり広いんだ~……。遠い親戚とかじゃなきゃいいんだけど、分かんないな、どうかな。
私の表情が曇ったのを見て、レイラちゃんが悲しそうな表情になる。エディは小声で「どっか行け、どっか行け!」って、おもちゃを取られそうになってる子どものような表情を浮かべつつ、言ってきた。幼稚すぎる!
「えっと、ごめんなさい。邪魔しちゃって」
「うん、本当に。二度と俺のレイラちゃんに近付かないで欲しい。ぐっ!?」
「気にしないでください。良かったら、私と二人で食べませんか? 詳しい話は聞きませんから。詮索しちゃってすみません」
「レ、レイラちゃん……!!」
「えええええーっ、俺は!? ねえ、俺は!? レイラちゃん、俺は!? しれっと二人だけで食べることになっちゃってるけど!?」
「静かに出来るのなら、ここにいてもいいですよ」
「えええええ……今日は、今日は嫌な日だ。こんな目障りな虫がレイラちゃんにつくなんて」
「虫って! 失礼じゃない!?」
結局、三人で食べることになった。へっへっへ、嬉しい! 私が笑顔で甘酸っぱいブルーベリージャムサンドを頬張っていれば、エディが不満そうな表情で睨みつけてくる。もー、どれだけ嫉妬深いんだか。でも、気にならなーい。理想の美女と一緒にご飯が食べられる!
「まだ来て日が浅いんですね。どうりで……」
「ふぁい。レイラひゃん、エディふんってほんなにひゅうめいひんなの?」
「っふ、ふふ、食べてから喋ってください。分かりませんから」
「汚ぇなぁ、もう。黙って食え、黙って!」
「エディさんだって、口の中にぱんぱんに詰め込んで喋るじゃないですか」
「忘れた! ここまで下品じゃないから、俺。ちゃんと相手に伝わるように喋ってるし!」
うわぁ、言ってることがめちゃくちゃだよ、この人。ずっと喋っててうるさいし、人の話に割って入ってくるし、デリカシーが無いし、思ったことを何でも喋るから嫌だ。レイラちゃんの隣に座ってるエディを睨みつけていれば、ギリギリと歯を食い縛って、睨み返してきた。大人げない!
「レイラちゃん、どうしてこんなにうるさくて幼稚な人と結婚しちゃったの!? 絶対絶対、他にもっと良い人いたでしょ!?」
「はああ!? さっきから口の中に食いもん突っ込んで、喋る人に言われたくないんですけど!? 大体、うるさいのはそっちだろ? ずぅーっと、さっきから喋りまくってるし」
「エディ君ほどじゃないからね!? 私! うるさいのはそっちでしょ。しかも、ずぅーっとずぅーっと睨みつけてくるし。大人げないんだって! 子ども?」
「いやいやいや、フィオナさんほどじゃないから。嫌味ったらしい言い方、やめて欲しいんだけど?」
レイラちゃんに怒られたからか、しぶしぶ、私の名前にさんを付けて呼ぶ。あー、もー、ここまで気が合わない人って珍しい。大抵の人とは仲良く喋れるのに。私とエディ君が睨み合っていれば、真ん中にいるレイラちゃんがくすりと笑った。
「ふふ、エディさんに似てる女性に初めて会いました。あとで連絡先、交換しましょうね」
「えーっ!? ろくでもないって、こいつ! 似てないと思うんだけどなぁ。俺、こんなにうるさくないもん。もっとお上品だもん」
「ええええっ? 私の方が品良いでしょ! だって、チンピラみたいに強く睨みつけたりしないし」
「チンピラみたいだって? 思ったこと何でも口にするなよ、デリカシー無いなぁ」
「どっちもどっちですよね。ふふふっ」
「「ええええええ~……!?」」
あ、声が揃った。微妙な顔でお互い見つめ合っていると、レイラちゃんが品の良い微笑みを浮かべる。
「さ、食べましょうか。もうそろそろお昼休憩、終わっちゃいますよ。エディさんは? 本当に一口もいらないんですか?」
「うん、パスしとく。まだ胃が気持ち悪くてさ……」
「どうせ食べ過ぎたんでしょ? だから何も食べてないんだ、へー」
「うるさいなぁ、もう。そっちだって、食べ過ぎて胃が気持ち悪くなることぐらい、あるだろ?」
「無いから。私はちゃんと自分の胃の容量、分かってるから!」
「へー、どうだか。怪しい」
「なに? 疑ってかかるのやめてよ、鬱陶しい」
「は? 怪しいって言っただけじゃん、大げさ」
レイラちゃんがぽつりと、「同族嫌悪ですね」って呟いた。何も言う気が無くなった。静かになる私達を見て、レイラちゃんだけがおかしそうに笑っていた。同族嫌悪じゃないと思うんだけどなぁ……。




